陽が昇る少し前。キィは寝床を綺麗に整え、大事な宝物を葉の裏に隠し、フェイが眠っているであろう世羅の寝室へと向かった。
すっかり寝入っていると思いきや、主君はお目覚めで、愛おしそうに横で眠る世羅の顔を眺めていた。
しかしそうしていたのも束の間で、陽が部屋の中に差し込みはじめたのを見計らって、そっと寝台を降りた。
そして手早く衣も身に付けて、部屋を出て行ってしまう。
どこへ行ってしまったのかと伺っていると、すぐ隣りの部屋の出窓が開けられた。
「キィ、もう起きていたのですか? 早いのですね。」
どうやらフェイはこちらに気付いていたようだ。彼の手には好物のムギが握られていて、こちらに向かって差し出してくる。
キィは一声鳴いて、フェイの肩へ降り立つ。優雅な朝餉を楽しめる素晴らしい朝だと油断していたら、フェイの背後からバタバタと騒がしい物音が聞こえてくる。
「フェイ!」
「世羅様・・・もうお目覚めですか?」
「抜け出すことはないではないか。寂しいだろう?」
フェイが困った顔で俯くので、絶好のチャンスだとばかりに、キィは世羅に向かって威嚇をはじめる。しかし思いのほかフェイから制止され、キィは首を傾げた。
「キィ、世羅様にそういうことをしてはいけません。」
主君の危機に参戦しただけだったのだが、空振りに終わって消化不良の思いをかかえる。そして世羅の勝ち誇ったような顔がとても気に食わない。
「フェイ、私に黙って抜け出すのは今後禁ずる。」
「え・・・?」
世羅がフェイの唇を奪う。フェイの目は驚いて見開かれたままだった。
「目覚めの儀式をまだしていないだろう?」
フェイの手からバラバラとムギの実が落ちてしまったので、キィは仕方なく床からついばみ始める。
恋が人を盲目にさせるのは本当らしい。フェイも世羅も、ちっとも落ちた実に気付かないで、二人の世界に入り込んでしまっている。
こんなに美味しい実を粗末に扱うなんて。
キィは愛に浸って見つめ合っている二人に呆れながら、黙々と朝餉を再開した。
* * *
旅路の支度は、王宮に留まっている間も細々と続けていた。
ライのもとで、薬草に関する巻物の執筆に駆り出されていたので、さほど退屈する暇もなく、時はあっという間に春を告げた。
世羅の生誕祭。去年は三人分並べられていた席も、今年は世羅一人。惜しまれながら去った者と、憎しみを募らせた者。
フェイにとっては未来を切り拓くために、どちらも欠けてはならない存在だった。
失って、その偉大さに気付き、疎まれて、愛される奇跡を知った。
初めて募らせた想いは天に召され、心の奥底で静かな眠りについている。時々ふと空を見上げて思い馳せることがあったとしても、つらい思い出ではなく、愛しい記憶として、この胸に一生刻まれていることだろう。
まだ自分たちは長い人生の旅をはじめたばかりだ。隣りに立つ、深い皺を顔に刻み込んだライを見ていると、自分は遠く修行が足りないのだと諭されている気がしてくる。
春の始まりと世羅の誕生を祝うこの生誕祭が明けたら、隣国のヴェルに使者として向かうこととなっていた。
ヴェルは近隣の国の中でも特に豊かな国で、ただ一つの共和制国家だった。絶対君主がいない国。世羅はヴェルに学ぶため、役人の中から幾人か優秀な者たちを派遣することにしたのだ。そしてフェイは彼らの世話役として、道中を共にする。
世羅は何だかんだと口実をつけて、フェイを一人にしたくないらしい。しかし死にかけたことがある手前、心配するなとは言えなかった。いずれまた、一人で旅をすることもあるだろう。そのための腕慣らしとするのであれば、王宮にこもって無為に時を過ごすよりよほどいい。
「フェイ、準備はどうかな?」
ライが一人ずつ薬師の名を呼んで、今日、最大の見せ場である国鳥の舞に挑む用意をさせる。緊張で落ち着きのない国鳥もいる中、キィは堂々と胸を張って、フェイの肩に鎮座していた。さすが我が相棒と誇らしく思いながら、ライの出した合図と共に、フェイたちは虹色の輪を大空へ放った。
完
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ここまでお付き合いいただきました皆さま、
本当にありがとうございます。
息抜き替わりのファンタジー、楽しみながら書いていましたが、
果たして、楽しんでいただけたかどうか大変不安です。
今回は初めて鳥目線を盛り込んでみましたが(笑)
自分の危うい文章力に悶絶しながら、どうにか最後までたどり着きました。
明日からはツインタワーの短め第三部を掲載いたします。
小さなことでモヤモヤする島津理央を楽しんでいただけたら!
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朝霧とおる
2. はじめまして♪
碧眼の鳥、最高に面白かったですヽ(・∀・)ノ
私はファンタジーやSFが好きなんですが、BL界は現代日本という設定がほとんどで(私が知らないだけでファンタジーとかいろいろあるのかも知れませんが…)碧眼の鳥は私的には、待ってました!という感じで、毎日、楽しく読ませていただいていました。
私は理央と恵一と勝田さんがお気に入りなのですが、今回はフェイに心持ってかれましたww真っ直ぐで純粋で本当に可愛くて堪りませんでした。世羅の想いをちゃんと受け止めることが出来て良かったです。
今回、鳥目線が新鮮でツボでした(笑)
キィの呟き(ぼやき?)や、世羅との攻防戦は声に出して笑ってしまうほど面白かったです!
フェイとキィの固い絆に、胸を熱くして、理世の死に涙して、泣いたり笑ったり、いろんな思いや感情を噛みしめながら楽しませていただきました。
全49話、たくさんの感動をありがとうございました。毎日の更新もお疲れさまでした。
またいつかSSで彼らに会えたら…続編でルウイやソウが主役とか…魅力的なキャラ満載で期待は尽きません(笑)
素敵なお話をありがとうございました。毎日の更新は大変だと思いますが、体調にお気を付けてこれからもガンバってくださいね。応援しております。
次回から理央ですね~楽しみにしていますね(*^^*)
Re:はじめまして♪
このたびはコメントいただきまして、ありがとうございます!!
可愛く純粋なフェイを目指して書いていたので、伝わっていてホッといたしました。
今後も番外編というかたちをとって、世羅・フェイ・キィを中心とした色んな人の視点で書き続けたいと思っています。
また、世羅とキィは、競ってはフェイに叱られるという安定的な関係が続くことでしょう(笑)
体調もご心配いただきまして、ありがとうございます。
今のところ無事でございます(笑)
また、明日からの真×理央とのお付き合い、よろしくお願いいたします。