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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅢ-12

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ツインタワーⅢ-12

社を出て熱気が肌にまとわりついたところで、スマートフォンが着信を告げて震え始める。電話しながら歩くのはなにかと危険なので、すぐ目に留まったタクシーに手を上げながら、勝田からの電話を取った。

お疲れ様ですと電話口に告げながら、拾ったタクシーの運転手に行き先を告げる。この一帯を行き来している顔馴染みの運転手だったため、真はすぐに電話の方へ意識を集中させて肩の力を抜いた。

『今ね、島津と飲んでるんだ。』

陽気な上司の声に、仕事の話ではなかったことに安堵しつつ、揶揄われているであろう恋人の無事を祈る。

「あんまり飲ませないでくださいね。」

『過保護だなぁ。島津、お酒強いじゃない。』

お酒は強くとも、飲めば飲むほどうっかり口が滑る確率は上がっていく。揶揄いのネタをわざわざ提供すれば、勝田に遊ばれる頻度が増してしまうだろう。

「そちらは順調ですか?」

『小野村は順調じゃなさそうだね。声に覇気がない。』

こちらの質問には答えず、的を得た指摘を繰り出してきた上司に、真は隠しもせず電話口で溜息をついた。

『心配性な島津を慰めてたんだから感謝してほしいなぁ。』

電話の向こうで勝田を制止する理央の声が聞こえてくる。二人で飲んでいるのは、どうやら嘘ではないらしい。

『島津のガス抜きしてやってる? 随分モヤモヤ溜まってるみたいだけど?』

「そう・・・ですか・・・。」

余計な事を言うなと騒ぐ声が聞こえて、自分には言えなくて勝田なら言えることとは何だろうかと首を捻る。

『島津が常盤の心配してるけど、どう? 上手くやってる?』

「なかなか手強いですね。イマイチやる気にも欠けてて。やっておけと言ったことも、自己判断でやったりやらなかったりするので、出来具合が図りづらくて苦戦してます。」

『それはいただけないね。ただ、こっちも余裕ないからなぁ。戻されても配属する場所がないね。』

「まぁ、一年は様子を見ます。若いですから、どこかで意識も変わるかもしれませんし。」

流れゆく車窓の景色はゆったりとしている。渋滞にはまってしまい、大した距離ではないものの、抜け出すのはそれなりの時間が必要だろう。

夕飯は屋台の焼きそばにでもしようと考えながら、シェアする恋人がいない寂しさが脳裏をかすめていく。電話越しに理央の騒がしい声が聞こえるから尚更だった。

「プロジェクトは順調に進んでますか?」

さきほど得られなかった答えをやはり聞きたいと思って再び尋ねる。勝田が楽しそうに笑う声を聞いて、少々居た堪れなくなったが、恋人がそばにいない寂しさには勝てそうになかったので、黙って勝田の可笑しそうに笑う声を受け止める。

『報告通りなら、順調みたいだよ。概ね引き継ぎは終わったみたいだし。早く帰ってきてほしい?』

「・・・そうですね。」

『開き直ってる? やけに素直だね。』

順調に進んでいるなら、追加滞在はなくなる。本当は常盤のこともあるからなどと言い訳したい気持ちもあったが、どうせ勝田には筒抜けだ。隠したところで悟られているから、繕う意味はないように思えた。

『しばらく島津のこと借りたかったんだけどなぁ。』

「え・・・?」

『でも素直に認めたから返すよ。』

「・・・。」

『本当は今回のプロジェクトが軌道に乗るまでいてもらおうか、って話もあったんだけどね。でもそんな事して小野村に恨まれたら面倒だからやめたんだよ。』

冗談なのか本気なのか、相変わらずわからない口調だったが、その話はちらりと本社サイドから耳にしていたので事実なのだろう。恨まれたら云々は冗談だとしても、それなりに勝田が口を出している可能性は否定できなかった。

「恨みはしませんよ、仕事ですから。」

『そんな風に突き放したら、ヒヨ子が泣いちゃうよ。』

「そうは言っても・・・」

『まぁ、サラリーマンだもんね。でも案外終わりって突然やってくるから、悠長に構えてると、後で泣くことになるかもよ。』

「・・・肝に銘じておきます。」

『島津に替わる?』

「・・・いえ、結構です。後で本人にかけ直しますから。そう伝えてください。」

ある意味、勝田への牽制だ。遅くまで自分の恋人を連れ歩いて遊んでくれるなということ。

電話の向こうで勝田が楽しげに伝えている声が聞こえてくる。理央が揶揄われて溌剌と言い返す様子を確認して密かにホッとした。何やら悩んでいるように思えた彼だが、ひとまず元気にやっているならそれでいい。

後で聞けばいいなどと思わず、勝田の忠告通り、今夜話をちゃんと聞こう。お互い寂しさに任せて、案外電話口なら素直になれることもあるかもしれない。

『小野村。島津がもうホームシックだって。』

そんなこと言ってませんと理央が遠くで声を張り上げている。上司に遊ばれているわりには、理央の声も楽しげだ。なんだかんだ勝田に丸め込まれてガス抜きができているのだろう。

ちょっと勝田に妬いてしまう。しかし相変わらずの勝田の手腕に感心するしかない。なかなか追いつけない上司。現場を退いて尚、まだまだ達者な口は現役らしく、彼に追いつくことは叶いそうにない。

「勝田さん、あんまり揶揄わないでくださいよ。」

『善処するよ。』

ちっともそんな気のない勝田に隠さず苦笑する。まだ当分遊べるな、と言葉を漏らした勝田のすぐ近くで、理央が勘弁してくれと懇願する声が聞こえた。













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