同じコンドミニアムに住み、交互に部屋を行き来して過ごす日々は相変わらずだった。一緒に寝起きはしているものの、二人で暮らしていると言い切るには、まだ二人の間には逃げ道がある。
本当は全て逃げ道なんか断ち切ってしまいたいけど、お互いの立場を考えると自分の我儘を通すわけにはいかない。自分はいくら傷付いたって構わないけれど、小野村に良からぬ目が向けられるのは耐えられない。
小野村に聞きたいことがたくさんある。けれど一番知りたいことは、恐らく現時点で明確な答えが貰えないだろうことはわかっていた。
小野村の部屋に一緒に帰り着いて、背後から抱きついたところで、結局理央は何も聞けずにむくれていた。
「理央?」
「だって・・・どうせ教えてくれないでしょ?」
「まぁ、そうだな。」
「ヤダ。離れたくない。」
「サラリーマンなんだから、そうは言ってもな。」
「真さん、俺と離れてもいいってこと?」
「良くはないよ。ただ一つだけ言えるとすれば、勝田さんはおまえのこと揶揄うのが趣味みたいなもんだから。」
「最低。」
「何言われたか知らないけど、たぶん騙されてるぞ。」
「・・・。」
勝田も大概だけど、小野村も小野村だ。はっきり離れたくないと意思表示してほしかったのに、良くはない、だなんて曖昧な言葉で濁されて、ちっとも納得がいかない。恋人に対して酷い仕打ちだと思う。
「ねぇ、真さん。隠し事はイヤです。」
「公私混同だろ?」
「イヤなものはイヤ。」
背後から抱きついていたから表情は見えなかったけれど、深い溜息で呆れているんだとわかる。
「一人で不安になって、バカみたいって思うけど・・・好かれてる実感が欲しい・・・。」
「感じないのか?」
「今週、一度もしてない。」
「まだ一週間も経ってないだろ?」
「前は毎日してたもん。」
なんだか意地になってきて、妙な応酬になってくる。
この一週間は残業こそほとんどなかったものの、年度末に入って二人とも忙しかった。暑さに体力を奪われるから、性欲より睡眠欲が勝っていただけだ。
しかしそのことを完全に棚に上げて口先だけの抗議をする。
「毎日真さんのこと感じられたら安心する。」
「毎日、一緒に寝てるだろ?」
「寝てるだけじゃ足りない。」
昨日も一昨日も理央の方が先に寝入って爆睡していた。小野村からしてみれば、意味のわからない言いがかりだろうが、自分のことで困って欲しくて、我儘を重ねてしまう。
けれど小野村はそんな理央の方へ振り返って、優しく口付けて微笑んでくる。
「言いたい放題だな、おまえ。」
ちっとも心乱された様子もなく落ち着いていることが、理央の神経を逆撫でする。けれどこれ以上言い募って本格的に喧嘩をしたりすれば、後悔するのは自分の方だ。根を上げるのも自分の方が先だろう。
小野村の手がシャツのボタンを外していく。穏やかな目が理央を見て、ささくれていた心がすぐに凪いでいった。丸め込まれているという感覚とは少し違う。すぐに気が立ってしまう不安定な心ごと受け止めてもらえる安心感。
「真さん」
「うん?」
「ごめんなさい・・・」
「疲れて気が立ってるな?」
「勝田さんに言われたこと、気になっちゃって・・・」
結局、苛立つ根源を正直に打ち明ける。最初から小野村にはお見通しだったわけだが、そんな些細なことで心乱されていることを認めるのは悔しい。けれどひとたび言ってしまえば、スッキリするのも事実だった。
「俺にとって複雑なお知らせかも、って言われた。」
「複雑なお知らせ?」
「違うんですか?」
小野村にキョトンとされれば、それ以上追及のしようがない。
「俺、やっぱり揶揄われたんですかね。」
「そうだろ。勝田さんと話した内容は教えられないけど、心当たりはないな。」
「じゃあ、いいや。」
「そうか?」
一方的に自分が不機嫌になっていただけだが、小野村にキスをして終戦を知らせる。
「明日もあるから、ちょっとだけ・・・」
「ちょっとでいいのか?」
「ッ・・・。」
はだけたシャツから小野村の手が滑り込んでくる。肌に感じる手の感触に甘い息を吐き出したところで、まだシャワーも浴びていないことに思い至る。
「シャワー、浴びません?」
「そうするか。」
二人でシャワールームへ飛び込んで汗を流すと、すぐさまベッドへなだれ込んだ。
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朝霧とおる