ただ欲望をぶつけたいだけなら、恋人になる必要なんてない。弱っているなら力になりたいし、この気持ちが報われてほしいとも思っている。だから甲斐が一人殻に閉じこもっているなら、さほど進に恋人としての存在意義なんてない。
簡単に明渡せない弱い部分を曝け出してくれるのは、独占欲が満たされる。甲斐の特別な部分に触れられるという優越感。身体を許してくれるのも勿論嬉しいけれど、精神的に頼られたい欲求は付き合う当初より膨らんでいる。
「甲斐」
「ん……ッ……」
挿し入れた指に吸い付いてくる内壁は、熱を帯びて柔らかい。しかし時折、本来の機能を思い出して進の指を押し戻してくるので、甲斐の顔色を何度も窺って少しずつ秘部の奥へ指を侵攻させる。
「も、いいから、早くッ。」
愛撫の時間が長くなればなるほど力を抜くコツを掴んで余裕が出てくる。すると彼の中に羞恥心が舞い戻ってくるから、怒ったように先を促してくるのは毎度のことだ。
「ホントに大丈夫か?」
下肢に伸びてきた甲斐の手をやんわり遮って、進はキスで誤魔化す。
「大丈夫だから、早く……もう、手、しつこい!」
「甲斐、そっちじゃない。」
「んッ……なに?」
「気持ちの整理はついたのか、ってこと。」
「もう、平気だって……」
「言えよ、全部。」
奥を突いていた指を抜くと、喪失感をおぼえたのか、甲斐が身体を震わせる。すかさず抱き締めて唇を食みにいくと、応えるように甲斐の口が緩んで、進の舌を受け入れる。
「ふッ……ん……」
彷徨っていた甲斐の手が進の肩を掴んで落ち着くまで待ち、貪っていた唇を離す。すると目を合わせてはくれなかったが、悔しかったのだと甲斐が言葉をこぼした。
「おまえに騙されてるんじゃないか、って言うんだよ。今藤のこと何も知らないのに、勝手に悪者にするから許せなくて。」
「そうか。」
「こんなにキレたの、初めてかも……」
わりと容易に想像がついてしまうのは、彼が普段から自分らしさを隠さないからかもしれない。
真っ直ぐで、曲がったことが嫌いで、嘘をつくのが苦手。どれも進にはなく、憧れ、惹かれるところだ。口では勝気だったり素直にならない事もあるが、すぐ顔に出るから、彼に対して進が疑心暗鬼になることはない。
「喜んでくれとは言わない。」
「ああ。」
「でも……受け止めてくれる、って、どこかで期待してた。」
「そうだな。」
「だから……」
ショックも大きくて乱暴な言葉をぶつけてしまったのだと、唇を噛む。正面切って向かっていくところが甲斐らしくて、愛おしい。しかしその想いは心に秘め、痛々しく鋭利な歯に食まれる甲斐の唇に、そっと指を這わせて解いた。
「だからって、酒に逃げるのはいただけないな。」
「ゴメン……」
「逃げるなら、俺のとこに来い。」
「みっともないとこ見せたくない。」
「散々泣いてる甲斐、見てるけど?」
「ッ……そ、それは、違う意味だろッ!!」
赤面して抗議してくる元気さにホッとするのと同時に、少しだけ悔しさも湧く。
「一番に慰めんのは、俺じゃないとダメ。」
上田とデートをしたらしいから、これは恋人として黙っているわけにはいかない。微笑みながら耳元で告げると、甲斐が慌て出す。
「こっちは気が気じゃないのに、浮気とはいい根性してる。」
「あれは、ちがッ、んんッ!!」
唇を塞ぎ、お喋りに気を取られて芯を失いかけていた甲斐の分身を握る。勝手に酔い潰れ、目を離した隙に立ち直ったことは納得がいかないが、荒んだ心が落ち着きを取り戻したことは肌で感じる。何かと感情で動く彼が、冷静に事の顛末を告げてくることがそれを物語っている。
「あ、待て。バカ、こんどッ!」
急に再開した愛撫に頭がついていかないのか、身悶えて目を固く瞑る甲斐を、じっくり見下ろす。
甲斐の分身に一気に血が通っていくさまを手の中に感じながら、反対の指で秘部を掻き乱した。
「あッ、あぁ、ん、ヤダ。はやッ」
腰を幾度も浮かせながら進の愛撫に応えてくる甲斐の顔が泣きそうに歪む。この顔を見たくて、抱いていると言っても過言ではない。
「甲斐、泣けよ。」
囁くように頭上で呟いた進の声は、喘ぐ甲斐には届かなかっただろう。その証に彼は髪を振り乱すだけで、気持ち良さそうに口を薄っすら開けて息を上げている。
「あ、ヤダッ。こん、ど……イくッ」
「ゴメンな、甲斐。お預け。」
本心からの謝罪ではない。戯言の類いだ。
込み上げてきたらしい射精感に焦ってシーツを掻く甲斐に、進は意地悪をして愛撫の手を止める。進は手の中で先端をヒクつかせて精が通るのを待ち侘びた甲斐の屹立から、絡めていた指を解き、膝の裏を抱え上げた。
「もう、ヤダッ。すげぇ、意地悪……」
絶頂を交わされて、甲斐が目を潤ませて睨んでくる。その顔に煽られて完全に息を吹き返した自分の分身を見せつけるように数度扱く。しかしゴムを取ろうとした進の手を甲斐が遮った。
「あとで大変だぞ。」
「いいから、早くッ」
甲斐の秘部に充てがうと、包まれる熱さを脳裏に描くだけで進の分身は期待に張りを強くする。
「あ、ああぁ、んッ、くる、し……」
「甲斐が、煽るからだろ。」
悪態を突き合いながら熱情を甲斐の中に沈めていく。甲斐の手を取り、歯を食いしばって、どうにか下肢に走った快感を逸らした。
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朝霧とおる