*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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執行猶予は光の左足が完治するまでだなんて悠長なことを考えていたら、健康体そのものである彼の回復はめざましく、本当の意味で腹を括る前に迫られる羽目になる。
「隆一、生徒会のミーティング行こうぜ。」
「図書室寄ってから行く……」
「じゃあ、俺も行く。」
背後からグッと肩を組まれて、逃げる間もなく捕らえられてしまう。
前はこんなスキンシップ過多ではなかった。それは光が隆一を特別視していたことからくる遠慮だ。しかし春哉をはじめ多くの慣れ親しんだ人に対しては積極的な性分だ。眺めるだけの対象から彼の懐に入り込んだという意味では、決して悪いことではないはずなのに、心臓には悪い。
「隆一って、髪サラサラだよなぁ。」
「ッ……。」
撫でてくる大きな掌と長い指に心臓は勝手に早鳴っていく。
触ってくれるなと抗議したい気持ちはあるが、クラスメイトの目がある場所で声を荒げたくはない。動揺しているのを悟られるなんて、もってのほかだ。頬が緩まないよう、必死に涼しい顔を貼り付ける。
授業から解放された生徒たちは、部活動へ向かう準備をするため、廊下にごった返していた。教室まで戻る手間を惜しみ、廊下で着替えだす者も多くいる。下着姿でフラフラと校内を出歩くのは、男子校ならではかもしれない。彼らを目の端に入れていると、光が持っていた引き継ぎ書類で隆一の視界を塞いでくる。
「何?」
「見んな。」
「え……?」
前が見えなければ危ないだろうと、光の姿を横目に書類へ手を掛ける。すると光は渋々分厚い書類を下げたものの、少し拗ねたような眼差しを向けてきた。視界の先にいたのは水着をつけた生徒で、おそらくつい先刻まで素っ裸だったことは容易に想像できる。
それを見せたくないと思ったらしい光に内心隆一は笑う。
「なぁ、隆一ってさ……」
「……。」
「やっぱ、何でもない。」
光は口を噤んでしまったけれど、隆一には光が呑み込んだ言葉にすぐ合点がいった。光だけが対象なのか、世の男が対象となり得るのか、後者を疑われての言動。他の男が恋愛対象となるなら、この泉ノ森にいる限り光を落ち着かない気分にさせるはず。信用がないのは今までの距離感を思えば納得できるし、むしろ歪んだ優越感で満たされる。成就して、すっかり自信を漲らせていた光でも、見えない影に嫉妬したりするのだ。
苦い顔をする光の横顔を見て嬉しくなってしまう自分は、性格が悪いかもしれない。まともに想いを伝えて返してもらえる日々を想像したことがなかったから、光の見せてくれる表情が新鮮で仕方ないのだ。胸が苦しくなる嬉しさというのを噛み締めるのも初めて。
「光」
「あぁ?」
「光みたいな物好きは、なかなかいないから。」
「……わかんねぇだろ、そんなの。」
気まずそうに光が目を逸らす。一方で光の手が隆一の肩に伸びてきて、大きな身体は抱きついてきた。
「ちょッ、光!」
公衆の面前で抱擁されて慌てる隆一をよそに、光の力強い腕が弱まる気配はない。
「なぁ、隆一。」
「光、離して……。」
すれ違う生徒たちは思い思いに騒いでいるだけで、光と隆一を気に留める様子はない。寝食を共にしている距離感の近さは幸いしているだろう。だからといって、光に迫られたら平静ではいられない。小声で抗議するが、その声は光にさらりと流される。
「三年になったらさ、もうちょっと進みたい。」
自分から宣言してきたくせに照れたらしい。目を合わせず前を見たまま光の頬が少し染まった。
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朝霧とおる