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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園「三人の少し前」2

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新緑の楽園「三人の少し前」2

常にクラスの中心にいる奴って暑苦しい。けれど光の印象は少し違う。粋がっている様子はなくて、自然体だからかもしれない。考えている事がすぐ顔に出てしまって、思い切り破顔するその笑顔に、嘘は欠片も混じらない。すぐにその姿を目で追い掛けたくなる。その衝動にせつなさが込み上げてくるから、教室では本の世界に没頭する。

真っすぐで可愛い。隆一が光に抱く想いは入学当時から変わらない。光に裏表がない証拠であり、彼がのびのびと泉ノ森での生活を謳歌している証だ。

しかし大柄で凛々しい印象のある彼を、可愛いと思って眺めているのは、同級生の中でも隆一だけだろう。同じ男として可愛いと思える見た目とは程遠い。それでも隆一が光に可愛いという印象を抱くのは、彼の恋心が仕草や言葉の端々から透けて見えるから。良くも悪くも光は素直で隠し事ができない。

「でも、違うんだよね。」

光は違う。隆一に向けてくる視線や言動に恋慕があることは確かだが、彼は自分とは違う。男だけに欲情する自分とは一線を画す。今はその恋心が本物だとしても、男ばかりという特殊な環境だからこそ見える幻で、泉ノ森という狭い世界から脱してしまったら、きっとその魔法は解けてしまうに違いないのだ。

自分が彼に寄せる想いが膨れ、期待が大きくなればなるほど、夢から醒めた後が怖い。だから今日も光の見せてくる好意に気付かぬフリをして微笑む。

「俺、図書室寄った後行くから。先、行ってて。」

あからさまにガッカリ肩を落とす光に、優越感と罪悪感が同時に湧いてくる。ずっと好きでいてくれと望むんでいるくせに、近付くつもりなどないのだ。つくづく性格が悪いと思いながら、今日も恋い慕う眼差しを向けてくれることに自分の存在意義を感じてしまう。

光の視線を背中で受け止めながら、振り返ることなく図書室へ向かう。嘘を嘘で終わらせないためには行くしかない。もうすぐ手元にある本も読み終えるから、次の暇潰しを探すために向かうことにしよう。

「生徒会か……。」

騒がしい廊下で、隆一の呟きは掻き消される。頭の中でもう一度言葉を反芻して、隆一は複雑な気分になった。

泉ノ森の生徒会はあらゆる行事に関して権限を持つし、全寮制でもあることから生徒たちの生活面における影響力もある。任される雑務は生徒たちの学校生活全般に直接関わるため、お飾り生徒会ではないのだ。

光との接点が増えることは少し気が重い。その反面、もう一人の自分は喜んでいる。近付きたい。けれど光に寄せる想いは秘めたままにしたい。青春時代の淡い恋、良い思い出で済ませるためには、隠し通すことが一番だ。

クラスメイトに好奇の目で見られたり、憐みを持たれたり、そんな事は自分にとって些細な事だ。けれど光にだけは軽蔑されたくない。いつか夢から醒めて疎まれることが怖い。それなら最初から何もない方が幸せだと隆一は信じていた。

図書室のカウンターを通り過ぎ、古典文学のエリアに足を踏み入れる。手に取ったのは華々しい恋の遍歴が織られた例の長編作だ。光と同じ名で語られるものだから、授業で触れて以来繰り返し読んでは二人を比べている。光源氏の危うい恋を眺めては、光ならどうするだろうかと妄想に耽るのだ。そのたびに二人は似ても似つかないと思いつつ、カリスマ性があり人を惹きつけてやまないところだけは重ねてしまう。

「俺も大概だよね……。」

何を考えようと、頭の中に押し留めておけば、誰にも非難されることはない。泉ノ森で許される唯一の自由と気晴らしだ。

図書室は泉ノ森で人気のエリアだが、古典文学は人気がない。人だかりがあるのは専ら雑誌コーナーやら現代小説が並べられた場所だ。だからここは物思いに耽り、独り言に興じるには絶好の場所だった。

いくつかある現代語訳の文庫本を開いては棚に戻すことを繰り返す。そして今まで手に取ったことのない意訳本に決めて、隆一は貸出カウンターへ向かった。あまり寄り道が過ぎると没頭して生徒会の役員決めに遅れてしまう。

図書委員から貸出手続きを終えた本を受け取り、隆一は足を速めて図書室をあとにした。







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