同室の竜崎が怪我をしたと伝言を聞き、保健室の川口からは部屋でのサポートを言いつけられる。竜崎の左足首はぐるぐるに包帯が巻かれ、固定されていた。
「ぴかりーん。だいじょーぶ?」
「別に大した事ない。騒ぐな、やかましい。」
竜崎と春哉のやり取りを聞いて頭上で小さく笑ったのは柳だ。綺麗な人だし、竜崎がここ最近話題に出すから、彼のことはとても身近に感じる。けれど面と向かって会うのは初めてだ。
「ぴかりん、捻挫?」
「捻挫。自分でやったんだよ。」
「カッコわるーい。」
「うるせぇ。」
心なしか、普段より竜崎に覇気がない気がする。隣りにいる柳の様子を窺っているというか、遠慮しているというか、大きな身体をひっそりさせているのが面白かった。
「俺が急に横から手出したから驚かせたみたい。」
「いや、別に隆一が悪いわけじゃないって。俺の不注意だから。」
なんだか竜崎が変だ。妙に良い人ぶっている気がして、春哉のセンサーが反応する。柳のことを意識しているのは明らかだ。
「ぴかりん、部屋までおんぶしようか。」
「出来るわけねぇだろ。おまえ、体格差わかってんのか。」
名案を呆れたようにバッサリ斬った竜崎より、微かに顔を顰めてみせた柳の方が春哉は気になった。
「俺が肩貸すからいいよ。」
「いや、一人で歩けるって。」
「いいから掴まって。」
聡くはないから柳が不快感を示した真意はわからなかったが、春哉の事を彼が邪険に思っていることだけは気配で感じ取ってしまう。
「夕飯、迎えにいくよ。」
「いや、ホント、大丈夫だって。」
「階段で落ちたら、大惨事だよ。迎えにいくから。」
二人の様子を傍観していた春哉は、鈍い竜崎に痺れを切らす。
柳は気を使って世話を申し出てくれているわけではない。彼自らの意思で世話をしたいと望んでいるのだ。春哉はそう確信した。
そして春哉に敵意を見せる理由なんて一つしかないではないかと閃いて内心盛り上がる。
「春哉、なんでバタバタ足踏みしてんだよ。」
「えッ、あ、ううん。ちょっとソワソワしちゃっただけ。」
心の内に留めているつもりが、どうやら落ち着きのない足は無意識に動いていたらしい。柳の刺すような視線に凍り付きそうになりながら、春哉は後ろ向きに小さくスキップして保健室からの脱出を図る。
「部活行ってくるね!」
「ちょッ……」
「やなぎんいるから大丈夫でしょー?」
お邪魔なようだから、不穏な空気をこれ以上を呼び寄せないよう、早く退散するに限る。竜崎が柳の視線に気付いていない様子が若干気になるが、細かいことは春哉の及ぶところではないから深く考えるだけ時間の無駄だ。
「ぴかりん、今日はやなぎんと寝れば?」
「はぁ!?」
「俺、やなぎんの部屋に行く。ぴかりんの足が治るまで交換しよ!」
竜崎と柳が驚いた顔で春哉を見る。しかし静観していた川口が今日ばかりは加勢してくれた。
「小塚が同室だとかえって面倒事が増えて、怪我が悪化するかもしれないからな。」
「そうそう。」
「小塚、威張るな。」
川口に睨まれて、春哉は足早に廊下へ逃げる。柳が本気にせず部屋へ来る様子がなければ、夕飯後押し掛けてしまえばいい話だ。焦った顔をしながら満更でもない竜崎の顔を思い出し、階段を駆け下りながら、春哉は楽しい予感に胸を躍らせた。
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朝霧とおる