忍者ブログ

とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅢ-9

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

ツインタワーⅢ-9

日本から降ってきた仕事は元々予定していたものだ。明確な時期が決まっていなかっただけ。準備万端だったし、いつ行っても差し支えない状況だったが、精神的には最もタイミングの悪いところでやってきた。

理央がいない間は小野村が常盤の面倒を見ることになっている。それも初めからわかっていたこと。しかし他に代役もなく、出発の日はやってきてしまった。

「行ってきます。」

「気を付けて。」

「はい・・・。」

「浮かない顔して、どうしたんだ。張り切ってた企画だろう? ようやくカタチになるのに。」

理央も小野村も料理はしないから、朝食は外に出て済ませるのが日課だった。出発の日の今日も例に漏れず、インド人街で小麦粉の生地を平たくのばして焼いたロティ・チャナイをヨーグルトに付けて口の中へ放り込んでいた。

小野村にも察せないことがあるのだな、と落ち込みつつ、狭量な自分を悟られないことに少しホッとしていたりもする。

「楽しみです。仕事はね。」

「・・・離れるのが、イヤとか?」

「イヤです。」

「たかだか一週間だろ? 永遠に帰ってこないわけでもあるまいし・・・。」

小野村はあからさまに呆れた顔はしなかった。仕方ないヤツだなと眉を下げつつ、その顔はちょっと嬉しそうだ。

こんなの反則だ。愛されてると実感するには十分な反応。しかし小野村自身の言動が心配というよりも、常盤の色目を気にしての心配だから、理央の不満を解消するにはあまり効果はなかった。

仕事には厳しい人だからベタベタする心配はしていない。けれどフォローも上手いから、はっきり常盤が惚れるようなことがあっては困る。困るけれど、一週間見張ることは叶わないから、自分にはどうしようもない。

「真さん」

「うん?」

「毎晩連絡しても、鬱陶しい、って思いません?」

「別に連絡くらい、いくらでも寄越せばいいだろ? それに、帰ってきたら常盤の教育がまたあるんだから、俺としても細かく様子は報告しておきたい。」

「細かく知りたいです。とにかく細かく。」

「何か引っかかることでもあるのか?」

「いや・・・別にそういうわけじゃないですけど・・・。」

「ちょっと、理央。フライトの時刻、平気か?」

「あ、もう行かなきゃ!」

慌てて残りのロティ・チャナイを口に詰め込んで、甘いお茶で胃の中に流し込む。この忙しなさは夢に描く優雅な朝食とはほど遠い。いつか小野村と二人でのんびり朝食を摂る時間があればいいのに、と残念に思いながら席を立つ。

「行ってきます!」

「いってらっしゃい。」

空港までの見送りはない。小野村もこれから仕事だから当然と言えば当然だ。

せめて小野村をガッカリさせない仕事をしてこよう。そう心に決める自分は、やはり全て小野村を中心に世界が回っている。

成果さえ出れば誰も文句は言わない。日本サイドを納得させた上で予定通り小野村のもとへ帰ろう。頭を仕事モードに切り替えて、理央は足早にクアラルンプール国際空港へ向かった。


 * * *

フライト時間は予定通りなら六時間半。機体が安定したところで早速プレゼンテーションのイメージトレーニングを頭の中ではじめる。社外秘の資料を広げるわけにはいかないから、手帳に要点を記したメモでイメージを膨らませていく。

理央はこの時間が好きだった。書類作成の下準備は相変わらず苦手分野で四苦八苦してばかりだが、その反面、プレゼンテーション本番に自分の言葉で語るという行為は気分を高揚させてくれる。

どんなに相手と自分の需要と供給が合致していても、この場にいる人の言動で多種多様な結果が生まれる。

空気感が上手く合った時の達成感はなかなか味わえないだけに、非常に魅力的な瞬間だ。その雰囲気を味わえるのは、あらゆる橋渡しをする営業ならではの醍醐味だと理央は思っている。

素晴らしい場を用意するための下準備は、この数年でさらに小野村が叩き込んでくれた。手抜かりのない状態で臨めば、悪い意味でのイレギュラーに対応できる力が増す。

あらゆる状況を想定して、それを乗り越える自分を想像するだけで楽しい。案外飛行機に乗ってしまえば、前向きになっていた。

妙なことでくよくよ悩んでいた自分が異常だったと思うことにしよう。

どうせ考えたって常盤を見張れるわけじゃない。そもそも見張るという発想に自分の病み具合を感じて、内心苦笑する。

十以上も離れた女の子に嫉妬するのは、だいぶ大人げない。そう思えるのは今朝の小野村の反応が脳裏に焼きついているからだ。

離れるのがイヤだ駄々を捏ねた自分に、まんざらでもない顔をしてくれた。ギリギリまで朝の時間をともにしていなかったら、見ることのできなかった顔かもしれない。

週の中日だったため、昨夜は何もせず寝入ってしまい、少し寂しかった。けれど抱かれなくても感じる愛情は確かにあると思えたから、身体の関係に意味を求めがちな理央にしてみれば進歩と言えた。

小野村の今朝の顔を思い出してニヤけそうになる口元をどうにか気合いで押し留めて、理央は再び仕事脳へ頭を切り替えた。













いつも閲覧いただきまして、ありがとうございます。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N


Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる
PR

コメント

プロフィール

HN:
朝霧とおる
性別:
非公開

P R

フリーエリア