「やなぎん……怒ってるの?」
背後の気配が増えたと思ったら、春哉が加勢していた。光も光だ。何を思って連れてきたのかわからないが、少なくとも、こちらの神経を逆撫でするようなことをしているという自覚はなさそうだ。
「……別に怒ってない。」
春哉の前で無視を決め込むのも大人げない気がして、振り返ってベッドから起き上がる。明らかに不機嫌な隆一の気配に臆することなく、顔を覗き込んでくる春哉の度胸だけは褒めたい。他の後輩なら絶対にそんな事はしないだろうから。
「ぴかりんと、くっつけようと思ったのは、お節介だった?」
「……。」
ある程度察しは付いていたが、やはり故意に企てられたことだと知ると腹が立つ。後輩に、よりにもよって無神経の塊みたいな春哉にお膳立てされたわけだ。プライドに障るものがあり、悔しくもある。
「そもそも何でそんな事……」
「だってね。ぴかりん、やなぎんの事、楽しそうに話すから。」
「え……?」
「は?」
声を上げたのは同時だった。何を言い出すんだと慌てふためく光とは違い、隆一は春哉の言葉に黙って耳を傾ける。
「それに、俺とぴかりんが仲良くしてると、やなぎん、嫌そうにしてた。」
「そんなこと……。」
光が熱い視線を注いできたので、反射的に目を逸らす。事実であるが故に強く否定は出来ず、かといって認めるのも癪だった。
「両想いなんだから、くっついちゃえ、って思ったの。」
「隆一は不本意かもしんないけど、こいつも悪気があったわけじゃなくてさ。」
「やなぎん、ホントに悪意はなかったんだよぉ。」
光に首元を掴まれている所為か否か、一応春哉も反省はしているらしく、珍しく萎れて項垂れている。
「それに俺は……結果的におまえの気持ち知れて良かったって思ってる。」
「おぉ!!」
「ちょっと黙ってろ、春哉。」
悔しいけれど、光と春哉は本当に良好な先輩後輩の関係を築いている。さっきまでの反省はどこへやら、すぐに目の色が変わって好奇心を剥き出しにした春哉に、光が大きな手で彼の口元を塞いで無駄口を叩けないようにする。
「もう、いいよ。」
「え?」
「!?」
投げやりな隆一の言葉に、二人が揃って驚きと焦りを混じえた顔を向けてくる。なんだかんだ波長の合う兄弟のような二人。なろうと思ってなれる関係ではない。
どこまでも直球な光と、バカなのか敏いのかわからない、面白いことにすぐ首を突っ込みたがる春哉。二人に巻き込まれたのが運の尽きなのだ。
自分が光を好きなことは棚に上げ、納得いかない悔しさを二人の所為にしてみる。
「光のしたいようにして。」
「ッ!!」
「ぴかりん、良かったね!!」
光に思い切り抱き付いて破顔する春哉は、本気で喜んでいるらしい。チクリと胸が痛むのは、自分が光の恋人になろうがなるまいが、絶対に春哉のポジションを奪うことはできないと確信したからだ。
「じゃあ、ぴかりんの足が治るまで、二人はここにいてね!」
感嘆の声を上げていた春哉だったが、鬱陶しがる光に引き剥がされると、ドアの方へそそくさと逃げていく。光と隆一が声を掛ける間もなく廊下へ飛び出しドアを閉めたので、光がどう事態を収拾しようかと落ち着きなく目を泳がせた。
いつもご覧いただきまして、ありがとうございます!!
↓ 応援代わりに押していただけたら励みになります!
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N
Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる