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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥2

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碧眼の鳥2

活気に満ちた街のあちこちから、旅人に声がかかる。旅人は王都で暮らす民の憧れの的だからだ。

異国の地を歩き、物珍しいモノを見聞きしてくれば、たちまち王都の民はその話を聞きたがる。

このシンビ国の藍の衣には、昔から特別な意味があった。病から民を救う薬師にだけ着衣が許される、流浪の民を表す。

「そこの若い薬師様。今晩こちらへお泊りになりませんか?」

藍の衣を着た薬師の青年は、もう何度目かわからない呼び掛けにも、鬱陶しがることなく、丁重に断りを入れていた。王都までの道のりを、多くの民が気にかけてくれるからこそ、大事なく旅を続けられるからだ。

建物の間から差し込む日差しは温かい。街の熱気で幾分増して感じる温かさに、青年は長い袖をまくり上げて、人で溢れかえった王都の道を進む。

「フェイ! 戻ってきたのかい?」

たくさんの薪を背負って道の先からある男が青年を呼び止めた。その呼び声にフェイと呼ばれた青年は頬を綻ばせて、薪を背負った男に手を振る。

「お久しぶりです、カンさん!」

二人の再会も、これまた一年ぶり。二人が合流し、向かった先は宿屋だ。薬師であるこの青年が毎度世話になっている行きつけの宿屋である。

まだ陽が昇ったばかりの街で、二人はのんびりと肩を並べて宿へ入っていった。


 * * *

風に吹かれ、時には雨に濡れ、強烈な太陽の光を浴びるフェイの髪は、色素が抜けた茶の色をしている。

彼が宿に着いて一番にしたことといえば、湯浴み。旅の汚れを清め、王都を歩くに相応しい身なりが整うまで一刻かかってしまった。

国によって一日の時間の割り方は違うが、このシンビ国は十二刻で一日。長旅の汚れと疲れを取り払うには必要な時間だと言えた。

「カンさん、コレを。」

「なんだい、こりゃあ。」

「鏡というものですよ。姿が映るでしょう?」

「わぁ、ホントだ。また、どこで手に入れたんだい?」

「隣国のヴェルのものです。奥さんのリョウさんに差し上げて下さい。」

「そりゃあ、珍しくて喜ぶ。」

「天帝にも献上するものなのです。お揃いですね。」

宿の店主であるカンも、妻のリョウも、フェイの一言に驚き呆れる。

「そんな貴重な物を貰っちまってもいいのかい?」

「もちろんです。これからひと月、皇太子の生誕祭までここでお世話になるわけですから。是非、お納め下さい。」

「フェイは持ってねぇんかい?」

「私には必要ありません。」

カンとリョウが首を傾げるので笑って答える。

「王都へ来て天帝と皇太子にお会いする時は、リョウさんが見繕ってくださるし、王都を去ってしまえば、しがない薬師へ戻るだけです。鏡が必要な時はありませんよ。」

「しがないって事があるかね。王室は隣国のことや病のことを薬師頼みだ。」

「いいえ。それでもしがない薬師にかわりはありません。薬師に驕りは禁物なのです。」

旅をしながら民の病を見て、勉学に励む。そしてその知識と技術をもとに王室の病を一手に担うのが、シンビ国においての薬師の役割だった。

薬師を拝命しているのは今現在シンビ国において十名。薬師は世襲ではなく、その多くが捨て子であること以外に共通点はない。

フェイも例に漏れず捨て子だった。今は亡き薬師に拾われ、一緒に旅を続け、生活の術から動植物、病の知識を学び、十五の歳で自らも薬師を拝命された。

薬師には長がいる。長だけは王宮で暮らし、四方に散った薬師から情報を得て、王族専属の薬師として働く。

しかしその長も元は流浪の民。旅をすることでその腕を磨いていた者だ。だから薬師の中の薬師。フェイは今の長を密かに賢者と崇めて、勉学に励んでいた。尊敬できる師。いつか自分も人望を集める薬師になりたいと願っている。

リョウが湯浴みの後に渡してくれた部屋着は上等なものだった。しかし天帝に謁見する時にまとう衣はもっと上等なものだから驚くより呆れてしまう。

薬師の藍をベースにした布地に金の糸で国鳥があしらってある。それが薬師の正装と定められていた。

旅の途中で高価な正装を持ち歩くのは危険だ。この豊かなシンビ国であっても、良からぬことを考える者もいないわけではない。

大抵の薬師は王都の宿屋に預けたまま旅をする。それぞれに行きつけの宿屋があるのだ。カンが営む宿屋に連れてこられたのは五歳の頃。師匠行きつけの宿屋であったことから、独立し彼が亡くなった後もここを拠点としている。

「カンさん。ちょっと、風に当たってきます。」

「夕餉は新鮮な魚があるよ。」

「それは楽しみです。」

宿屋を出て、大通りへと向かう。天帝と王族が暮らす王宮へと繋がる真っ直ぐな道は、いつ見ても圧巻。これほど堂々たる様をした道は、他に類を見ない。

他国も研鑽を積むために足をのばすが、整然とし、綺麗に舗装され、その美しさに負けないほど活気に満ちた人々で埋め尽くされることは、シンビ国以外にはありえない。

天高くそびえ立つ荘厳な王宮を見上げて、フェイは感嘆の息をついた。

相棒のキィは無事に世羅のもとへ文を届けてくれただろうか。世羅が年に一度の文を首を長くして待っていることを知っているだけに、寄り道などせず辿り着いてくれているといいのだが。

「キィは綺麗なものが好きだし・・・」

いつかの年は、王宮の窓枠の飾りが風に揺れるのに惹かれたらしく、フェイのもとへ帰還するまで一日要してしまった。そのことを目撃した世羅の兄、理世が病床で笑っていた。

久々に面白いものを見た、と理世は楽しげだったが、一方の世羅は不貞腐れていたっけ。

まだフェイが独り立ちする前の話だ。

不満げに口を曲げていた少年は、いつしか寡黙で優美な青年へと成長した。

フェイは世羅の漆黒の髪が風にたなびくたびに見惚れ、白い陶器のような滑らかな肌に気高さを感じるようになった。

人を寄せ付けないような素振りをするくせに、本当は寂しがり屋な世羅。病床に臥せ、先のない兄に代わり、次の天帝として期待されてきた。賢く、聡いが故に、期待に応えてきた彼は、きっと己を封じた事が何度もあるのだろう。

流浪の民であり、薬師の中で一番歳が近いフェイを慕ってくれていた。泣き言は口にしなくても、一晩中語り明かすことで世羅は肩の力を抜く。フェイとの語らいは世羅にとって年にたった一度の息抜き。

フェイにとっても、誠実で探究心に満ち溢れた世羅と語らうことは、この上ない楽しみであった。

「世羅様はお元気でいらっしゃるだろうか。」

王宮のモザイク壁が、陽の光を反射して四方にまばゆい色彩を放つ。その美しさに目を細めながら、フェイはしばし立ち止まって、その輝きを目に焼き付けた。















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