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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅢ-14

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ツインタワーⅢ-14

電話越しでも積極的な恋人に頭を抱えつつも、出勤する心持ちは軽かった。どうやら嫉妬をしていたらしいことに勘付いて、昨夜の理央の言葉を彼の言動に照らしてみると、納得のいくことだらけだった。

普段は思ったことに素直なのに、妙なところで構えて黙ってしまうらしい。歳の離れた新人の女の子に嫉妬しているだなんて知られたくなかったのだろう。

真からしてみれば、わざわざ競うほどの相手でもない。こちらはよそ見する気すら起きないというのに。

理央が常盤に丁寧に指導しているのを見たら、逆にこちらが嫉妬に駆られそうで気が気じゃない。盗られる心配まではしなくとも、モヤモヤと落ち着かない気持ちであることには違いなかった。

結局のところ、部下であり恋人である理央が可愛い。可愛くて仕方ないから、ずっと一人で囲っておきたい。そんなことが叶わないことはわかっているけれど、この独占欲をなくすことは不可能だった。

「さて、どうするかな・・・。」

しかし出社してホワイトボードの前に立ち、今日の予定を書き込んでいると、浮遊していた気持ちが落ち着いてきて現実が目の前に降りてくる。常盤の扱いに苦戦していることを思い出したからだ。

出勤時刻ギリギリに来ることの多い現地組よりさらに常盤の出社は遅い。極端に早く出社することは求めていないが、昨日のノルマも達成できていない状態で、誰よりも悠長に構えているのが気がかりだ。

状況としては理央が指導していた時とさほど変化はないように見える。理央はよくこれで檄を飛ばさずに我慢していたものだ。早め早めの行動を周りにも、当然自分にも課すことの多い真としては、精神衛生上良くない。マイペース過ぎる新人に匙を投げたくなっていた。

昨夜、もう少し理央に愚痴を言ってみても良かったかもしれない。理央は気付いていないだろうけど、真なりの恋人への甘え方だった。

「おはよぉさん。夜、飯どう?」

堂嶋の声で現実へと引き戻されて、苦笑いしながら応じる。

「いいのか、嫁さんは。」

「近所の奥様方と会食だとよ。子どもも連れてくらしいから、俺は厄介払い。」

「今日は飲みたい。」

「珍しいな。潰れるなよ。あいつがいない間に潰したら、キャンキャンうるせぇからな。」

ホワイトボードを何やら覗き込んでいた堂嶋だったが、真の手からペンを奪って、常盤の欄に書き加えていく。

「今日、お客さんとこ連れてくわ。デスク向かわせても、進歩なさそうだからな。」

「・・・すまん。」

「今日、おまえの奢りな。」

やはり持つべきものは察しのいい同僚だ。デスクへ向かう途中で、田浦からも応援の声がかかる。互いに声を掛け合う余裕があれば、まだここも大丈夫だろう。始業時刻五分前にのんびり出社した常盤をフロアの幾人かが視界に入れると、どこからともなく溜息が漏れた。

 * * *

アスファルトとビル群の熱で揺らめく外気を窓ガラス越しに眺めながら、真は水を口に含んで喉を潤した。

理央が抜けた分の穴はラーマンやオットが処理しているが、それでも追いつかない分や日本サイドに関わる分は真も動いている。

堂嶋が常盤を連れ出してくれたおかげで精神的な余裕と物理的な時間を得た真は、午前中からのめり込んで仕事を進めていた。

やはり自分は教えるより、黙々と作業に集中するほうが向いている。なにより気が楽なのだ。理央を担当に持った時は、向き不向きなど深く考えることなく、とにかく我武者羅だった。良くも悪くも加減がわかってしまったがために、若い時より幾分、向かないことに対してストレスを感じるようになった。

「戻ったぞ。小野村、バトンタッチ。」

頑張れよ、と小さく耳打ちされて、平和な時間が去ったことを悟る。

「常盤」

手を止める隙を与えず、すぐに呼び寄せる。

「堂嶋と同行してみて気付いた仕事の流れとポイント、箇条書きでいいから洗い出してみて。今から二十分。三時半に見せに来て。」

「は、はい。」

時間を与えたところで、できないとわかるやいなや別のことに気を取られる常盤のことだ。次々に課題を与えて隙を与えないほうが効率がいいだろう。当初はじっくり考えさせて仕事をさせようとしていたが、一旦その目標を取り下げて別のアプローチで試すことにする。

すぐパソコンに噛り付いた常盤を見て、ようやく自分のペースに巻き込める手応えを感じはじめた。

デスクに向き直った真は、常盤を視界に入れながら電話の受話器を上げて、本社営業部を呼び出す。ワンコールで応答した営業事務に理央の苗字を告げて呼び出してもらう。外出は午前中だけだったはずだから、今はもうデスクに戻っているだろうと思ったのだ。

『真さん、お疲れ様です。』

「お疲れ様。今、大丈夫か?」

『すぐ終わります?』

「ああ。五分、十分で終わる。」

『大丈夫です。』

電話口の声は昨夜と違って、至って真面目だ。キビキビとした話し方に甘えの色は全くうかがえない。

「おまえが作った教育用の資料、十項目進める予定だったけど、一旦保留にしていいか?」

『難しかったですか?』

「いや、内容がどうのこうのって問題じゃなくて、それ以前のところをどうにかしないと進めても物にならない気がして。」

『ああ、そういうことですか・・・。やっぱり真さんから見ても、難あり?』

「そうだな。やった内容は報告する。」

『メールでいただけますか? 本人目の前にいるでしょうし、俺も今から席外しちゃうんで。』

「わかった。」

『では。』

何かの折に、電話をすぐ切る真に理央は口を尖らせて抗議してきた。余韻が欲しいだのなんだの言ったのは彼なのに、随分呆気なく切れた電話に寂しさをおぼえたのは自分の方だった。理央も毎度こんな気持ちだったのかと思うと、少し申し訳ないことをしていたような気になる。

受話器を置いて、常盤に目をやると完全に手が止まっている。

「常盤、出尽くしたなら、そこでやめて持って来い。」

「ッ・・・はい」

時間を無駄に使い切る必要はない。余った時間があるなら次の仕事へ向かって動き出すだけだ。彼女が自発的に気付いて行動できるようにならない限り、営業としては全く使いものにならないだろう。

ラーマンが遠くから目配せをしてきて、常盤に目をやる。真はゆっくり瞬きをして応え、二人で小さく苦笑した。















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