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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

結弦の恋人

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結弦の恋人

プレゼントなんかいらないから、結弦と過ごせればそれで十分。どちらかの家で一緒に料理ができたらなお嬉しい。本気でそう思い、意気込んでクリスマス・イブの予定を聞いたら、フラれるどころの話ではなかった。

「ユキちゃんの所に行くよ。」

「・・・ユ、ユキちゃん・・・?」

結弦の口からその名を聞くのは初めてだった。目の前が真っ暗になって、嫌な予感だけが涼介の頭を駆け巡る。

「結弦・・・。ユキちゃんって、女の子?」

「うん。とっても可愛いんだよ。」

結弦が誰かのことを可愛いと言う日がくるなんて。

もしかして、今、自分はフラれたんだろうか。いつの間に、女の子とクリスマス・イブの約束を取り付けるまでの関係になったのだろう。自分はとっくに見切りをつけられて、浮気されていたということだろうか。しかしその割には堂々と打ち明けてくるものだと、奇妙な感心をする。

「結弦は・・・女の子の方が・・・好きなの?」

「うん。大人しいし。」

俺もそんなにうるさく騒ぐ方ではないよ、と涼介はすっかり肩を落とした。

そうか。結弦は女の子がいいのか。特段おかしい事でもなんでもない。結弦は涼介と違って、大半の人がそうであるように異性が好きだったと言うだけだ。

こんな呆気ないフラれ方をするなんて想像していなくて。確かに結弦の方から物理的な欲求という意味で求められたことはない。いつも手を伸ばすのは涼介の方で、ここ最近はレポートの提出や試験の準備に明け暮れていたから、すっかりご無沙汰だった。

もっと早く、彼女の存在を教えてくれたら良かったのに。泣きたい気持ちをどうにか堪えていると、一体どんな彼女なのかが心底気になる。自分が結弦にしたように、言いくるめられていたらと思うと気が気ではない。

「結弦。ユキちゃんって・・・どんな子?」

「真っ白で・・・」

色白なのか。

「足がすらっとしてて・・・」

スタイルがいいんだね。

「外で日向ぼっこするのが好きなんだよ。」

おおらかな子なのかな。涼介の周りにいる女の子たちは、紫外線だなんだと日差しを嫌う子も多いけれど、もしかして結弦と同じ農学部の子なら頷ける気がする。

「同じ学校なの?」

「うん。」

会ってみたい。この恋愛音痴な結弦が可愛いと思った子に。会ったら、気持ちの整理がついて、諦められるかも。きっと一晩くらいは泣く羽目になるとは思うけれど、女の子が好きだというなら、自分はちゃんと彼の手を離してあげるべきだ。

「結弦・・・ゆきちゃんに、会ってみたいな。」

「うん。明日、一緒に学校来る?」

「学校で会うの?」

「うん。」

結弦、バカだなぁ。きっと彼女はクリスマスツリーとかイルミネーションの綺麗なところへ行きたいんじゃないかな。それとも結弦と付き合うくらいだから、学校に興味をそそられるものがあるのかもしれないけれど。

涼介は当然のように泊まっていく結弦に首を傾げつつ、深い溜息をついて結弦に背を向けて眠った。


 * * *


農学部が主体の大学なだけあって、連れていかれた所は敷地内の牧場だった。冬の間も動物の世話に休みはない。大学は冬休みに入っているが、学生たちの姿はそこかしこにあった。

「涼介。ここで待っててね。」

「・・・うん。」

寒さで赤くなった頬といきいきと輝く結弦の目に、涼介は逆に鬱々とする。

会いたいと言ったのは自分だけど、昨日の自分を悔いた。そっと影で祝福してやれば良かったのだ。こんな意地になって、小舅のように会いに来る必要はなかった。

彼女が来たら、すぐ学校を出よう。彼女だって、涼介の目があったら結弦との時間を楽しめないに決まっている。

結弦の背中を見送って牧場の片隅でぽつんと待つ。風を遮るものがないから、冷たい風に身体を打たれて芯から冷えていく。一人取り残されるのは本当に寂しい。もうこのまま黙って帰ってしまおうか。

「涼介!」

「・・・。」

俯いていた顔を上げ、呼び声のする方に顔を向ける。しかし、結弦は一人だった。

「ユキちゃんだよ!」

珍しく息を上げて駆け寄ってくる彼に、涼介は絶句した。

綺麗にブラッシングされた真っ白な毛。すらりと伸びた無駄のない筋肉質な足。確かに日向ぼっこをするのが好きそうな彼女。

「ユ、ユキちゃんって・・・」

「可愛いでしょ?」

嬉しそうに手綱を引いて結弦が身を寄せるもの。それは・・・。

「う、馬かぁ・・・。」

ちゃんと話を聞き出さずに先走って勝手に勘違いしたのは自分。あまりの恥ずかしさに、先ほどとは違う意味で逃げ出したかった。唯一救われたとすれば、結弦が涼介の勘違いに気付いていないこと。

涼介は完全に脱力して、その場に座り込む。

昨夜からどれほどの悲しみを抱えてここへ来たかと思うと、あんまりな結末に笑う気力も湧いてこない。

「どうしたの、涼介。」

「ううん。ちょっと・・・疲れただけ・・・。」

「門から遠いし、坂もあったもんね。」

「そうだね・・・。」

そういえば一年生は交代で色んな動物の世話をすると言っていた。家では飼えない動物もたくさんいるからと、結弦は喜んでいたっけ。

「結弦」

「うん?」

「今日の夜、ヒマ?」

「うん。」

馬のユキちゃんに身を寄せて、ぺろりと舌を出してきた彼女と、結弦は嬉しそうにじゃれている。

「グラタンとチキン用意するからさ、一緒にクリスマスパーティーしよう?」

「今日、クリスマス?」

「イブね。」

「ケーキも買う?」

「そうしよっか。」

馬の世話に頭をいっぱいにして、クリスマスのことなど忘れていたらしい。これでこそ結弦だ。彼にクリスマスを彼女と祝うなんていう考えは欠片もありそうにない。

涼介はようやく冷静さを取り戻して、早とちりして勝手に落ち込んだ自分を笑う。

「涼介?」

急に笑い出した涼介に、結弦が不思議そうな目で眺めてくる。

涼介は何でもないよと結弦に首を振って、元凶のユキちゃんを笑いながら見つめた。










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くだらなくて、すみません。
どうしても書きたい衝動に囚われまして・・・。
マイペースな結弦。
振り回されっぱなしの涼介。
二人は健在です。

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