「ぴかりん、好きになるとどんな感じがするの?」
純粋なんだか悪魔なのか。春哉の問い掛けには、毎度悩まされる。
知りたいという貪欲さは驚くほど真っすぐで、納得するまでなかなか引き下がってくれない。適当なあしらいは必ず見透かされるのだ。本人に相手を追い詰めさせる意図はないだろうが、ここ最近で一番頭の痛い質問だった。
元々、隆一のことが好きだという気持ちを、春哉に告げる気はなかったのだ。言ったら最後、翌日には全校生徒の知るところになるだろうと、口の軽さを警戒してのことだ。しかし意外にも隆一を傷付ける方向には転んでいない。普段見せる春哉の言動からは想像できない賢明さ。春哉を疑ったことにほんの少しだけ罪悪感をおぼえている。春哉にも彼なりの気配りがあるらしい。
「どんな感じがするかは自分で確かめろよ。そんな事、説明できないし、人それぞれだろ。」
半ば投げやりに答えると、案の定納得がいかないという顔を向けてきて、春哉の口は抗議で尖っていた。
「ぴかりんがどう思うのかが気になるの!」
「気にするな。」
「きーにーなーるッ!!」
後ろ向きに座っていた椅子から降りて、春哉が光のベッドへ飛び込んでくる。構ってほしいと言わんばかりに布団の上を転がり、たちまち掛布団をぐちゃぐちゃに乱した。
「ぴかりん、秘密主義ズルいー!」
バタバタと足を動かして春哉が暴れるので、ベッドが軋んで大きく揺らぐ。
「まぁ……好きになると退屈はしねぇな。」
隆一との関係を直接晒すのは居た堪れないが、曖昧なままで引き下がる春哉ではない。彼が最も関心を示しそうな切り口で釣ってみる。
「毎日、楽しい?」
「……楽しいよ。」
浮かれている気分をわざわざ申告するようで恥ずかしいことこの上ないが、春哉には光の複雑な胸中は全く伝わっていないようだった。
「じゃあ、俺も恋人作る!!」
「おまえさ……」
何かを決心する時、周囲が勝手に作る常識を、春哉はいともたやすく超える。楽しいと言われれば後先考えずに首を突っ込みたくなる性分で、他人の目にどう映るかなんて気にしていない。怖いもの知らずが羨ましく、危なっかしくて目が離せない。
泉ノ森は特別なゆりかごだ。社会はこんな優しさで春哉を迎え入れてくれるとは限らない。だからこそ、ここにいる間は彼らしさを失ってほしくないと思うのだ。
「まぁ、頑張れ。」
「ぴかりん、気持ちがこもってなーい!!」
「春哉、念のため言っておくけど、ここは男しか入って来ねぇぞ。」
「うん、わかってるよ!」
あっけらかんと言い放ってくれる春哉に光は不安の混じる複雑な溜息をつく。
「春哉」
「うん?」
「誰にも言わない方がいいぞ。」
「……うん。」
何でと問い返されることを想像していたから、急にトーンダウンして神妙な面持ちで頷いてきた春哉に意表を突かれる。
「ぴかりんとやなぎんの事は、お口にチャックでしょ?」
「おまえが黙ってられるなら。」
「大丈夫!」
胸を張って自信を漲らせる春哉に、今まで光の目に映ることのなかった一面が垣間見えた気がしたが、にんまりと口元を緩めた笑みに掻き消されてしまう。もういつも通り、悪戯っ子を思わせる少年の顔だ。
「内緒って、わくわくするね!」
「おまえ、絶対言うなよ。俺が隆一に絞められる。」
「ぴかりんは、尻に敷かれちゃったんだねぇー。」
憐れむ気など微塵も感じさせない春哉の笑い声が、狭い部屋でこだました。
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朝霧とおる