*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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フロアに電話が頻繁に鳴り響く午後、理央の元にも一件の電話がやってきた。それも待ち望んでいた、例の日系企業からの電話だった。
「島津くん、三番にサニーの柳沢さんからお電話入ってます。」
「ありがとうございます。」
田浦から引き継がれ、無駄に意気込みそうになるのを何とか落ち着かせて応答する。
色好い返事、とまではいかなかったが、もう一度話を聞いて検討したいという前向きな意向だった。また懸念材料も提示して手の内を見せてきたので、手応えを感じる。明日にでもどうかと早速日程調整を求められ、すぐに了承の旨を伝えた。
受話器を静かに置いて、机の下で小さくガッツポーズをする。準備万端の書類を引っ張り出して、急いで客側の懸案事項を洗い出す作業に入った。今日明日、時間に限りはあるが、限られた時間で最大限パフォーマンスをしなければ、という緊張感に心が躍る。
「理央。電話、例の会社だよな?」
「はい。頑張って取ってきます。」
「頼むよ。」
肩を叩いた小野村の手がじわりと胸に温かさを届ける。好きな人に励まされて嬉しくないはずがない。その気持ちを無理に否定することなどないのだ。
仕事とプライベート、強引に線引きをしようとしていたが、自分には影響し合うくらいが丁度良いのかもしれない。良い影響なら誰にも文句は言われないだろう。そんなご都合主義な自分に内心苦笑いしながらデスクに向き直る。惚れた弱みを強みにするくらいの自分にいつかなってやろう、と心に決めて書類の手直しに取り掛かった。
決まる時は呆気なく決まってしまうものだ。
自分ではもう一押しをするつもりで乗り込んだが、説明が一通り終わった段階で先方から契約の旨を伝えられた。
今まで説明の場に出て来なかった責任者にも会うことが叶い、驚くほどのトントン拍子。一気に駆け上がった階段に少し怖いくらいの高揚感がある。
小野村に報告したところでようやく現実味を帯びて、収まりの良い感覚に着地することができた。
「明日にでも、っていうことは、実際は随分前から本決まりだった、ってことだろうな。」
「でもサインを貰うまでは何とも・・・。」
「そうだな。そういうもんだ。最後、バシッとシメてこい。むしろここからがスタートだ。」
「はい」
飛び抜けた規模ではないが、自分至上最高額の契約なので感動してしまう。小野村のデスクの前で落ち着かない気分で立っている自分は滑稽だけど、良い報告なのだからちゃんと胸は張っていたい。
明日は小野村に契約が成立したことを正式に報告できるかもしれない。これで今年度の予算も達成するし、マレーシア支店としても結果を社内に示せるのだ。気持ちが昂ぶらないわけがない。
「肝心な時にシマらないと格好も付かないから、契約書類揃えたら一度見せに来い。」
「はい」
今回は社外の人間も絡む仕事なので契約書類が膨大だ。リストを作り、二人の人間でダブルチェックする。契約は勢いというものが少なからずある。スタートで挫けないことは重要だ。新人でもできる準備を疎かにせず徹底的にやるのが、小野村のルール。
この一年、何度もそれを懐かしいと思った。小野村と一緒に仕事をしているのだな、という実感が湧いて嬉しくなる。明日無事にサインが貰えれば、自分の仕事は一区切りになる。後は現場に託すための準備とバックアップに随時移行していく。
ここで、小野村と仕事をすることが楽しい。自分の成長を見せられることもまた嬉しい。いつかこの人をあっと言わせられる日はやってくるだろうか。そんな日を想像して頑張るのも、また一興かもしれない。
契約が取れた時に感じる独特の浮遊感に浸りながら、理央は嬉々としてリストを目で追い、契約書類を整え始めた。
思っていたより昨日のことを引き摺らずにいられたのは、単に資料集めに苦戦した、ということもある。悩んでいる時ほど忙しいに限る。そっちに思考を取られないで済むからだ。
「堂嶋さん、ちょっとお時間いいですか?」
「いいよ。お、ようやく浮上した顔だな。」
苦笑いを返したが、堂嶋はそれ以上、特に追及してこなかった。
「食材のコストでわからないところがあって・・・ここ、なんですけど。」
「ああ、季節感ってことか。雨季と乾季で仕入れ値も変わってくるからな。直接農家と交渉して仕入れ値を確約するっていうのは・・・難しいか。日本ほど安定もしてないからなぁ。」
「常夏のわりには、ってとこなんですよね・・・でも、直接話してます。やってみないことには、わからないし。ありがとうございます。」
手を振って見送られて、俄然やる気が湧いてくる。ラーマンやオットに聞けば、心当たりもあるかもしれない。理央は早速二人に声を掛け、手を借りることにした。
結局ローラー作戦に近い状態ではあったが、調べてみた結果、思ったより安定供給を望める、ということだった。そして、企業向けに仕入れ値を固定してくれるところも結構な数が存在していた。
当たりをつけてラーマンやオットに直接交渉をしてもらい、ひとまず先方の要求をクリアできるだけの数を確保することができた。
「どうだ、進み具合は。」
「さっきまでバタバタやってた資料はまとめ終わって、今、先方にデータ送ったところです。」
「そうか。」
「あの、真さん・・・」
「ん?」
「今日・・・行っても良いですか?」
小声で聞けば、小野村が微笑んで頷いてくる。いつもの彼だ。そんな事に、凄く安心する。
自分が運悪く知ってしまって、勝手に落ち込んでいるだけだ。彼が悪いわけではない。でも気持ちの靄にはきちんとケリを付けたい。不安の芽は、自分の手で摘んでいくしかないのだ。
デスクに戻っていく小野村の後ろ姿を視界の隅で追いながら、一刻も早くカタをつける為にデスクへと向き直った。
小野村の部屋に招き入れられて、彼がソファへ鞄を置いたのを見計らって、すぐに背後から抱きついた。散々考えたけれど、やっぱり顔を見て言うのは怖い。面倒なやつだと思われることが怖かったのだ。
「俺と一緒に仕事した神崎さん、真さんの奥さんですよね。」
「元、な。」
思いの外、穏やかな声で訂正してきた小野村に内心安堵する。彼の地雷ではなさそうだった。
「俺ね・・・隠されたことがショックだった。隠し事はイヤです。真さんの口から、ちゃんと知りたかった。」
「・・・悪かった。」
あまりにも優しい声で謝ってきたので、拍子抜けして涙腺が緩む。溢れた涙が小野村のシャツに吸い込まれていく。
「悪意はなかった。知らないで終わるならその方がいいかもしれない、って思ったんだよ。ごめん。」
「ッ・・・なんか・・・あっさり、してる・・・」
「今朝、堂嶋から小言を喰らったよ。本当にごめん。許してくれるか?」
「・・・うん。」
ホッとしたら涙が止まらなくなった。自分で思う以上に傷付いていたらしい。小野村の背中にしがみついたまま彼のシャツに涙を押し付けて、大きなシミを作っていく。
「理央・・・」
小野村が頭をそっと撫でる。その掌が温かくて、完全に涙腺が崩壊した。
「ッ・・・」
泣いているのはとっくにバレているけれど、それでも泣き顔は見られたくなくて、しがみ付いた手を離せない。向かい合おうとする小野村に、ささやかながら抵抗した。
困ったように小さな溜息をついた小野村に、少し気分が良くなる。自分のことで頭を悩ませてくれることが嬉しい。ずっとずっとこの人の頭の中を占領できたらいいのに、なんてバカな事を思う。でもそれくらい、この人の事が好きなのだ。
「真さん・・・我儘で、ごめんなさい・・・」
「我儘じゃないよ。今回のことは、俺が勝手だった。」
不安にならないように、言葉を尽くしてくれているのがわかる。自分は彼から大事にされている。そのことがわかっただけで、今回泣くほど悩んだ価値があったというものだ。
「真さん。好きです・・・」
「俺も・・・おまえが大事だよ。」
「他の人のこと、見たりしないでね。」
「おまえしか、見てないよ。」
「うん・・・」
幸せ。この人を好きでいられて、自分は幸せだ。
涙を拭って顔を上げる。小野村とようやく向き合って、彼の唇に自ら口付けた。
始めゆっくりだった呼吸が浅くなり、早くなっていく。理央が張り詰めた分身を舐め上げると、彼は苦しそうに眉を顰めた。弾けそうで爆ぜない。その間を行き来して快感を享受する小野村を見つめるのが好きだ。
「理央・・・」
絶頂が近くなると理央の髪を梳いて名を呼ぶ。自覚があるかはわからないけれど、彼の癖だ。
理央が射精を促すように先端をこじ開けるように舌で擽ると、小野村が堪らないという顔で息を詰めた。
「理央、出そう・・・」
耐える必要なんてないのに、いつも限界がくるまで彼は抗う。チュッと吸い上げて見上げると、焦ったように理央の肩を掴んできた。けれど押しやるほどの力ではなく、悩ましげに呻いた。
「ッ・・・イくッ・・・ぅッ・・・」
理央の頭を掻き抱いて、天を仰ぐ。震えた身体が愛おしくて、理央も口内で絶頂の証を受け止めながら彼の腰へ腕を回した。
「ぅ、くッ、ん・・・」
堪え切れない感じ入る小野村の声を、耳元で気分良く聞く。慈しむように彼の分身を何度も吸い上げて、そのたびに彼の精が口の中で広がっていく。
青臭い苦味を口内に纏ったまま小野村にキスを仕掛けると、彼が思い切り顔を顰める。
「おまッ、え、口ゆすげッ・・・」
「ヤダ。真さんの味だもん。」
「悪趣味だな。」
そんな事は知ってる。でも紛れもなく自分の愛撫で小野村が達した証だ。嬉しいに決まってる。この苦味が残っているうちは、彼の全てが自分のもの、という気がして満たされる。自分の独占欲を満たす方法としてはいささか趣味は悪いが、手っ取り早く確かな証拠。何度だって味わいたくなる。
「満足したか? 今度こそ、おまえの中でイかせてくれよ。」
自己満足に浸っていると、ギュッと腕を掴まれて形勢が逆転する。組み敷かれた後で、自分にのし掛かる重みを感じて、小野村の甘い息を首元で受け止めた。
「柔らかいな。」
頭上で微笑まれながら、彼の長い指が秘部へ滑り込んできた。すぐに三本まで増やされて、無意識に理央の喉が鳴った。
小野村が理央の感じるポイントを押しては解きほぐしていく。始めだけはどうしても強張る身体。けれど彼の慣れた手に溶かされて、身体を明け渡しすのに、さほど時間はかからない。
「んッ・・・ふ・・・」
優しく自分を見つめてくれる彼の瞳から目を逸らさず、ジッと魅入る。それだけで身体が熱くなった。小野村に高められていく身体。この人のだけのものでいたい。心ごと捧げて、この人のものでいる。がむしゃらに追い掛けて、全てを貪り尽くして滅び去るまで、ずっとずっとこの人のもの。
愛を囁いているつもりでそう語ったら、小野村には困った顔をされた。でも重過ぎると言われても、この想いを止められない。
心ごと囚われて、一緒に溺れてしまいたいと思っているのだから、今さら嫌だと言っても握った手を緩めたりはできない。
この人は、自分の気持ちにイエスと言った。むしろ彼からその道を開いてくれたのだから、絶対に逃がさない。
ここまで思う自分を彼は怖いと思うだろうか。でも呆れた顔をして、抱き締めてくれた。自分の中で幾度も愛を放って、震えるほどの絶頂を分かち合った。
そして今もまた、小野村は理央の秘部に己を充てがって、一緒に高みへと駆け上がろうとしている。
「真さん、挿れて・・・。」
後孔の入口を彼の先端が幾度も円を描いて擽る。物欲しげにヒクつく秘部を持て余して、理央は小野村を急かした。
彼が満足げに微笑むのを見て、彼の分身が来る瞬間を待ち侘びた。
「あ、あぁ・・・」
小野村の一番太い部分が、秘部をかい潜ってくる。そこを過ぎれば、重量感のあるものが後孔を次々と満たしていく。彼の熱さに酔いしれて、頭が焼き切れるほどの衝撃と幸福感が同時に襲ってくる。
「あ、あ・・・ぁ・・・すご、い・・・」
「ぁ、理央・・・そんな、締めるなよ・・・」
搾り取られていく感覚が小野村から理性を奪っていく様子を肌で感じる。荒い息も、理央の上に滴り落ちてくる汗も、小野村が理央の身体から快感を受け取っている証だ。
もっともっと溺れてしまえばいい。彼の瞳に自分だけが映る幸せを噛み締めて、理央は小野村へと抱きつく。そして自ら腰を揺すって誘えば、素直に小野村が抽送を始めた。
「きもち、ぃ・・・まこと、さ・・・ッ」
揺さ振られて、彼の先端が理央の感じる場所を抉る。そのたびに仰け反って身悶えた。
頭の中がシンプルになっていく。気持ち良くて、幸せ。この人が好きで、全てを奪い尽くしてしまいたい。
「はぁ・・・あ、そこ・・・」
「ッ・・・ここ?」
明らかに上擦った小野村の声。耳元で温かい息と共に吐き出される彼の言葉を拾って、理央は必死に頷いた。
もっと欲しい。この人と溶け合えるくらいに。抱かれているようで、抱いているような不思議な感覚。
「いい、きもち・・・ぁ、くるッ」
「ぁ、理央、待ッ・・・ぅッ」
小野村が思い切り感じるところを突いてきたので、反射的に彼の分身を締め付ける。彼が息を詰めたのと、自分が快感の証を放ったのと、どちらが先だったのか。
ゴム越しにジワリと広がった熱が、身体を伝ってくる。そして気が付くと、小野村と自分の腹部に擦れて刺激されていた理央の分身も、精を放っていた。
タプタプと先端の精液溜めが吐精した重みで揺れている。小野村が愛おしそうに先端を撫でてきて、敏感になった身体がその刺激で震えた。
「ぁ・・・」
二人で吐精の余韻に浸って、軽い口付けを繰り返す。のし掛かってくる彼の重みが心地良い。頭上からうっとりとした溜息が聞こえて、二人で目を合わせて笑った。振動と締め付けで、未だ自分の中にある小野村の分身を生々しく感じる。
「こら、締めるな。」
「もう一回しましょ?」
仕方がないな、っていう顔をしていても、萎えたものが再び兆して膨張していく。男ってわかりやすい。身体は素直だ。言葉や表情で足りないものをこうやって感じ取る手段がある。
理央は一旦小野村の身体から離れ、彼の分身を身体から抜き去る。そして新しいゴムのパッケージを手に取って、いそいそと小野村の分身に手を伸ばした。
背中に幾度も降ってくる口付けが熱い。小野村が触れていく場所から、ドロドロに溶けていくような感覚がした。
ゆっくりとした律動と、背中へ繰り返される愛撫。達してしまいたいような、ずっとこの快感に溺れていたいような、もどかしい波を何度も行き来する。
「はぁ・・・ぁ・・・あッ」
何度目かの射精感を覚えて理央が焦った声を上げる。すると背中から抱く手が前へ回ってきて、理央の分身を戒める。
「・・・あぁ、きもち・・・イきたい・・・」
「イく?」
「ぁ、ヤダ・・・」
「どっち?」
小野村の口から荒い息と共に溢れた笑み。彼の笑った振動が、ダイレクトに腰へと響いてくる。
「ッ・・・ぁ、なん、か、くるッ・・・」
「いいよ、イっても。」
「ヤダ。もう、ちょっと・・・ん・・・ッ・・・」
送り込まれる緩やかな愛撫に混じって、時々強烈な快感の波がやってくる。その波に何度も攫われそうになりながら、堪えては息を吐く。
気持ち良くてたまらない。陽が高いうちから、カーテンも開け放ったままベッドで交わり合う解放感。
地上の人とは目も合わないような高い位置からの眺めは、ちょっとした異空間だ。現実から切り離された場所で耽る情事に、恥ずかしさは初めからほとんどない。
ゆったりとした抽送を小野村が繰り返し、理央が上り詰めそうになるたびに愛撫の手を止める。拷問にも近い快楽の所為で、体力は奪われていく。
遠の昔に崩れ落ちている理央の腰を、背後から小野村が抱えて快感を送り込む。こんなゆっくりとしたセックスを楽しむのは初めてだった。それだけ普段は時間にも追われているし、次の日に仕事を控えていれば無理もできない。思い切りしたいように交わるというのは贅沢な時間だ。
「あ、やだッ、イく・・・」
「ん? もうちょっと、頑張るんだろ?」
小野村が指で輪を作って、理央の陰茎を圧迫する。前に縋るものがない理央は、シーツをキツく握って震えながら腰を後ろに突き上げた。
確かに達した感覚がしたのに、射精はしていない。その代わり、ずっとイきっぱなしのような悶絶しそうな快感が続く。
「ぁ、あぁ・・・んッ・・・ぅ・・・あぁ、ヤ・・・あッ、ああッ」
溜まった熱を解放しようと、身体が痙攣したように動く。理央は背後から抱いてくる小野村へ、何度も無意識に腰を突き上げた。
それでも絶頂感は止まらず、射精も叶わなくて、ついに根を上げて涙が溢れた。
「まこ、と・・・さッ・・・こわれ・・あぁッ」
「ぅッ・・・ん・・・」
壊れてバラバラになってしまいそうだと、息も絶え絶えに訴えていたさなか、突然始まった激しく突き上げるような律動に、身体が大きく揺さぶられる。
「あ、あッ、ぁ・・・あぁッ、あ、ん・・・ッ」
刺激が強過ぎて、何が何だかわからない。目の前が真っ白になり、背後に密着して耳元で荒々しく息を上げる小野村が、この世の全てになる。
ガクガクと揺さぶられながら、身体が弛緩していく。いつの間にか戒めを解かれた先端から、愛された証を放った。一滴残らず放出を促すように、指の腹でクルクルと先端を刺激される。身体が大きく震えて残滓が溢れ出た。
小野村の熱塊を後孔に感じながら、小野村の手でゆっくりゴムが外される。達したばかりの身体には、その僅かな刺激すら辛い。シーツをギュッと掴んで眉根を寄せると、頬に優しく口付けが落ちてくる。
目を瞑って、穏やかに降ってくるキスを受け止める。うっとりと吐精の余韻に浸っていると、小野村の手が緩々と理央の萎えた分身を扱き始める。熱いくらいの手に陰茎を包まれて、あっという間に理央の分身は兆す。確かな芯を持ったところで、再び彼の手でゴムを被せられた。
小野村はまだ達していない。けれど弾けそうなほど自分の中でその熱が膨れ上がっているのを直に感じる。それを思うだけで頭が焼き切れてしまいそうだ。
理央は顔だけ小野村の方へ向けて、キスを強請る。満たされた気分で微笑み合いキスを繰り返すと、二人の身体は大した間も置かずヒートアップしていく。
贅沢で幸せな休日。理央は抱き締められた腕の中で、再び快感の波へと攫われていった。
日本行きの飛行機の中で舟を漕いでいた自分の手に、そっと彼の手が重ねられる。誰も見てはいないと思うけれど、妙にドキドキして、あっという間に目が冴えた。
小野村に問うような視線を投げると、悪戯っ子のように彼が笑う。その瞳の強さに鼓動が跳ねて、火照ってしまう頬を宥めるのは難しかった。
二人とも日本に家はない。小野村は実家があるが、帰らないの一点張りだった。両親から戻ってくるように言われたらしいのだが、彼は理央と過ごす選択をした。呼ばれているのなら帰った方が良いのではと思ったが、あえて理央の方から口出しはしなかった。
彼とのんびりできるチャンスなどなかなかないのだから、自らそのチャンスを逃すような真似はしない。彼の両親には心の中で謝っておいた。
今回の帰国では、出張なら絶対選ばないようなハイクラスなホテルを選んだ。社会人の男が二人、正月に泊まり込むなんて意味深だから、接客を期待する意味でもその投資は惜しまなかった。
飛行機から降り立つと、日本は完全に真冬だった。暖冬だなんて言われているらしいが、マレーシアの暑さに慣れてしまって、日本の寒さが身に沁みる。クローゼットの肥やしと化していたコートを引っ張り出してきて正解だ。カビが生えていなくて幸いだった。
日本に帰ってきても、帰ってきたという実感は薄い。それもそのはず、理央にとってはこの国は故郷と呼べる場所ではない。生まれ育ったのはアメリカだし、両親は今もアメリカにいる。日本で過ごしたのは、大学時代と社会人生活をスタートしてからのごく一部の期間だ。場所も転々としていたし、日々の生活に追われていて、土地に愛着を抱けるような生活はしていなかった。
完全に旅行気分で小野村の後をついて歩く。並んで歩くのも好きだけれど、この人の背中を見て歩くのも好きだ。
「真さん、ここ?」
「そう。ここ。」
見上げたタワーホテルに気後れする。正直、呆気に取られた。今まで用もなかった類いのホテルだ。
「え? ここ?」
「自分で予約したんだろ?」
確かに予約を入れたのは自分だったが、写真で見るよりも迫力があって困る。出入りする人たちも、明らかに金回りの良さそうな人種だ。
「これなら快適な正月になりそうだな。」
楽しげな口調、茶目っ気たっぷりの視線に射止められて、言葉に詰まる。張り切り過ぎた胸の内を暴かれたような恥ずかしさだ。
「そういうつもりじゃなくてッ!」
「なんだ。おまえも浮かれてたんだ、って思って嬉しかったのに。」
拗ねたような口振りとは裏腹に、小野村の目は笑っている。
「真さん、面白がってるでしょ。」
「飽きようがないよ。おまえといると。」
一緒にいると楽しいのだと、頭は良い方に意味を変換する。揶揄いの言葉にすら嬉しくなるって、どういうことなんだろう。浮かれて頭が沸いているとしか思えない。
小野村の言葉には応えず、着替えだけを詰め込んだ小さなトランクを片手に、一人ホテルの入り口へと歩き出す。
背後で小さく笑う声が聞こえる。抗議の意味も込めてちらりと振り向けば、恋人の顔をした小野村の姿が視界に入ってくる。
二人きりで過ごす、初めての休暇らしい休暇。浮かれているのはどちらも同じだ。ここまで来たら、楽しむだけ楽しみ倒してやると意気込んで、回転扉の中へ飛び込んだ。
ウェルカムドリンクを口に付けて、すっかり寛いでいる相方。足を組んでボーイに手渡された新聞を優雅に広げて読み耽っている。
理央はスーツケースから洋服を一通り開けて、ハンガーへ吊るしていた。今回二人ともスーツを一組ずつ持ち込んでいる。ホテル内にはいくつかレストランがあるが、ディナーはドレスコードのあるレストランを連日予約したのだ。
気合いを入れ過ぎかとも思ったが、たまの贅沢。ちょっと気取ってみるのも一興だ。久々の高揚感に浸りながら、バスルームを覗いて見たり、ベッドに転がってみる。そわそわと落ち着きなく室内を歩き回る理央に、小野村が見兼ねて声を掛けてくる。
「理央、そろそろ落ち着いたらどうだ。紅茶も冷めるよ。」
ダイブしていたベッドから、小野村の視線を追い掛けて、目をしっかり合わせた。非現実的な状況に興奮が覚めないのだ。嬉しくて堪らなくて、自分でもどうしたら落ち着けるのかがわからない。
「だって、嬉しくて。真さんは違う?」
この興奮覚めやらぬ心境を共有して欲しくて、ひんやりとしたシーツに頬を付けたまま尋ねる。
「まったく・・・。」
呆れた声で返してきたものの、新聞をローテーブルに畳み置き、ゆっくりベッドの方へ近付いてくる。微笑んで理央の頭を撫でた後、小野村もベッドの縁に腰を下ろした。
「着いて早々か?」
猫を撫でるように顎に触れてくる。二人でクスクスと笑い合って、理央は小野村の手を引いた。
理央の上に覆い被さるようなかたちになった小野村はさして驚いた様子でもない。理央の頬を両手で包み込んで、唇を重ねてくる。ここまでリラックスした小野村は珍しいかもしれない。
ゆっくり体重を掛けてきた小野村の重みを心地良い気分で受け止める。甘い溜息を耳元で聞いて、心が震えた。嬉しい気持ちが高じると胸が苦しくなるのだと知った。
理央が小野村の背に腕を回したのを合図に、二人は深い口付けに溺れていった。
小野村、勝田、理央の取り合わせで酒を飲むのは初めてだった。勝田がいる時は大人数の時が多いので、ここまで距離が近いのも珍しい。
「この国も変わったよね。今となっては現場からすっかり離れちゃって、つまらないよ。書類に判子押してばっかり・・・。支店長で俺が来るってのはどう?」
「支店長になっても判子生活が待ってますよ。」
「見張り役いないじゃない、こっち。営業し放題だよ。」
「俺が見張ってます。本社に逐一報告させていただきますから。」
勝田が来る前、面倒だと愚痴を零していた小野村だったが、飲みに来る分には満更でもなさそうだった。仕事に関しては鬼のような要求をしてくる勝田に辟易していても、蓋を開けてみると勝田を慕っているのが窺える。
勝田と小野村の小気味良いトークに相槌を打ちながら、彼らの間にある信頼関係が少しばかり羨ましく、嫉妬してしまう。
「島津はさぁ。もうちょっと捻りが欲しいよねぇ。掴みは良いんだから、狡くなってくれないと。」
「正面から当たりに行ってばっかりだと、足下も見られるしな。でも、久々に仕事して、ちゃんと成長はしてたから安心しましたよ。」
「ヒヨコの時しか知らないもんね、小野村。」
二人の話題がいつの間にか自分の事に移っていて、肩を落とす。残念な自分ばかり話題に上がっていても嬉しくない。この二人にも新人だった頃があるはずだが、想像すらできなくて、自分だけが出来損ないに思える。
「俺の話なんかして、楽しいですか?」
ちょっと拗ねて言えば、勝田が愉快そうに笑う。
「部下を弄り倒すのが、俺の仕事。上司の特権。」
勝ち誇ったように言われて、返す言葉もない。
「理央、拗ねるとこの人の思う壺だぞ。」
そう言う小野村も何だか楽しげで、自分だけ取り残された気分になる。成るようになれと半ば自棄になって、グラスいっぱいのビールと対面しながら、二人の会話を聞いた。
お開き間近になり、小野村が手洗いに席を立つ。その隙に乗じるように、突然勝田が身を乗り出して顔を覗き込んできたので驚いて戸惑う。
「島津、そんな怯えなくたって、取って喰ったりしないよ。」
勝田が面白いものを見るように微笑んでくるので、自分でも意識しない内に冷や汗が出る。
「そういう顔するから揶揄いたくなるんじゃない。あの手の店に出入りしてたわりにはお堅いよねぇ、島津。」
頬を撫でられそうになって、咄嗟に身を引く。お互い知らぬ存ぜぬで通すものかとばかり思っていたのに、その壁を突然切り崩されて狼狽えてしまう。
「その様子じゃ、恋人でもいるのかな?」
理央の頬に届かなかった手を優雅に下ろして、もう片方の手でグラスを傾ける。微笑んでくる顔が怖くて身動きできずにいると、勝田が心底可笑しそうに笑う。
「心配しなくても、部下に手を出す趣味はないんだ。」
「・・・。」
理央が学生だった当時、勝田は相当遊んでいると専らの噂だった。しかしその話も十年ほど前の話だ。しかも同じ会社の人間に手なんか出して問題でも起こしていたら、営業部長になどなっていないだろう。
勝田は目立って男前なわけではないが、黙っていれば品のある優男だ。自分から声を掛けにいくタイプではなく、糸を張って罠にかかるのをジッと構えているタイプ。
若い頃はさそがしモテただろうなと思わせるだけの雰囲気はあるし、事実、出入りしていた店では彼に声を掛ける人間は数多いた。
何をやっても華がある。四十後半の男に使う言葉ではないかもしれないが、勝田にはその言葉が様になってしまうだけの雅さがあった。
会話が途切れて気まずい思いをしているのは理央の方だけだ。勝田は理央を眺めながら、楽しそうに微笑んでグラスに口を付けている。上手いことが何一つ思い浮かばないまま、小野村が手洗いから戻ってきてしまう。
「二人して黙って、どうしたんですか?」
「うん? ちょっと島津を揶揄っててね。真に受けちゃって、島津が拗ねてるんだ。いいよね、小野村。こんな犬っころみたいな部下がいて。羨ましいよ。うちの部署にも一匹こういうの、欲しいね。」
「犬っころ、って・・・ペットじゃないんですから・・・。本気でペットにしかねないから、冗談に聞こえませんよ。」
「そう?」
呆れたように勝田へと言い返す小野村を心から尊敬する。勝田相手にそんな風に切り返すのは、自分は一生かかっても無理だろう。
小野村は今、理央の前で完全なる上司の顔だ。恋人だなんて、誰も想像しないだろう。勝田も全く気付いた様子はないし、彼と交わした言葉の中にも、それを疑うような台詞はなかった。
いつもなら小野村のポーカーフェイスに少し寂しさを覚えるのだけど、今夜ばかりは救われた思いがした。
恥なんか捨てて、欲望の赴くままに素直に強請る。今夜は一際心が弱っている。触れて、触れられて安心したかった。この人は自分のもので、足掻く自分を見守ってくれる人だと、確かな熱で実感したかったから。
ベッドに横たわり小野村の重みを身体に感じる。彼の匂いを胸いっぱいに吸い込むと心が落ち着く。理央のその仕草が合図になって、小野村の手が意思を持って、理央の身体の上を滑り始めた。
男はわかりやすい。欲しくなれば自分の分身は兆すし、小野村のものも理央の手の中でちゃんと反応を示してくれる。どんなに言葉を尽くしても表現しきれない想いがある。けれど身体を合わせてそれを補えるなら、互いの体温がわかる事は無駄じゃない。
口を少しだけ開ける。小野村の手が脇を撫でたと同時に震える息を吐き出した。くすぐったいような、昂ぶるような不思議な感覚だ。逃げるつもりがなくても身体が反ってしまって、耳元で小野村が笑う。
「理央」
吐息混じりに呼ばれる。腰に響く甘い声。それだけで嬉しくてしがみ付く。ついさっきまで落ち込んでいたのに、彼を独り占めできる嬉しさで胸がいっぱいになってしまう単純な自分。
「真さん、好き・・・」
小野村はあんまり愛を囁いてくれるタイプの人ではないけれど、彼の瞳の中にはちゃんと自分が映っている。だから別に言葉にしてくれなくなって、微笑み返してくれるだけで十分だった。
「好き」
もう一度言葉を重ねると、口付けが返ってきた。腰がジワリと疼く。小野村の腰に腕を回して、次の行為を強請った。
「真さん・・・して・・・」
「明日、仕事だろ?」
嗜めるような口調とは裏腹に、小野村の手は理央のズボンを下げ始める。彼の動きに合わせて腰を少し浮かせば、慣れた手つきで脱がされた。
「一回だけ。」
理央がそう言えば、肯定する代わりに額にキスが降ってきた。
「真さん・・・」
自分を心配してくれる人がいるって幸せだ。それだけで満たされる。今すぐに解決しなくてもいいか、なんて気分になってきたが、それじゃあ駄目だろうか。
「側で見ててね。俺が迷走しないように。」
「何度でも迷えば良いんだよ。ちゃんと連れ戻してやるから。」
頼もしい小野村の言葉にまた惚れる。何度だってこの人の言葉に助けられて、惹かれ続ける自分を止められない。
小野村のズボンと下着を一気に下ろすと、彼が少し慌てたような顔をする。飛び出た彼の分身が理央の上で揺れて主張してきた。
早速手で包み込むと、小野村が自分の頭上で息を呑む。手の中の質量はみるみると増えた。
小野村は刺激に音を上げて、噛み付くように理央の身体を貪り始める。その勢いある熱情に、理央は満たされた想いで息を吐き出した。
やはり彼にはおしとやかという言葉は当てはまらない。仕事中はちゃんと上司と部下だが、プライベートで二人の時間を過ごしていると、愛情表現に際限がない。あまりの甘さに目眩がしそうになる。
「真さん、したいな・・・」
愛を囁く口も、訴えかけてくるグレーの瞳も雄弁だ。いつでも直球で来るので、逃げ場もあったものじゃない。身体を求めてくる時も、溢れる想いを隠そうともせず、全身で諭しに掛かってくる。初日の恥じらいは、どこか遠くに飛んだらしい。
「真さん・・・ダメ?」
ここ連日抱いていることが頭を過ぎって躊躇していると、悲しそうな顔で尋ねてくる。反則だろうと思いつつ、毎回この手に屈服するのだ。
「そんなことないよ。」
そして今夜も例に洩れず陥落する。
示し合わせているわけではないが、交互に互いの部屋を行き来して過ごす。そしてそのまま行為に雪崩れ込んで朝を迎えるのがここ最近のライフスタイルになってしまっている。
職場にその甘い空気を持ち込んだりはしない。むしろ理央の方に一線を引いている気配があって、近づき難いくらいだ。肩を叩いたり、意図せず手が触れたりするだけで狼狽えていたりする。
しかし二人きりになった瞬間に発揮される、この魔性具合はどういうことなんだろうと不思議に思う。オンオフがしっかりしているのは喜ばしいことだが、あまりのギャップに驚く。
ベッドで睦み合っていても、理央は好き勝手にはさせてくれない。真が仕掛ければ競うように仕掛けてくるし、そういうところに雄の性を感じる。
真の首筋に軽い口付けを落として、胸を撫で始める。男でも胸が性感帯になり得ることを理央に教わった。舌を巧みに使って胸の飾りが転がされる。次いで掌で脇腹を撫でられれば、早速真の分身が硬く反り始める。
初めて身体を交じり合わせた翌日は、さすがに理央も身体が辛そうだった。しかも中に放ったまま寝落ちしてしまったので、翌日具合が悪そうだった。本当は掻き出さなければならなかったと後から聞いた。本人も忘れていたようで、久しぶりだと言うのは嘘ではなかったのだろう。
しかし毎夜のように身体を重ねていく内に、徐々に身体も慣れたらしい。行為に及んでも、翌日何事もなかったような顔で仕事に勤しんでいる。
胸部に花びらが散っているように、紅い跡がそこかしこに見える。舐め回しては吸い付き、食い尽くされそうという表現がぴったり嵌るように思える。
理央は早々に全てを脱ぎ捨てていたが、真はまだ下半身に衣類を纏ったままだ。陰茎が窮屈そうにハーフパンツを押し上げている。
「脱いでいいか?」
「キツイ?」
フッと妖艶な笑みを溢して、理央が何の躊躇いもなく手を掛けて下ろす。飛び出てきた真の分身を愛おしそうに手で触れてくる。
「ッ・・・」
汗ばんでしっとりした手に包まれて、気持ち良さに真も息を詰める。仕返しとばかりに理央のモノを握って擦り上げると、理央が目をギュッと瞑って甘い息を上げた。
「真さん、今日はこのままイかせて。ちょっと腰痛くて・・・」
腰が痛いと言うわりには嬉しそうに笑う。腰痛の原因が昨日の激しい情事の名残りだからだろう。
堂嶋と飲みに行った日、置いてきぼりを食らったのが寂しかったらしい。連日しつこいくらいに強請られた。煽られるなというのが無理な話で、理央に促されるまま行為に及んだら、腰痛に見舞われたということだ。男同士の場合、受け身のダメージが結構なものなのだと改めて突き付けられる。連日平気なふりをして、理央なりに気を使っていたのかもしれない。
理央の扱く手の動きは穏やかだ。慈しむような手つきに、また煽られてしまう。粘着質な音と互いの荒い息だけが部屋に響く。それすら心地良くて、うっとりと下半身に生まれる快感に酔いしれた。
理央が真の肩に額を当てて、寄り掛かってくる。さらに息が上がったようで、その勢いのままに彼の手の動きも速くなる。
真も理央のペースに合わせて扱く速度を上げる。すると理央の口から甘い声が上がり始めた。
「あぁ・・・ぅ・・・」
理央が悩まし気に頭を小さく振る。
「真さん・・・ぁ、でるッ・・・」
掠れた声で悲鳴を上げ、身体を震わせ達する。高く飛沫が上がって、真の胸部まで届いた。
「ぅッ・・・あ、ぁ・・・」
切ない声と何度も飛び散る白濁の密に、真は気を良くして射精と共に萎え始めた陰茎を擦り続ける。すると身体を震わせて潤んだ瞳が見上げてくる。その顔を拝めただけで、真も気が昂ぶる。
真の硬茎に指を絡めたまま動かそうとしない理央に、自分の手を重ねる。すると呆然としていた理央が我に返ったらしい。真に擦り寄って止めていた手を再開させた。
明らかに高める意図があって動く手に、真も急速に息が上がる。目の前がチカチカと光り始め、真は声も発さず達した。
気持ち良いのも度が過ぎると拷問になる。射精の続く陰茎を強く扱かれ、呻いて理央にしがみつく。理央の手の中で精が噴き出る感覚を生々しく感じ、堪らず反射的に腰を揺らす。
「はぁ・・・」
少し強引に深呼吸をして、昂り過ぎた身体の熱を下げる。
「真さん、大好き。」
互いの吐き出した精も拭わないまま、口付けを交わす。戯れるような軽いキスをしているうちに、羞恥するという感覚を頭が思い出してくる。
「いつも照れ臭そうにしますよね、真さん。」
「そう言うおまえは、いつも平気そうだよな。」
「なんか悔しそうですね。」
「別に・・・」
本当は少し悔しい。何だか掌の上で転がされている気分だ。セックスの主導権も理央にある気がする。かといってあんなに積極的に迫っていけるかというと、それは難しい。もしかしたら仕事でも、と疑心暗鬼になりかけて、それは違うだろうと冷静な頭が現実に呼び戻してくれる。
「だって好きな人とできるのが嬉しくて、盛らずにはいられない、っていうか・・・」
こういう事を平気で口にしてしまえること自体、真には俄かに信じ難い。ここまでオープンな口を自分は持ち合わせていない。
「ねぇ、真さん。俺のこと好きですか?」
情事のたびに強請られる。何としてでも、一日一回言わせたいらしい。負けず嫌いな心を奮起させて、理央の腕を取って抱き寄せる。
「好きだよ、理央。」
耳元で囁けば、満足そうに、そして嬉しそうに微笑む。この笑顔が見たくて、真は何度だって陥落する。理央の顎を掬い取って、優しく唇を重ねた。
堂嶋に報告しそびれていたら、業を煮やして飲みに誘われた。理央を誘わない辺り、用意周到だろう。彼がいたら妨害されるから真だけ、ということだ。
「なんだかスッキリした面してるな。」
完全に揶揄い口調なので、酒でも飲んでいなければ応酬できそうにない。ウイスキーを喉に流し込んで溜息混じりに答える。
「まぁ、なんとかなったよ。」
「随分、曖昧な答えだな。くっついた?」
「・・・。」
居た堪れないにもほどがある。半ば自棄になり頷いて肯定した。
「そうか、そうか。じゃあ、今一番盛り上がってるわけだ。」
本当に勘弁してほしい。同期の目の前で盛大な溜息をつく。
「でも、そのわりには会社ではいつも通りなんだな。いつも通り過ぎて、逆に心配したっつうの。」
「黙ってて悪かったよ。」
「あいつの前でおまえさんの話振っても全く反応しないでやんの。ポーカーフェイスもあそこまでいくと可愛くねぇな。」
「理央で遊ぶなよ・・・」
堂嶋が事情を知っていることは、告白した時に理央には話してある。しかし直接揶揄われることがあれば、真にも火の粉が飛んでくるだろう。
「おしとやかな嫁さんとはほど遠いな。」
「何だよそれ。」
「島津が入社してきた年の新入社員歓迎会で、おまえタイプ聞かれて、そう答えてたぞ。」
「・・・記憶にない。」
「まぁ、面倒くさくて適当に答えたんだろ。でも聞いた当人はどんな気分だったんだろうな。おしとやかなのを演じる気配すらないのが、ある意味大物だけど。」
話ぶりからして、タイプを聞いてきたのは理央なんだろう。確かに理央はおしとやかな雰囲気とはかけ離れている。好きな人の好みを聞いてしまえば合わせたくもなるのが心情だが、もしかするとそれは日本人特有の感覚かもしれない。自分は自分、というところが理央にはある。
「男二人で潤うもんなの?」
堂嶋としては純粋な疑問のようで、真顔で聞かれて目が泳ぐ。やることはしっかりやっているので否定もできないが、真面目に肯定するのも憚られる。
「まぁ・・・」
結局それでも曖昧に肯定して、居た堪れなさを誤魔化すようにグラスへ口をつける。寿命が縮んだら堂嶋の所為にしてやろうと心の中でぼやき、一晩中続けられた苦行に、この夜ばかりは疲労困憊した。