同じ毛布から二人で顔を出す。互いの温もりを分け合う心地良さに、なかなかベッドから抜けられずにいた。
気持ちが最高潮に達していた昨夜は納得できていたことが、頭が冴えると立ち止まってしまう。香月に甘えていいのかどうか。
本当に自分は面倒な性格をしている。どうして心がこんなに捻れてしまったのだろう。
幸せなのに、迷う。彼の甘さに浸りたいのに躊躇する。
「冷静になると考えちゃう。香月くんは、本当に俺でいいの?」
「勝田さんがいいですよ。」
「そっか。」
「なんで、そんなに難しく考えちゃうんですか? 一緒にいたい時、一緒にいれば良いんですよ。ね?」
「それって、君を都合良く扱い過ぎじゃない?」
「俺だって、十分自分勝手ですよ。自分の都合の良いように、あなたを誘ってる。唆(そそのか)して、あなたが求めてくれる事に優越感を持ってる。大丈夫。だって俺たち、相性良いと思いません? 一緒にいるだけで心地良くて、ちょっとドキドキしてるのは俺だけですか?」
何だか凄く負けた気分だ。論破するのは自分の得意分野なはずなのに、香月には自分の弱さや曖昧さを打ち負かされてばかり。でも彼の優しさからくる言葉だとわかっているから、背を向ける気にはならない。もっともっと諭して納得させてほしくなる。
「勝田さん。俺はね、蓮さんと同じ土俵には立てない。」
「・・・。」
「蓮さんは、勝田さんの中で一生特別な人だと思います。勝負しようなんて思わない。でもね・・・」
香月の右手が勝田の頬にそっと触れて、香月が柔らかく微笑む。でも口から出てきた言葉には強い覇気を感じて、彼の纏う空気に呑まれる。
「今、勝田さんの隣りにいるのは俺です。」
勝田を見つめる香月の目には何のブレもない。真っ直ぐで何の躊躇いもない目だった。
「蓮さんの事・・・今まで通り胸に仕舞っておいて下さい。大事な思い出なんでしょ?」
また、香月に丸め込まれていくんだなと思いながらも、それが嫌ではない。香月がずっと先の未来を見て、自分を諭してくれる事が嬉しかった。
「俺と一緒に歳を重ねて下さい。あなたをたくさん笑顔にしますから。蓮さんと歩めなかった事を悔いるんじゃなくて、俺と一緒にやりたかった事を叶えましょう? きっと蓮さんは、勝田さんの幸せを祈ってくれてますよ。勝田さんが蓮さんを想うあまりに不幸になったりしたら、悲しみます。」
「どうやったら、幸せになれる?」
寄りかかり過ぎている。自分の幸せを他人に見つけてもらおうなんて、ただの甘えだ。けれどそんな臆病な自分に、香月は何の憂いもなく嬉しそうに告げた。
「毎朝一緒の布団から起きて、ご飯を食べて、また一緒に眠るんです。」
思いがけずシンプルな答えに、勝田は呆気に取られる。
「それだけ?」
「それだけです。自分の事を気に掛けてくれる人と一緒にいると、安心しますよ。寂しくない。」
寂しくないのは魅力的だな、と思う。寂しくない毎日は、確かに自分が欲しかった日常だ。
香月は自分の事を大切にしてくれる。欲しい言葉をくれて、側にいてくれる。気が利いて、波長も合う。一緒に暮らすのに、何の不満もなかった。
「明日、引っ越す。」
さすがに香月が驚いた顔をする。
「そんなにすぐ、引っ越し依頼ってできるんですか?」
「できるんじゃない? 特急料金取られちゃうかな。」
「そこまで急がなくても・・・」
可笑しそうに香月が勝田の肩口に顔を寄せて笑う。
「思い立ったが吉日って言うじゃない。」
「・・・そっか。」
「そうだよ。」
幸せだな、としみじみ思って、唐突に気付く。
そうか、これが自分が欲しかった幸せなんだと気付いて、暫し呆然とする。急に胸がいっぱいになって、苦しいくらいに胸が疼いた。
香月の胸に額を押し付ける。何も言わずに、当たり前のように抱き締めてくれる。心が震えて泣きたくなった。必死に唇を噛み締めて耐えるのは滑稽だけど、さすがにこの歳で人前で泣く醜態は避けたい。
目をギュッと瞑って、香月の温もりだけに浸る。雑念を全て追い払って、何とか込み上げてくるものを引っ込めた。
もう一度頑張ってみよう。この愛を温めたら、今まで自分が知ろうとしなかった幸せが案外当たり前に降り注いでくれるかもしれない。
「香月くん」
「はい?」
「ありがとう」
どういたしましての代わりに舞い降りてきたキスを、勝田は穏やかな気持ちで受け止めた。
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このたびは、「幸せを呼ぶ花」全32話にお付き合いいただきまして、
ありがとうございました。
連載中、たくさんのアクセス、ブログ村へのポチ、
重ねて御礼申し上げます!!
捻くれて厄介な勝田さん、楽しく書きましたが、
読まれている方はさぞかしお疲れかもしれません(汗)
さて、次回作について本日2月27日18時に告知をさせていただきます!!
またお付き合いいただけたら嬉しいです。
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朝霧とおる