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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この手を取るなら1

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この手を取るなら1

好きなモノは読書、寺巡り、テニス、麻雀、セックス。最近それらに一つ加わったものがある。

保坂恵一。

冷めた目、それを引き立たせる中性的な容姿、ヴェールに包まれた内面。一目で惹かれた。

手に入れたくてもなかなかこの手に堕ちてこない。そこも気に入った。

自分の横で頬杖をつき、何やら思案している姿も絵になる。溜息をつきたくなるような均整の取れた面立ち。

その姿を視界に捉えてから、彼の心が欲しいと願わずにはいられなかった。セックスだけでは足りない。

今、三島紳助は保坂恵一の虜だ。

 

  * * *

 

多くの学生が集う学食であっても、恵一を見つけることはそう難しくない。女の子たちのざわめきを辿ればあいつは必ずそこにいる。

「恵一。一緒にいい?」

「あ、紳助。」

彼の返事を聞く前に、紳助は恵一の前に定食を持って座った。

恵一と向かい合って席を陣取る勇気のあるやつはそうそういない。

「紳助が来ると周り煩くなってヤダな。落ち着いて食べられない。」

「邪険にするなよ。おまえも似たようなもんだろ。」

チラチラと周りの視線を感じるものの慣れたものだ。目立つ自覚はあるし、それを大いに利用してきているから問題はない。

「ポートフォリオはどう?」

「半分くらい、かな。」

「そのペースで間に合うのか?」

「終わらせるしかないよね。」

「まぁな。」

恵一の所属する空間デザイン学科は一年の終わりに今までの制作物を冊子にまとめたポートフォリオの提出がある。建築学科の紳助もそれは同様だった。

しかし三年目になる紳助とは違い、入って一年目の恵一はそれを制作するのも一苦労だろう。

「パソコン持って、来いよ。」

「・・・強引。」

「見てやるって。」

「はぁ・・・でもホントにマズいから・・・行く。」

態度では渋々、しかしそれは恵一の照れ隠しのポーカーフェイスであることを知っている。だから紳助はそれが可愛く思えて仕方がない。

「紳助は余裕だね。」

「俺も一日二十四時間じゃ足りないくらい、やりたい事多いけどね。まぁ、所詮課題は課題だから。」

「確かにそうだけど・・・。俺はその所詮課題にすら手一杯かも。紳助みたいに器用じゃないし。あぁ、早く写真撮りに行きたいな。」

厳しい受験競争を勝ち抜いてきて、そこでもぬけの殻になる奴も多い。そういう意味では恵一も自分も脱落組ではない。

「今日、衣装の講評でさ。」

「どうだった?」

「女性に着せるつもりで作ったんだけど、華奢な男に着せた方が面白いかもって言われて。最終日までにモデルとメイク変えて、もう一回提出し直す。」

「それなら自分で着りゃあ良いだろ。」

「・・・。」

華奢で整った顔、憂いのある瞳は、中性的で魅惑的だ。内に秘めた芯のある勝気な性格のギャップは堪らない。そんな事を知っているのは恵一の周りにいるごく一部の人間だけだが、紳助もその数少ない人間の内の一人だった。

その魅力的な顔を積極的に晒そうとしない理由はわかる。見た目の印象が先走って正しい評価を得られない事を、こいつは何より嫌っているから。

「ナルシストっぽい。」

そう言って睨んでくる恵一の顔を可愛いと思ったのは胸の内に秘めておく事にする。

「今からモデル探すよりよっぽど現実的だろ? 準備に時間を割ければクオリティもあがる。衣装も今日、持ってこいよ。」

「・・・。」

忌々しげに睨みつつも、結局恵一は深い溜息をついて紳助を見て頷いた。葛藤はあるものの時間を考えれば納得せざるを得ないということだろう。

こいつは自己評価が著しく低い。それは家庭環境だったり今までの恋愛遍歴だったりが関係ある。

今日は発破をかける役に徹するか、と心に決めて、目の前でラーメンをすする恵一を見遣った。


















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