追いかけてくる理央の視線に内心苦笑しつつ、勝田にまた揶揄われたなと思いながら受話器を上げた。
この時期の意味深な電話とくれば人事だ。理央は良からぬ心配をしているのかもしれないが、当分、真も理央も異動はない。勝田の電話は来年度から入ってくる新入社員の話だろう。研修終了の時点で辞退者が出なければ、ようやく新人を寄越してもらえることになっている。
そして今回の人事で真の昇進も予定されている。今の支店長が日本に呼び戻されるため、真がそのまま持ち上がることになった。
『あ、小野村?』
「はい。お疲れ様です、勝田さん。」
『島津、落ち込んでる?』
「何吹き込んだんですか、まったく・・・。」
堪えもせず電話口で笑う勝田に、真は溜息をついた。フォローする身にもなってほしい。しかし落ち込んでいる理央を想像し、その一連の過程を楽しんでいる勝田に小言を言ったところで無駄だろう。毎回そのパターンに引っかかる理央も理央だ。
『社長の孫、そっち送るから。』
「そうきましたか。よく社長もゴーサイン出しましたね。」
『本人の希望ではあるらしいんだけど、馬鹿じゃないことを祈るばかりだね。研修でどんな感じか一応見とくよ。報告書付きで彼女送るから。まぁ、使い物になりそうなら、こき使って。』
勝田の物言いは相変わらず容赦ない。元々大して昇進に興味がない勝田は、ある意味怖いものなしだ。上層部からどう思われようが興味もないのだろう。
「でも、何でうちなんでしょうね?」
『大学の専攻は一応、東南アジアみたい。卒論もそっちの食環境だとかなんとか、社長が誇らしげだったからね。』
「こっちとしては頭が良いか悪いかよりも、やる気と向上心があるかどうかの方が大事ですよ。新しいことを柔軟に吸収してくれないと、やること成すこと、ほとんどこっちは手探りですから。働き方のマニュアルがあるわけじゃないですからね。」
『小野村もいい事言うようになったなぁ。入社式の挨拶、それにする。俺が考えたことにしといてくれる?』
「・・・お好きに、どうぞ・・・。」
本気かどうかわからない軽い口調はいつも通りの彼だ。しかし今日は幾分いつもよりテンションが高い。
「なにか良いことありました?」
『うん。あったよ、あった。本社、過去最高益だったの知ってるでしょ?』
「そうですね。」
『年末、みんなを激励した甲斐あったなぁと思って。』
勝田の激励は、激励であってそうではない。彼の直属にいる本社営業はさそがし戦々恐々としながら、四方八方へ走り回ったことだろう。
しかし勝田はおだてて盛り上げるのが上手い人だ。勝田の下にいると大変ではあるものの、不思議と良い結果が出る。彼の敷いたレールに乗っていることを気付かせないくらい自然に引っ張ってくれる。手柄をしっかり数字でくれるので、やった本人は達成感も味わえるというオマケ付きだ。
「こっちにいても、勝田さんの視線を感じる時があって気が気じゃないですよ。」
『愛だよ愛。可愛い部下にはめいいっぱい愛を注いでるからね。結果出ないと、俺が、というより、本人が辛いでしょ? 尻を叩いて回るのが俺の仕事。』
「ところで・・・」
『ああ、どっち? 俺? 小野村?』
「どっちもです。」
『小野村は決まり。そっちは他にあてがう人間がそもそもいないでしょ。俺はねぇ・・・どうかな?』
電話口で笑う勝田は楽しげだ。真が本社を離れて早五年。空気はだいぶ変わっているだろう。しかし肌で感じることがなかなか難しい距離だから、予測することも難しい。
『まぁ、二週間も待てば結果は出るから。ヒヨ子がピーピー騒がないように可愛がってあげて。』
三十四にもなった男にヒヨ子はないだろう。しかし彼にとってはいつまで経っても危ういヒヨ子に見えるのかもしれない。
『じゃあね。堂嶋にもよろしく言っておいて。』
「はい。では、また」
切れた電話を置いて、デスクから視線を上げると、理央とバッチリ目が合う。気まずそうにすぐそらされたが、全く可愛い恋人だ。全神経を尖らせて、勝田と真の話を聞いていたに違いない。
しかし最初からその気配には気付いていたので、あえて断定するような情報を口にしないよう気を配っていた。少々意地が悪いが、不安げに答えを待っているさまが新人時代の理央を彷彿させて懐かしくなる。もうちょっとこのまま泳がせて、縋るような視線を浴び続けるのも一興かな、などと考え始める。そう思う自分は性格が悪くなったのだろうか。
「理央」
ピクリと肩を震わせて、恐る恐る真の方を向いた理央。笑いを堪えるのに一苦労だ。
「本社宛の議事録書いてないの、おまえだけだぞ。」
「す、すみません。四時までには終わらせます。」
「そうしてくれ。」
やっぱり意地悪になったな、と心の中で自分に呟いて、帰ったらアフターケアに徹しようと決めた。
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こんにちは。
連日、失礼いたします。
ブログ村から閲覧いただいている皆さまへお詫びです。
ブログ登録の設定を気付かぬうちに弄ってしまっていたようで、
BL小説の部門からいつの間にか表示が消えておりました。
いつ頃から消えていたのか定かでないのですが、
読みたいのに辿り着けなかった!という方がいらしたら、
ご迷惑おかけしましたことをお詫びいたします。
申し訳ありませんでした。
設定が反映されるのがいつ頃になるのかわかりませんが、
近日中に復活するかと思いますので、よろしくお願いいたします。
あっという間に9月。
ついこの前、年賀状に追われていたのに・・・。
久しぶりの4連休に入っておりまして、
遅めの夏休みを満喫しています。
学生時代の夏休み明けは半分屍のようになりながら通学しました。
最初の一週間が勝負ですよね。
ここで何とか持ち堪えていただきまして、勉強頑張ってください。
社会人になると長期休みがないので、身体のサイクルが崩れず、
個人的にはメンタルも体調も良好です。
さて、今後の作品ですが。
またしばらく現代もので連載していこうと思います。
この先1か月くらいは「ツインタワー」「幸せを呼ぶ花」で進行いたします。
しかしその先が・・・未定です(笑)
社会人同期入社CPを書くか、大学生・喫茶店バイト仲間CPを書くか、全寮制高校CPを書くか・・・その他諸々で、どれも断片的で、迷走中でございます。
もし上記三つの中でご希望コースございましたら、お気軽にコメントくださいませ。
長くなりましたが、お付き合いいただきまして、ありがとうございます。
朝霧とおる
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朝霧とおる