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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園「三人の少し前」3

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新緑の楽園「三人の少し前」3

同室の竜崎に落ち着きがない。浮ついているのは春哉の特権であるはずなのに、今日の竜崎は様子がおかしかった。勉強机に向かったかと思えば溜息をついていたり、意味もなく立ったり座ったりを繰り返している。

「ぴかりん」

「……んあぁ?」

普段よりワンテンポ遅い返事を聞いて、春哉は内心首を傾げる。

「ぴかりん、ムラムラしてる?」

「ッ……してねぇよ。おまえと一緒にすんな。」

心当たりなんて、欲求不満くらいしかない。呆れた声で否定しつつも、竜崎の目が泳いで言葉に覇気がないので、察しの悪い自分でも珍しく言い当てることができたのではないかと思って、春哉は浮かれた。

「お風呂でしてくれば?」

勉強はちっとも捗らないので、椅子に座ったまま足でフローリングの床を蹴ってクルクル回り出す。竜崎は鬱陶しそうな顔で春哉を一瞥すると、気まずそうに反論してきた。

「だから違うっつうの。」

「じゃあ何でムラムラしてるの?」

「一旦、ムラムラから離れろ。」

再び吐き出された竜崎の溜息は大きかった。溜息に色があるとするなら、ピンクとブルーが複雑に絡んだ溜息だろう。歯切れの悪い竜崎が物珍しくて、つい掘り下げたくなる。しかし調子に乗って攻め立てて油断した隙に倍返しされたら大惨事だ。追及したい気持ちをグッと堪えて、春哉は竜崎の横顔を盗み見る。

「おまえさ……。」

「ん?」

「やっぱ、いいや。おまえに言ったら変な事になりそう。」

「え? ぴかりん、気になる!!」

本当に竜崎はどうしてしまったのだろう。彼が言い淀むなんて気味が悪い。

「ぴかりん、何?」

「何でもない。忘れろ。」

「忘れられないよぉー。」

「うるせぇ!」

意味深な事をしたのは竜崎の方だというのに、怒鳴り返される理不尽さに、春哉は果敢に抗議する。しかし大きな手で頬を抓られ、強制的に問題集の開いてある机に向かわされると、戦意が急激に落ちていった。サボってどやされるのは毎度の事だが、今回の期末試験は進級に関わる重要な試験であることを思い出したのだ。

「てめぇ、一時間以上座ってて、一問も解いてねぇじゃねぇか。」

「だって、わかんないんだもん!!」

「威張るな。」

大雑把そうな見た目と違って、竜崎はわりとマメで面倒見がいい。同室の上級生が彼でなかったら、テストのたびに机の前で屍と化していただろう。

勉強が苦手なことには違いないのだが、竜崎に追い立てられ騒ぎながら机に向かう時間は嫌いではない。

「ぴかりん、コレ、どういう意味?」

「ったく……。教科書のココは意味わかるか?」

「わかんなーい。」

大きな手が少し窮屈そうに細いシャープペンシルを握る。真面目な性格を発揮して説明を始めた竜崎の眉間には皺が刻まれていた。鋭い眼差しが、春哉の受講態度を見定めるように睨んでくる。

ちらりと時計の針に目をやると、あと三十分もすれば消灯時刻。少しの辛抱だと自分に言い聞かせて、意味不明な記号の羅列にしか見えない数式と睨めっこした。









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