世話の掛かる二人だと内心思いながら、春哉は竜崎と柳の関係が羨ましくて仕方ない。特別に想い合っていることが、ひしひしと伝わってくるから、自分にも特別な誰かがほしいと、心が渇きを訴え始める。
「いいなぁ、ぴかりん。いいなぁー。」
特別に恋い慕う人がいるって、どんな気持ちだろう。もちろん家族も竜崎も大切な人には変わりない。しかし春哉にとって恋心は未知のものだった。自分の中でまだ形を成してはいないものへの興味は計り知れない。全速力で向かいたいところだが、どこを目指して駆けていったらいいのかもわからないので、同じ場所で足踏みをしている状態だ。
「ねぇ、ねぇ。もしかしたら、この子のこと好きになるかもよ!」
写真を学生手帳から引っ張り出して、竜崎へ見せびらかす。濡らしたり、折ったりしないよう、自分には珍しく丁寧に保管していた。写真を見て、はしゃぐ春哉を一瞥した竜崎は、呆れたように釘を刺してくる。
「おまえ、新入生に変なことするなよ?」
「大好きになることは良いことなんじゃないの?」
「新学期早々、白い目で見られても知らねぇぞ。」
「自分が幸せだからって、一人占め、ズルーい……。」
「それとこれとは話が違うだろ。」
竜崎と柳は結局、一時的な同室を解消することにしたらしい。一緒だとかえって痛めた左足に差し障りがあるという。何故かと理由を尋ねても竜崎が頑なに答えてくれないので、春哉は先程から内心首を傾げたままだ。
好きな相手とは四六時中、一緒にいたいものだと思うし、自分ならチャンスは大いに利用する。けれど二人は違うらしい。
「ぴかりんはドライなの?」
「は?」
「それとも、やなぎんに追い出されちゃったの?」
「……。」
「ぴかりん?」
大きく溜息をつかれたけれど、竜崎を見上げたら笑っていた。
「おまえさ……結構ガキだよなぁ。」
「キライじゃないでしょ?」
春哉の癖毛を竜崎の大きな手が掻き回すように撫でる。やめてと騒ぎながら笑い声を上げて破顔していると、竜崎から快活な笑い声が返ってきた。柳とのことが少しばかり堪えていたようだったから、遠くまでよく通るおおらかな声を聴くのは久々に感じる。
「まぁ、そうだな。バカにされてんのも気付かないくらい能天気なところは尊敬する。」
「えー、なにそれ!!」
竜崎の掌に抗議の拳をお見舞いするものの、屈強な彼の腕はびくともしない。逆に押し返されてバランスを失い、春哉の軽い身体は簡単にベッドへ投げ出された。
「ぎゃあー!!」
「うるせぇ。」
「襲われる!」
「ガキは襲わねぇよ。」
「大人は襲うの?」
「バーカ。」
「えー、何? どういうこと?」
身体をくすぐられそうになったので、春哉は身を返して洗面所の方へ逃げ出した。
クスクス笑ってくる竜崎を、洗面所に半身を隠しながら覗き見る。あの大きな手と頑丈な身体は、柳専用になってしまった。そのことを少し残念に思ったが、照れた顔で目を合わせていた二人を思い出し、春哉はこっそり笑みをこぼした。
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朝霧とおる