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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花25

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幸せを呼ぶ花25

ただご飯を共にし、お酒を飲み、そして二人で同じ布団に潜り込む。そして日曜日の昼、勝田は帰っていった。

勝田の顔が曇っていたのは斎藤夫人が来た後の、ほんの僅かな時間だけだ。やはりあの時感じ取ってしまった違和感が拭いきれない。

嬉しそうに去っていった勝田に反して、皐は晴れない気持ちで月曜日を迎えていた。

今日はフラワーアレンジメント教室で、斎藤夫人と会う。彼女の亡くなってしまった息子の話は何度かかい摘んで聞いたことがある。皐の方から掘り下げるのは躊躇われるが、どうしても気になる。

根拠といえば勝田の態度くらい。けれど自分の勘が何かあると告げていた。勝田が花を手向けに通っている川沿いの土手と、斎藤家のお宅はさほど距離もない。勝田がここで生まれ育っていたとしたら、勝田と斎藤夫人の息子が顔見知りであった可能性は十分にあり得る。しかも年の頃合いも同じくらいだろう。

知りたいような、知らない方が良いような、複雑な心境だ。知ったところで自分が勝田の支えにならないのなら意味がない。かえって勝田を傷付けるだけかもしれないのだ。

皐は花屋の二階に上がって、今日使う花材の準備を進めていた。勝田が手伝ってくれた針金を二十本ずつ分けて置いていく。

斎藤夫人がもしまた息子の話をしてくるような事があれば少し掘り下げてみればいい。してこなければそれまでだ。そこまで考えて、悩むことをやめる。心の変化がそのまま作品に出てしまうからだ。

人を笑顔にするための教室。だから教える立場の自分が一番朗らかな気持ちでいたい。

深呼吸をして今日仕入れてきた花たちを眺める。一足早く実りの秋を感じられるように揃えたラインナップ。開け放った窓からは熱気が流れ込むと同時に、風がそっと肌を撫でていく。

季節が移り変わっていくように、勝田の心にも変化が訪れて欲しい。皐はススキの穂が揺れる様に暫し見惚れ、秋の訪れを待ち遠しく思った。

 

 





 

 

約束通り、きっかり三十分遅れでやってきた斎藤夫人は、ススキを懐かしそうに眺めていた。昔は近くの土手にもたくさんあったらしい。皐はコンクリートで固められてしまった後のことしか記憶にないので、身近に自然の営みを感じられる場所があった彼女たちを羨ましく思う。

「私の息子もね、よくあの土手で遊んでいたわ。」

亡くなった息子の話が出てきて、心臓が嫌な跳ね方をする。

「お友だちと泥だらけになるまで遊んで、そのまま家に上がろうとするのよ。そのたびに怒ったものだけど、めげずに次の日はまた泥だらけ。」

「それじゃあ、お掃除、大変じゃありませんでした?」

「そりゃ、もう・・・。でも子どもは元気なのが一番。でも不思議ね・・・あの子生きてたら、香月先生より上なのよ。随分とおじさんね。」

「近所だから呑み友だちにでもなってたかもしれません。」

「まぁ、そうよね。歳が離れてても、お酌し合うのは楽しそう。どうしようもない事で盛り上がったりするのかしら。」

「お酒が入ると、自然と距離って縮まるものですよ。一度息子さんと飲んでみたかったな。」

「そうね・・・あ、そうだわ、香月先生。」

リースを作るべくススキの穂で輪を作っていた斎藤夫人だったが、急に手を止めて皐の方を見る。

「うちの子の命日にお花をお願いしたいんです。誕生日の時作っていただいたお花、主人も気に入ってね。是非またお願いしようって話になって。今回は一万円くらいで見繕っていただきたいの。」

「もちろんです。あの・・・もしよかったら、自分も手を合わせに行きたいんです。」

斎藤夫人が驚いたように、けれど嬉しそうに破顔する。

「わざわざ悪いわ。」

「何度もお話しを伺っているうちに、他人事ではなくなってきて。もしご存命だったら親しくなれたかもしれないと思うと、会いたくなりました。」

勝田のことがあるから気に掛かっているのも事実だが、本心から手を合わせたいと思っていた。
病気で高校生の時に亡くなってしまった斎藤夫人の息子さん。明るく活発なサッカー少年だったそうだ。そんな彼は病という壁にぶち当たり、還らぬ人となった。

やりたい事が沢山あっただろう。三十二年生きた自分ですら、死を身近なものには感じないというのに。彼はたった十八年で、未来への道を断たれたのだ。

自分がもしそんな状況になってしまったら、悔しくて堪らなかったと思う。まだ何も成し得ていないと、正気ではいられなかっただろう。

けれど彼はそんな自分の運命と向き合って、その生を全うしたのだ。亡くなった時、とても安らかな顔だったと斎藤夫人は語っていた。

そんな彼に会ってみたいと思う。彼の誕生日の時に見繕った花は、春らしい華やかな装いになるよう心掛けた。喜んでくれただろうか。

命日の花も彼が寂しくなったりしないものにしたい。命の輝きを自分の手で彼に届けよう。

「斎藤さん、当日はお宅までお持ちします。」

「まぁ、嬉しいわ。あの子もきっと喜ぶ。」

「はい」

人との縁はきっと自分の糧になる。彼の事を知ったのも、きっと何か意味がある。勝田の事も然りだ。

季節はとどまることなく巡っていく。出会う事の叶わなかった彼。皐はその彼に贈る花を思い描きながら、斉藤夫人にもう一度微笑み返した。













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