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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅢ-8

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ツインタワーⅢ-8

理央の様子がおかしくなったのは、明らかに常盤が来てからだ。二人の様子を観察してみるものの、特に疑問に思うようなことも起こらない。若干ぎこちないながらも、彼は丁寧に指導しているように見えるし、常盤も真面目に話を聞いて作業をしている。

やはり、自分が何か地雷でも踏んだのか。

何かを隠しているのは確かだが、様子を窺う限り、彼自身で解決を試みているようにも見える。

しかしそんな事をくどくどと考えながら、真はふと我に返る。仕事中珍しくそんな事に気を取られている自分に気付いて、内心苦笑した。

心底惚れているし、良くも悪くも振り回される。最近二人の間で波風が立っていなかったからなおさら、不満げな彼の顔が気にかかってしまう。

「仕事するか・・・」

書類の束を見ながら社判を引き出しから取り出し、文面を追っては所定の場所に判を押していく。勝田がつまらない仕事だと断言する通り、確かに味気ない仕事だ。誰かがやらねばならないし、了承を出す責任は重大だが、やはり自分で足を動かして仕事を取りに行く躍動感を懐かしく思う気持ちがある。

「小野村さん」

「うん?」

田浦の呼びかけで思考の波から浮上し、彼女から電話を引き継がれる。

『小野村、どう?』

遠く離れた日本から、気まぐれに電話を寄越す勝田には慣れた。暇潰しのような会話だが、何かと気にかけてくれているのは知っている。邪険にするつもりはなかった。

「スタートとしてはまずまずですよ。」

『それは知ってる。そうじゃなくて、常盤はどう?』

「・・・まだなんとも。」

声のトーンを落として勝田に答える。悪い話ではなくても、本人の前で筒抜けなのは良くない。

『嘘だぁ。何かしらあるでしょ?』

勝田の指摘は痛いところを突いていて、真は電話の向こうにいる勝田に悟られないよう、こっそり溜息をついた。

彼女の印象は真面目の一言に尽きる。しかし、ある意味それだけとも言えた。仕事に対する意欲という面で華がない。真面目なことは取り柄だが、営業はそれだけで成り立たない仕事だ。

「まだ始まったばかりですから、当分様子見ですね。」

『そう。まぁ、任せるよ。ところで島津はどう? 拗ねてるんじゃない?』

「・・・。」

拗ねてはいなが、機嫌は良くない。まるでそうなる事を見透かしたような勝田の言い方が気になる。しかし突っ込んでいいかどうかも迷うところだ。

「なんでそう思うんです?」

『若くて可愛い女の子が来たら、そりゃ拗ねるでしょ。そっちで末っ子だったんだから、一番甘やかされてたわけだし。それに・・・』

「それに?」

『まぁ・・・そこから先は、自分で考えようか。ね、小野村。』

「はぁ・・・」

またいいように弄ばれているような気がするが、正解が見出せそうで見えてこないことに若干イラつきを感じる。

『ところで、本題に入っていい?』

「どうぞ・・・。」

余計な事など耳に入れず、むしろ最初からそうしてもらいたかったくらいだ。

『例の新商品の展開がこっちでも本格的に始まるからさ、一週間ほど島津を拝借したいんだよね。』

「じゃあ、近々ですよね。時間を作らせます。そっちの希望としては・・・っていうか、なんで勝田さん、そんな現場に首突っ込んでるんですか?」

『まだ引き継ぎが終わってないからって引き留められて、かれこれ一ヶ月なんだよね。人遣い荒いよねぇ。結局二足のわらじ履いちゃって、大変。まぁ、この方がつまらない接待より、よっぽど楽しいけど。仕事してる感じするしね。』

「そうですか。」

『できれば来週欲しいな。こっちの営業にも仕込んでもらわなきゃいけないし、一つ大口があって、そっちに同行してもらいたいから。』

「わかりました。調整します。」

『島津、来たくないだろうなぁ、こっち。』

「そんなことはないと思いますが・・・営業向けの資料作りも、結構意気込んでやってましたし。」

『わかってないなぁ、小野村。』

「はぁ・・・」

逐一引っかかる言い方に戸惑いつつ、ダイレクトに正解を示してくれないのはこの人の常套手段だと納得するしかなかった。

『喧嘩しないでよ。別に揉めてほしいわけじゃないから。』

勝田はどう考えても、理央と自分の恋人としての関係を指摘している。若干居た堪れなくなりながらも、怪しい雲行きなのは確かだったので、素直に忠告を受け入れる。

「気を付けます・・・」

『こっち来て荒れててもフォローしないからね。』

「・・・はい。」

『ヒヨ子の様子、逐一報告入れようか?』

「結構です。」

あまりに過保護な提案は却下して、それでも理央本人にはマメに連絡を入れようと心に決める。仕事は仕事だが、自分たちの関係ははっきり割り切れるものではないことを知っている。上司として部下として、リスペクトし合って、その延長線上にあるような関係だからだ。

突き放してしまうのは簡単だが、楽をしたいわけではない。今まで築いてきた関係全てを大切にして、一緒にいたいと望んでいる。

『二人で飲みに行こうかなぁ。』

理央の渋い顔が目に浮かんだが、曲者の勝田にやり込められるのも良い経験だろうと思って送り出す心づもりを伝える。

「あんまり、いじめないでくださいよ。それこそ拗ねますから。」

『どうしようかな。』

真剣な面持ちで常盤になにか指導している理央を視界に入れつつ、電話口に苦笑する。

「では、夕方までには連絡入れますので。」

『わかった。じゃあね。』

こちらが返事をする前に切れた電話を元の位置に収めて、理央を呼ぶ。

「理央、スケジュール帳持って、こっち来い。」

「あ、はい。わかりました。じゃあ、ちょっとコレやってて。」

すぐに常盤から目を離して振り向いた理央は、いつもと様子は変わらない。昨夜のことに内心首を傾げつつ、急いでこちらへやってくる彼から何か感じ取れないかと、ジッと食い入るように見つめた。













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