惚けているように見えるのは欲目だろうか。宮小路の願望を体現するように永井が大人しく腕の中にいる。湯の中で悪戯されるのは不本意らしく、丁重に断られてしまった。辛うじて得たシャワーを共にする権利。永井を清めながらお楽しみ中だ。
「永井さん、どうしても湯舟はイヤですか?」
「……もともと、入る習慣がないんです。それに今は夏ですし……。」
「冬も入らない?」
「あまり、入りません。」
血行に悪いですよ、なんて最もらしいことを囁いて、本心では一緒に入る口実をどうにか得たいだけだ。
邪な欲求を見透かすように、永井の反応は芳しくない。しかし機嫌を悪くしているわけではなかった。
宮小路は永井の髪を湯通ししながら梳いている時間が大層好きだ。滞ることなく指の間を滑る艶やかな漆黒の髪は、愛でているだけで官能的である。指に感じるこそばゆい感覚は着実に宮小路の腰へ響き、象徴を漲らせる。自分がどれだけ昂るのか知ってほしくて腰を押し付ける。すると宮小路の前にある永井の身体が微かに震えた。
「ッ……」
永井に己の熱情を分けたいと思うのは、自己評価が低く、宮小路が愛そうと伸ばす手に戸惑いを見せるからだ生きている限り、誰にでも愛され愛する権利があると宮小路は思う。初々しさを失わず成長した彼の神々しさは特筆すべきで、この手で隈なく愛でたい。
彼に愛ある眼差しを注ぐ人は少なくないはずだが、永井はその視線に鈍感だ。どこか怯えがあって、愛されることも愛することも躊躇しているように見える。
「永井さん、マリィはなかなか聡明な女性でしょう?」
「……はい。」
「マリィがあなたに真っすぐ仕事の情熱を向けてくるのは、永井さんがそれだけ信用に足る人だと思っているからですよ。私もあなたが仕事に対して、実に真摯な方だと信頼しています。もう少し甘えてくだされば、もっと嬉しいんですけどね。」
戸惑う永井を予想していたが、不意打ちで笑うので、逆に驚かされる。小さく肩を震わせて面白そうに笑う彼は新鮮だ。
「宮小路さんって、そればっかり。」
「永井さんに心奪われていますからね。」
すっかり興奮を隠せない下半身事情も、抱き締めて彼の臀部に押し付けたから伝わったことだろう。
「あなたは笑った方がいいですよ。本当は私にだけ笑ってほしいんですけどね。一人占めするとバチが当たりますから、いつも笑っていられるくらい、あなたが幸せであることを願っていますよ。」
「いつも、ですか?」
難しい事を言うんですね、と永井がまた笑う。控えめな笑みは、清楚で秘めた魅力を感じさせる。
「永井さん。今日はあなたの全部をくださいますか?」
「ッ……」
直球な求愛に、恥ずかしそうに目が泳ぐ。ひらひらと行き先を定めることなく舞う金魚のように宙を漂い続け、その視線は宮小路の手に着地した。
「う、上手くできる自信がありません……」
「永井さんはただ身を任せてくださればいいんですよ。それに愛を育むのに上手いか下手かを気にする必要はありません。それとも酷いことをされるんじゃないかと不安ですか?」
「そんなこと、ありません、けど……」
マリィを味方に付けることができて良かったと思う。ただ一方的に愛を訴えても、永井本人に信用してもらえなければ意味がない。直接のアプローチだけで不十分なら周囲を固めるに限る。もちろん人を選ぶことではあるから慎重にならねばならないが、味方は多いに越したことはない。
ボディソープを泡立て、永井の前に手を伸ばす。念入りに扱いて清めていると、腕の中で永井の腰が引け、次の瞬間には宮小路の手の中で芯を持つ。シャワーを当てて洗い流すと血流が増えて敏感になった永井の象徴には刺激が強かったらしい。足の力が抜けたようで、赤面しながら背を預けてきた。
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朝霧とおる