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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り2

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隣り2

青々しい緑の香りを胸いっぱいに吸い込んで、初夏を感じる。歩は二階の渡り廊下の窓を開けて、頰をくすぐっていく風の戯れを楽しんでいた。

袖を捲り上げて剥き出しになった腕は真っ白で、あまり男らしくはない。陽に焼けても赤くなるだけで、小麦色にはなってくれないからだ。色素の薄い髪も大きな瞳も、勇ましさの欠片もなくて、あまり好きになれない。子どもの頃は女の子によく間違えられた。けれど年を経るごとに背だけは高くなり、高校一年の今となっては、流石に間違えられることはない。最近ようやくコンプレックスとも上手く付き合えるようになってきた。

ふと窓から下へ目を向けると人の影が二人分見えた。一人は大きく、もう片方は小柄のようだった。大きい影には見覚えがある。影のシルエットが織り成す動きだけで誰だかわかるだなんて、自分のマニアックさを呪いたくなる。嫌な予感に目を閉じて窓に頬杖を付いた。

「大寺くん、好きなの。」

風に全部掻き消されて聞こえなければ良かったのに、小さな言霊は風に乗って歩の耳まで届いた。

無性に泣きたくなった。羨ましくて、悔しくて、声を上げて泣きたくなった。

自分が言いたくても言えない言葉を、ずっと胸に仕舞い続けている想いを、この女の子はいとも簡単に言ってしまうことができるのだ。

彼女に落ち度は何もない。好きな人に告白できる、勇気のある女の子だ。悟史を好きになる気持ちは人一倍わかる。

少し堅物で不器用だけれど、優しくて安定感のある頼り甲斐のある男の子。他の同級生たちと変につるむこともなく、淡々としている。包容力もあるように見えるし、実際懐の広いおおらかな性格だ。

恋愛感情を持たずにいられる方法があるのなら、今すぐ知りたい。世界中探したって、こんなに素晴らしい友はきっといない。けれどただの幼馴染でいることに歩の心は悲鳴を上げていた。

悟史の事を一番知ってるのは間違えなく自分だろうという自負がある。女だったら、悟史は自分のことを彼女にしてくれただろうか。

でも女になろうと思った事はないし、叶うなら、このままの自分に気持ちを寄せてほしいと望んでいるのだ。だから、やっぱりこの気持ちを明かすことはできない。優しい彼を困らせてしまうだけだろう。

気持ちが昂り、我慢できずに溢れた涙が、一階のコンクリートの地面に一つ小さな染みを作る。慌てて深呼吸をして、袖で頬を濡らしたものを拭い去った。

気持ちを明かせない現実を突き付けられるたび、泣きたい気持ちを堪えられない自分は、相当重症なんだろう。拗らせて、どんどん深みに嵌っていく。

こんなに途方もなく辛い初恋。早く過ぎ去ってただの思い出になってしまえばいいのに、今はその気配すらない。

つらつらと取り留めもないことを語っていた女の子に、悟史が一言ごめんと返す。明らかに安堵してしまった自分は意地が悪いだろうか。

悟史の心を奪う人は、また今日も現れなかった。彼の一番は、まだ自分だという後ろ暗い感情が心を満たす。

「大寺くん。お試しとかでも、ダメ?」

食い下がってきた女の子に、歩の方が気が気ではなかった。言われている当の本人は、きっといつものように淡々としているのだろう。

「ごめん。今は彼女欲しいって思ってないから。」

案の定、大して抑揚もない声が即答する。意地の悪い自分の願いは、信じてもいない神様に聞き届けられたようだった。

人を好きになるが故に、誰かの不幸を願う自分。心が澱んで、重くなる。そして残るのは虚しさだけだ。

小柄な影だけが去っていくのを上から眺めていると、急に胸元で震え出したスマートフォンに心臓が嫌な跳ね方をする。取り出した画面にあった名前は悟史だった。

《教室にいるか? 迎えにいく。》

素っ気ないメールも、自分は嬉しくて仕方がない。フった女の子の事に目もくれず、真っ先に自分の事を思ってくれた事が、歩の独占欲を満たした。

昨夜の時点で、共に部活がないことは知っている。歩は慌てて教室の方へ踵を返す。

妙な高揚感を悟られることなどないように《わかった》とだけ返信する。そして小走りで自分の教室へと戻った。














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