スタジオ入りした朝、マネージャーの岡前に突き出された一つの小さな箱に恵一は首を傾げる。これは何だと視線で問い掛けると、見てみなさいとだけ言われて渡される。海外から送られてきたように見える小包の送り主は紳助だった。
何故自宅ではなく事務所宛に彼は送ったのだろう。紳助は今現在、仕事の関係でドイツへ出掛けていた。建築を生業とする世界各国の同年代が集まり、セッションをするらしい。先端の建築資材や建築デザインの可能性に関して討論するという。興味本位で聞いてみたら専門的で、とても自分の頭では理解できそうにない。ざっくり話を聞き流し、事故と体調だけには気を付けてと、先日家から送り出した。
明けた中身はハンドクリームやらリップクリームやら、スキンケアアイテムがぎっちり入っていた。
「そういえば、ドイツって、オーガニックコスメの宝庫だよね・・・。」
「センスの良い恋人をお持ちで。」
頭上から岡前にサラリと揶揄われて、恵一は俯く。
「手紙とか入ってないの?」
「手紙・・・。」
岡前から指摘されてゴソゴソと中を探ってみると、有名な市庁舎のクリスマスイルミネーションを写したカードが、箱の底から顔を出した。ひっくり返して記されていた言葉に、恵一は赤面する。岡前は笑いを堪えもせず、咳払いもひとつ加えた。
「気障な恋人だね。」
「絶対、わざとだし・・・。」
“Dear K,
I spend every moment day & night thinking about YOU.
With All My Love,
SHINSUKE”
「岡前さん」
「うん?」
「なんか・・・」
「え?」
「なんかない?」
「なんか、って?」
「やられっぱなしじゃ、ムカつく・・・。」
人前で恥ずかしがって赤面する恵一を、わかって書いたような言葉。どう考えても、確信犯。
「そういうのは自分で考えないと、フェアじゃないでしょ。」
「・・・。」
ポストカードを少し乱暴に小包の中へ戻して立ち上がる。
「ちょっと・・・お手洗い行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
クスッと岡前に笑われたことも居た堪れない。しかし立ち上がらずにはいられなかった。
今日も、恋人に振り回される恵一の一日が始まった。
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(ケイへ。昼も夜も、おまえのことばっかり考えてる。愛を込めて、紳助。)
粘着質に心酔している恋人とか芸能人に向けて送る言葉として、はたして正しい表現なのか、ちょっとよくわかりません(笑)
どなたかわかる人、こっそりでも、堂々とでも、ご指南ください。判明次第、差し替えます(笑)
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朝霧とおる