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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園「三人の少し前」27

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新緑の楽園「三人の少し前」27

今朝、食堂で顔を合わせた時から微かな予感はあって、二階から三階へ引っ越しを終えるやいなや、光は隆一の部屋を訪ねてきた。これから一年間、後輩の目はなく一人部屋を満喫できる。解放されて嬉しいはずなのに、隆一の頭では憂鬱の種が芽を出していた。

「点呼終わった後も来ていい?」

光は二人の関係を進める意欲に溢れている。隆一からしてみれば、一人部屋で二人の関係を隠すことが容易くなったので、かえって断る口実を失ったかたちだ。

「良いわけないだろ。」

もう一週間も前から、何度もこのやり取りを繰り返していて、光は全く諦めていない。

「おまえがヤダって言っても来る。」

「ッ……。」

「何が問題なんだよ。」

春休み期間、泉ノ森の生徒はほとんど帰省しない。宿題に励む生徒もいれば、部活に精を出していたり、自室で羽を伸ばしていたりと様々だ。外出者を募って学校のバスで街へ出られる日もあるので、さほど不自由ではない。隆一も光に半ば強引に連れ出され、彼がドラッグストアであれこれ買い込んでいたことを知っている。隠す様子すらなかったので、確信犯だろう。

「何にも話してくんないから、わかんないよ。」

「……。」

「黙るの禁止。」

「光が……」

「俺が?」

光は困るようなことばかりしてくる。何度も好きだと言われ、キスをして、その気になっているのは隆一も同じだ。けれど彼の抱く好意が勘違いだったらと恐れる気持ちが胸に巣食っている。この不安を取り除く方法はなかなか見当たらない。

自分が光に触れたことはあるが、光は男同士など未経験だろう。いざ事に及んでやっぱり違ったなんて言われたら、きっと立ち直れない。今が幸せだからこそ怖い。このままの緩やかな関係でいいではないか、と及び腰なのだ。

「……何でもない。」

「あー、もー……俺って、そんな信用ない?」

「そんなこと……」

「そんなことあるから、イヤなんだろ?」

ベッドに腰掛けていた光が、急に身体を仰向けにして掛布団の上に沈み込む。

「好きなら触りたいって思わない?」

「……。」

「隆一のこと抱きたいなぁ、って思い始めたら、そんなことばっか考えて、夢でも見るし。」

隠さないにもほどがある正直な申告に、隆一は椅子に肩を預けながら唖然と光の顔を見つめる。

「俺、ちゃんと男のおまえが好きだから。」

せめぎ合う心の中で、信じたい気持ちが勝っていく。もとより頑なに拒む気などなく、押しの強さに負けたフリをして、主導権を握っていたいだけなのかもしれない。自分でも心の中で繰り広げられる矛盾が煩わしい。ここまで自分を悩ませるのも、霞を切り裂いてくれるのも、光の存在だけだ。

「なんもしないから、こっち来て。」

声音で昂っているのだとわかる。大きな溜息と共に堪えようとしているのも伝わってくる。

「もうちょっとで点呼回んなきゃいけないし、ホントなんもしないから。」

天井を向いていた光の目が隆一の姿をとらえる。光の熱い視線に耐えられなくなってすぐに目を逸らしたが、光の横たわる場所から少し距離をとってベッドへ腰掛ける。

「逃げられると追っ掛けたくなる。」

「ッ……。」

光の手が急に伸びてきて、隆一の腕を掴む。そのまま起き上がった彼は、あっという間に距離を詰めてきた。

「捕まえた。」

抱き締めることもキスをすることも、光は躊躇わない。当たり前のように与えて誘ってくる。

「ッ、恥ずかしくないの?」

顔から火でも噴きそうなくらい空気が甘い。居た堪れなくて、捕らえる腕から逃げようともがくが、力では全く敵わず、彼の身体はびくともしなかった。

「全然。必死だもん。」

殊勝な笑みに押されて、二度目のキスを受け止める。心臓が忙しなく鳴って、点呼までの五分が異様に長く感じられた。









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