紳助は新しい世界をたくさん見せてくれる。付き合いが始まってまだ三ヶ月余り。しかし人生でこれだけ濃密な時間を経験させてくれた人間は彼以外にいない。
神田というカメラマンとはすぐに意気投合した。出身校ばかりか学科も恵一と同じだったからだ。
彼の仕事は主に女性誌のモデルを撮るカメラマン。そこから派生してウェディング雑誌や化粧品広告の撮影なども手掛けていて、彼の携わる多くの仕事を恵一も知っていた。
しっかり神田の口車に酔わされた恵一と歩は、紳助に興奮を宥められながら民宿の部屋へ戻った。
一部屋ずつが狭くて、頑張って入っても二人。てっきり歩と相部屋で紳助が一人なのかと思ったら、あっという間に連れ込まれて、紳助と二人で部屋を共にすることになった。
「歩は今から彼氏と電話。俺たちは邪魔。」
「そ、そっか・・・」
そういえば学食で本人から打ち明けられたが、すっかり忘れていた。自分の事を棚に上げると、むしろ同性の恋人がいるのは本当だったのか、という気持ちさえ抱いてしまう。
「恵一」
「・・・。」
「風呂、先いいぞ。」
「あ・・・うん。」
一瞬甘い呼び声に抱かれるのかと思い緊張してしまったのが恥ずかしい。紳助の視線から逃げるように部屋付きの狭いシャワールームへと滑り込んだ。
お酒は一滴も飲んでいないのに、酔ってしまっているかのように身体が熱い。シャワールームの冷たいタイルも気にならないくらいだった。
紳助と顔を合わせるのが気まずい。こんな合宿先まで来て邪な事を一瞬でも考えた自分が居た堪れなくて。
気分を紛らわせようと強く擦って洗うと、少し皮膚に赤みが差す。心の動揺を映し出している気がして余計に焦った。
湯の温度を少し上げて、気が静まるまで浴びようと思った時、急にシャワールームの戸が開いた。
紳助だと思った時には背後から抱きすくめられて、真っ白になった頭では身動き一つ取れなかった。
「恵一」
「ッ・・・」
顎をすくい上げられ背後から紳助の唇が恵一の唇に重なる。この男は恋人にするような甘いキスを自分へ贈る。いつもそうだった。
けれどキスは嫌じゃない。紳助の唇は柔らかくて包み込むような優しいキスだから。強引な事をしない。髪の先までゆっくりと溶かしてくれる。
二人で頭上から熱い湯を浴びて、さらに身体の熱を上げるキスをする。初めてした時は息継ぎをするのもやっとだった自分も、随分この行為に慣れた。
紳助とのセックスに恐怖は最初からない。むしろ求めたくなるような愛撫を身体に刻み込まれるのだ。
「ん・・・ふ・・・」
このキスの後は気持ち良い事だけが待っている。
恵一はスッと身体に入っていた力を抜いて、紳助の胸にもたれかかった。そして紳助が当たり前のように抱擁してくれる。
何故こんなに彼の腕の中は心地良いんだろう。しかし溶かされていくうちにそんな疑問も消えていく。それもいつもの事だ。
長い長い唇への前戯にうっとり溺れていきながら、恵一は紳助に身体を預けた。
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朝霧とおる