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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り1

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隣り1

窓の向こうに見える窓。二つの窓越しに、二人で向かい合って座る。

机に置いてある電気スタンドのスイッチを入れて勉強するフリをしていると、やがて窓の向こうにいる彼も机に視線を落とす。その頃合いを見計らってチラリと視線を上げて、彼を盗み見る。すると真剣な眼差しが教科書とノートに注がれていた。

倉橋歩(くらはしあゆむ)は今日も勉学に努める彼の姿を飽きるほど眺め始めた。しかし飽きた事は一度もない。

毎朝肩を並べて歩き、学校へ着けば彼の姿を見つけては目で追い掛ける。部活が重ならない放課後は、時々剣道場で勇ましく竹刀を振る彼を見る。逆に彼が歩の所属するテニス部のコートへ来る事もある。歩の打つ球を彼の目が追いかけているのを横目で見ながら、彼の視線を独り占めにしている事実に少しばかりの優越感を覚えるのだ。

それ以上は望まない。

時には息をするのも苦しいくらい、せつない気持ちに襲われる事もある。けれど自分で自分に許しているのは、見て想うことだけだ。

赤ん坊の頃からの付き合いで、一つ上の幼馴染は堅物な剣豪。勉強もできるから、わからない問題を沢山探して、教えてもらいに行く。おかげさまで、大して要領の良くない自分も勉強ができるようになっていた。そうでなければ、県内一難しい高校へ彼と肩を並べて登校できる今はなかったはずだ。

気に掛けてもらえるだけで十分。彼が自分と一緒にいる事を心地良いと思ってくれている事も知っている。腐れ縁も捨てたものではない。ここに家を構えてくれた両親に感謝したいくらいだ。

まだ、もう少し・・・あと少しだけ、彼の姿を眺めていたい。痛いくらい視線を送り続けている自分に、まだ気付いて欲しくない。

しかしそんな願いも虚しく、視線を感じたらしい彼は、顔を上げて微かに首を傾げた。内心気まずさで心臓の音が煩く響いたが、歩も冷静を装って手を振る。彼が立ち上がって窓を開けたので、歩も倣って窓をスライドさせた。

「悟史(さとし)。わかんないとこ、教えて。」

「こっち来い。」

歩は悟史が口を開く前に先手を打った。好きが高じて見入っていたなんて、死んでも知られたくない。だから、なんてことないような素振りで、ウソをつく。

部屋を出て階段を下り、そして悟史の部屋へ行き着くまでの間に、わからない問題を見つけ出しておかなければならない。机に出してすらいなかった問題集を鞄から取り出す。自分の性格上、ウソをつき過ぎると墓穴を掘るから、わからない問題とやらはちゃんとリストアップするつもりだ。

窓に鍵をかけ直して、部屋を出る。部屋のドアを閉めて悟史の視界から完全に隠れた所で溜息をついた。

人を好きでいるのも楽ではない。好きであることを理由に小さなウソを重ねてばかりの自分は、大層滑稽で惨めだ。

「なんで、悟史なんだろ・・・」

もう何度目かわからない問いを虚空に投げかけたところで、返事はどこからも返ってはこない。
部活帰りの疲れた身体に鞭を打って勉強するのは辛いけれど、それが悟史と一緒にいられる時間となるなら苦ではない。

悟史の部屋は歩の部屋より少し広い。そして二人で教科書や問題集を広げられるだけのスペースを持ったローテーブルがある。

授業中にこっそり解いていた問題で、一つだけ解答を見てもわからない問題があった。これで当分一緒にいられるし、わかるようにもなるのだから一石二鳥だ。

悟史がローテーブルの前で胡座をかいて待ち構えていた。歩が部屋へ入ってきてから彼の前に座り込むまでの間、ずっと悟史の視線が追い掛けてくる。好きな人の視線を浴びるのは、何度経験しても緊張する。むしろ以前よりその緊張は増している気がした。

「わかんないの、どこ?」

「これ。」

わざとぶっきらぼうに数学の問題集を悟史へと突き出してみると、悟史の視線がすぐに問題集へと落ちていく。

ホッとしたような、残念なような。複雑に渦巻く恋心は難しい。高校生がやる数学には答えがちゃんとある。解き方も懇切丁寧に記してある。この恋にも明快な答えが存在すればいいのに。それがたとえ失恋だったとしても、それ以外に答えが存在しないなら、納得できる気がした。

中学時代から続く片想い。終止符を打てないのは、ほんの僅かな期待を抱いているからだ。

ずっと自分を側に置いてくれる悟史。最も彼の近い存在だと確信できるだけの距離感が、歩をかえって臆病にさせていた。

特別な友、幼馴染みというポジションが、歩に優越感と絶望感を交互に与え続ける。進展する事を望みながら、終わってしまうことを恐れる繰り返し。

「歩、聞いてる?」

「うん・・・やっぱり、ちょっとわかんない。もう一回、お願い。」

本当はうわの空で悟史の説明が耳に入っていなかったけれど、眉根を寄せて精一杯なフリをする。また、ウソが降り積もっていく。

「ここの式で引っ掛かってるんじゃないか? そこからやるか?」

「うん、そうする。」

あくまで親身になって教えてくれる悟史に申し訳ない気持ちが湧いてくる。シャープペンシルを手馴染みの良いように握り直して、ノートに羅列された数字を食い入るように見つめる。そこへ書き足されていく数字を見ながら、悟史が重ねてくる言葉に耳を傾けることにした。









 








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