いつも何か言いかけて閉ざされる口に、煮え切らない気分になるのはいつもの事だ。
「また誘われた・・・。」
背中を刺すような視線から逃げるように会議室を離れ、足早にフロアへ戻る。坂口といる時は首回りが凝る。意識して身体が強張っている証拠だ。彼の視線を不快だと思っているわけではないのだが、あの視線に晒されると緊張する。その理由は瀬戸自身、よくわからなかった。
辿り着いた自分の席へ安堵の溜息と共に腰を下ろし、スリープ状態だったパソコンを立ち上げる。
「瀬戸、どう?」
隣席のデザイナーである川辺が尋ねてくる。彼のモニターにはハンドクリームのパッケージ案が二つ並べて映し出されていた。
「こっちでいきます。」
「そっか。」
企画部で同席しているデザイナーは皆一様に言葉数の少ないメンバーなので付き合いやすい。淡々と画面を向いていることが多いし、基本的に互いの仕事への干渉がないのでトラブルになりようがない。
「今週の金曜日、空いてる? 新歓だって。」
「川辺さんは行きます?」
「うん。残業なければ。」
「俺も、残業なければ・・・。」
「うん。じゃあ、一応出席で伝えとく。」
「はい。」
疲れるから本当は行きたくない。でも部署全体の出席率が高いイベントには極力顔を出している。陽気な笑い声や愚痴を聞いていると、馴染めない自分にふと気付いて息苦しくなってしまう。年々その憂鬱さは増していくような気がする。お酒の入った席だから、適当に流せばいいのに、それができなくて心が消耗してしまうのだ。
「あの・・・。」
「うん?」
「一課や三課の人たちもいるんですか?」
「うん。そうみたい。大所帯だよね。」
「・・・そうですね。」
きっと坂口も来るんだろう。席が近くなってずっと話掛けられたら気が休まらない。早速気が滅入っていると、急に背後から肩を叩かれる。一瞬心臓が止まりかけて強張った顔のまま振り返った先には、今まさに思い浮かべていた坂口が立っていた。
「忘れ物。」
「あ・・・ありがとう、ございます・・・。」
「じゃあ、シールよろしくな。」
「・・・はい。」
坂口の微笑みにぎこちない返事しか返せないまま、彼の背中を見送る。受け取ったボールペンが手の中でいつもより数段温かみを感じるのは意識過剰になっている証かもしれない。
「ッ・・・。」
ボールペンを視界に入らない筆箱の中に追いやって、瀬戸はモニターに向き直る。汗ばんだ手で握ったマウスが安定を欠いて動く。ダブルクリックして開いたファイルは目的のものとは違っていて、心の動揺を映しているようだった。
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朝霧とおる