「光の持ち物はこっち?」
「そうだよぉー。」
点呼も終わってベッドで寛いでいたところ、やってきた柳を春哉は正座で出迎える。竜崎の勉強道具を取りに来ただけだったが、近寄ってくるなと言わんばかりのピリピリした空気に、春哉は背筋を伸ばす。
恐る恐る柳の背中に視線を投げていると、気配を感じ取ったのか柳が振り返ってきたので飛び上がる。しっかり目が合ってしまって、ジロジロ様子を窺っていたのはすぐに気付かれてしまった。
「何?」
冷めた柳の声にヘラヘラ笑い返す。しかし睨んできた柳の目元が少し赤く腫れているような気がして、挙動不審になりながら慌てて目を逸した。
「な、何でもないよ! やなぎん、相変わらず綺麗だなぁー、って思っただけ!!」
「何それ……。」
わざわざ竜崎の荷物を取りにきたくらいだから、竜崎を邪険にしているわけではないだろう。けれど何か二人の間に起きたことは確かだ。普段の柳からは、泣く姿を想像することができない。いつだって澄ました顔をしていて、感情を欠片も見せそうにはないからだ。
「……少しくらい片付けたら?」
「はぁーい。」
疎まれているのをひしひしと感じ取って、春哉は肩を竦めて柳へ返事をする。去っていく柳の背中を横目で見送って、ドアが閉まったところで全身から力を抜いた。
「うー……やなぎん、機嫌悪い……。」
「おまえ、なんかした?」
「わかんないー……。」
柳の不機嫌な空気に圧倒されて、彼が去った後も声を潜めて苦笑いをする。
自分と柳の接点は竜崎だ。だから原因は竜崎絡みで間違えないだろう。不興を買う心当たりはあるが、何が柳の地雷を踏み抜いているのかまではわからない。
「先輩たち、まだ喧嘩中?」
「ぴかりん、仲直りしたって言ってたんだけど。」
「でも、なんか怒ってたよな?」
「うーん……。」
「ま、ほっとこーぜ。」
「だよねぇー。」
竜崎の恋路は邪魔したくないし、柳をこれ以上怒らせるのも得策ではない。知らぬが仏だ。竜崎と柳のことは忘れようと決意し、クラスメイトとお喋りに興じていると、ドアが勢いよく開けられ竜崎が現れる。
「春哉。てめぇ、隆一に何言った?」
「な、な、なんにも言ってないよ!?」
「どこまで知ってんだ?」
「えッ……え?」
襟元を掴まれ、至近距離で睨まれる。背筋を凍らせて必死に首を横へ振ると、不審そうな眼差しはそのままに竜崎が溜息をついた。
「ぴ、ぴかりん、足……。」
「隆一と俺のこと、どこまで知ってんのか聞いてんだよ。」
話を逸らそうと試みるものの、拙い話術はあっさり見抜かれてなかったことにされる。小声の耳打ちですら凄みがあって、逃げる術もない。
「ぴ、ぴかりん、怖い!」
「正直に言え。」
「い、言うから、離して!」
春哉の願いは聞き入れられず、片腕であっさり廊下へ引きずり出される。ドアが閉まる寸前、ベッドの上にいたクラスメイトと目が合い合掌されて見送られた。
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朝霧とおる