教科書や問題集を手に戻ってきた隆一は、不機嫌さを露わにして手にしていた物を放って寄越す。
「あの子……。」
「ん?」
「知ってるでしょ。」
「え、何が?」
「最低……。」
「え!?」
慌てふためく光をよそに、隆一がベッドに入って背を向けてくる。少し心を許してくれたかと思えばこの有り様なので、隆一の気難しさに頭を抱えた。しかも彼が言わんとしていることがわからず途方に暮れる。
「隆一……あのさ……。」
「もしかして、って思ってたけど、あの子に言ったでしょ。」
「な、何のことだよ?」
「変に気遣ってるの、バレバレ。」
「りゅ、隆一?」
それ以上どんな言葉を掛けても、隆一は布団をすっぽり被って無視を決め込んでくる。このままでは埒が明かないと、部屋を出て、原因を作ったらしい春哉を問いただすことにしたのだ。
廊下へ引きずり出した春哉はこちらの腕力に観念したらしく、光と隆一を同室に、と言い出した経緯を話し始めた。
「やなぎんのこと好きそうだったから、一緒の部屋だと嬉しいかな、って思って……。」
「余計なことすんなよ……。」
結果的に隆一の気持ちを知ることができたからいいものの、際どい展開だった。一歩間違えば相当険悪なことになっていただろう。
「仲直りしたって言ってたのに、上手くいかなかったの?」
「何だかわかんないけど、怒ってんだよ。」
「俺はもっとわかんないよぉ……。」
泣き真似を始めた春哉を一瞥して、彼の腕を掴む。
「ちょっと、来い。」
「え?」
回りくどいことは苦手だし、春哉を隆一の前に突き出してしまった方が早いような気がしたのだ。左足の芯が鈍く痛みを発したが、気に留めることなく、春哉を引きずって隆一のいる部屋を目指す。
「今の話、そのまんま話せ。」
「やなぎんに?」
「他の奴に絶対話すなよ。」
「……はい。」
噂話にでもなった日には、隆一の気が触れるかもしれない。お調子者の春哉の口を塞ぐことほど難しいことはないが、この防衛線はなんとしても死守しないと、隆一との関係が壊れてしまう。
手を引かれながら顔を引き攣らせる春哉が心底反省していることを願い、光は隆一の前へ春哉を突き出した。
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朝霧とおる