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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この手を取るなら2

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この手を取るなら2

三島紳助は男も羨む男前。日本で三本の指に入るこの美大には目立つ輩はたくさんいるけれど、奇抜でなくその存在感で目立つのはこの男だけだと思う。この男に抱かれてるんだと思うと心が震える。どういうつもりで自分を抱くのかはわからない。誘ってきたのは紳助の方だった。

紳助は優しいのか横暴なのかわからない。有無を言わせない迫力と威圧感はあるけれど、こちらが嫌悪感を示すラインはわかっている。本当に嫌がることはしないし、引き際を間違わない。だから一緒にいるのはラクで、恐らく世間一般でいうこのセフレの関係をやめようと思ったことはない。

高校時代、仲の良かった同性の友人を好きになった。けれど言う勇気と傷付く勇気がなくて、結局何も言えずに縁遠くなってしまった。

夏前、彼から久々にメールが届いたら彼女との写真付き。落ち込んで初めて授業をサボったあの日、紳助が食堂で声を掛けてきた。秋の芸術祭で催す、ファッションショーの企画運営をやらないかと誘われたのだ。

紳助の事は以前から知っていた。とは言ってもこちらが一方的に知っていただけだ。紳助はとにかく目立つ。いつも周りに人がいて、色めき立つ視線の先には必ず彼がいたからだ。

しかしその割には気取った風もなく、淡々としていて、あえて自分から連れ立って騒ぐタイプでもない。最初から好印象だったが、同時に遠い人種だとも思っていた。だから声を掛けられた時には随分驚いたものだ。

話してみると、想像していた以上に気さくな人柄で、こちらの意図を汲み取ってくれる頭の回転の良さと卓越したセンスが光る。しかも重なる趣味も多くて、すぐに紳助という人間に惹かれていった。

芸術祭のファッションショーは大盛況だった。衣装作りは恵一が籍を置く空間デザイン学科の学生がその多くを手掛け、紳助がいる建築学科の人たちは照明の設計、グラフィック学科や映像学科ではプロジェクションマッピングを主に担っていた。

学生有志とはいえ、セミプロ。決して安くはない入場料を取る。それぞれが得意分野を活かして作り上げるショーは鳥肌が立った。

紳助と寝る関係になったきっかけは、打ち上げだ。

未成年の自分に一杯酒を飲ませた輩がいて、具合が悪くなってしまった。気が付いたら紳助の家に連れ込まれて介抱されていた。

彼の腕の中で吐いてしまったにも関わらず、全く彼は気にも留めず世話をしてくれた。ベッドまで貸してくれて、申し訳ない気持ちになったものの、睡魔には勝てずにその夜はすぐに寝落ちしてしまった。

翌朝も甲斐甲斐しく世話をされて、居た堪れなさに戸惑っていると、何の前触れもなくキスをされた。

「おまえ、こっちでしょ?」

彼の言う意味はすぐにわかったけれど、何故自分がゲイだとこの男にはわかったのか。ただ驚いて呆然としていると、ゆっくりとベッドへ押し戻された。

「イヤ?」

あまりに端的な言い方。いつの間にか小さく首を横へ振っていた。そんな自分を見て満足そうに笑い、紳助は恵一を抱いた。

キスもセックスも初めて。けれど不思議と怖いと思うこともなく、この男に終始翻弄されて人肌の温もりを知った。

乱暴な行為は何一つなかった。ほとんど痛みも感じないほど溶かされて、紳助が身体を蹂躙してくる。この日限りだと思っていた関係は思いのほか続き、かれこれ二ヶ月になる。

「今夜どう?」

紳助がたった一言、そう言ってくるだけだ。拒む権利は恵一にちゃんとある。けれどこの関係を嫌だと思わない自分は、断った事がない。

こんな簡単に恵一の事を丸め込んだこの男には、きっと相手など山程いるだろう。しかし自分以外の影を見せない。誠意で本当に恵一一人としか寝ていないのか、器用さに全てが隠れているのか、そのどちらなのかは未だにわからない。

この関係にどう名前を付けたら良いのかわからなかった。好きだと言われたわけではない。恵一が好きだと告げた事もない。しかし友人というにはおかしな関係だ。だから自分の知っている言葉にすれば、やはりセックスフレンドになってしまうのだろうなと納得するしかない。

目の前で定食を綺麗な箸使いで平らげていく紳助。整った鼻梁に、人の心を射抜くような鋭い目、細いけれど筋肉質な長身。紳助は男が誰でも一度は夢見る体躯を本当に具現化してしまったような人間だ。

「今日のサークルは早めに店仕舞いするか。」

「何で?」

「おまえのポートフォリオが一大事だろ。」

紳助は惚れてしまいそうな事をサラリと言う。自分の楽しみより恵一の事を優先してくれる事が、最近感じるちょっとした優越感だ。

「ほら、見惚れてると、麺伸びるぞ。」

「見惚れてなんかないよ。」

ぶっきらぼうに言い返すけれど、実際は満更でもない。気恥ずかしい気持ちを抱いたまま、ラーメンを無心にすすり始めた。















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