点呼を始めると大抵の生徒は気を回してドアを開けて待ち構えている。しかしドアを叩いても呼んでみても反応がないのは春哉だった。部屋の前で隆一は光と顔を見合わせる。
「カギ掛かってるし、中にはいるよね。」
「あいつ、寝てんのかも。春哉ぁ、出てこい!」
光が遠慮なく拳をドアに叩きつけていると、部屋の中で物音がした後、ペタペタと足音がドアへ向かって近付いてきた。
「ふわぁ……ぴかりん……?」
大きく口を開けて欠伸をしながら現れた春哉は、何故呼び出されたか理解していないようだった。彼にとっては毎日ある点呼も、生活を引き締めるための時間にはなっていないらしい。緊張を強いられない生活が良い事なのかどうなのか、学園生活を全力で楽しむ春哉の姿を知っているだけに、即座に否とは言えない。
「寝てたのか?」
「んー……。」
「点呼忘れんなよ。」
「ふぁーい。」
欠伸をしながら返事をする春哉に光の目が細められ、注ぐ眼差しが柔らかくなる。大きな手が春哉の小さな頭部を撫でて、寝癖で散らかっていた髪はさらに四方八方へ揺れた。まだ半分夢の中にいるらしい春哉は警戒心がまるでない。隆一の目にはいつも以上に幼く映る。
「もう、寝ていい?」
「ああ。おまえ、具合でも悪いのか?」
「ううん。いっぱい走ったから疲れた。」
「部活か?」
「おにごっこ。」
「……寝ろ。」
心配して損したとばかりに光は呆れ顔を見せる。けれど具合が悪いわけではないことに、きっと内心安堵しているんだろう。言葉にしなくても光の横顔を眺めているだけで心の機微を拾ってしまう。自分の手でせっせと胸に小さい針を刺しているようなものだ。
「朝、ちゃんと起きろよ。」
「んー。」
「もう面倒見ねぇぞ。」
きっとそれは嘘。なんだかんだ、光は春哉の世話を妬きに来るんだろう。隆一には必要のない手助けだから、羨ましがるのは間違っている。しかし構う比重が春哉の方が重い気がして嫉妬しているのだ。認めるのは悔しいから、光に意地を張り続けてしまう自分が目に見えるけれど。
「光、次行こう。」
「おう。」
大股で歩き始めた光の背を追おうと足を出したところで、後ろから服を引っ張られて振り返る。
「やなぎん。」
小声で呼ぶ春哉が手招きをする。そして肩に手を乗せた春哉が顔を寄せて、すかさず耳打ちしてきた。
「もう、ぴかりんから卒業するから、安心してね。」
「ッ……。」
「おやすみー!!」
春哉が隆一から身体を離して逃げるようにすばやく部屋へ引っ込んでいく。ウインクしてきた春哉から目を逸らし、平静を保って光のあとを追うのが精一杯だった。
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朝霧とおる