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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅢ-10

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ツインタワーⅢ-10

理央が出張した日の翌日昼。勝田から寄越された報告を聞きながらな複雑な胸中に戸惑う。生き生きと仕事をしていることは良い報せなのに、自分がいないところの方が肩の力を抜いてのびのびと仕事をしているというのは納得がいかない。

変なプレッシャーでも与えていただろうかと不安にもなるし、恋人として何かマズイことでもしていただろうかと心配にもなる。

『島津、気合い入ってて助かるよ。サクサク引き継ぎも進んでるみたいだから、こっちの営業も早速動けそうだし。さすが小野村が可愛がってるだけあるよね。』

揶揄われているのか本気なのか。勝田の心の内まではわからないが、恋人であることを差し引いても部下が褒められるのは嬉しい現金な自分。

『今日飲みに行く約束してるんだ。根掘り葉掘り聞いてもいい?』

根掘り葉掘り何を聞くつもりなのか。恐ろしくなりつつも恋人の口の固さを信じるしかない。

「別に面白いことなんて何もないですよ。」

『そうやって釘刺されると、余計知りたくなるもんだよ。』

「勝田さん、仕事しなくて大丈夫ですか。忙しいって言ってませんでしたっけ。」

『可愛くない。小野村が可愛くないから、島津と遊んでこようかなぁ。』

「ちょっ・・・」

制止も虚しく切れた受話器を真は呆然と見つめる。仕事に必要な事務的な連絡は最初の三十秒ほどで、あとの会話は勝田の趣味とも言える部下弄りだ。勝田の前で目を白黒させながら飲まされるだろう理央を思い同情した。遠く海を隔てたこちらからは何の助け舟も出してやれない。

昼間からひと仕事終えた気分で書類に向き直ると、それを見計らうように常盤が席を立って真のデスクまでやってきた。

「小野村さん、ここがわからなくて。」

常盤が指した資料を見る限り、一時間前に指示したところからすでに躓いているらしく、いったいこの時間を何に費やしていたのかと頭を抱えたくなる。

「そっちの席でやろうか。」

「はい、お願いします。」

返事だけは無駄に良くて、こっそり背後で溜息をつく。愚痴もこぼさず面倒を見ていた理央は、案外、辛抱強いのかもしれない。長らく新人の世話をする感覚を忘れていた。教えているこちらの気が滅入りそうだ。

「わからないのはここ?」

「そうです。」

「違うファイルのリストを突き合わせる時は・・・こう。理央の作った資料の二十三ページ目にこのやり方は書いてあるよ。」

「小野村さん、凄いですね。資料全部覚えてるんですか?」

常盤の感嘆した声に絶句する。

最低限覚えねばならない資料として渡していて、その意味も説明していたはず。教える側がわかっているのは当然だが、常盤も覚える努力をして当然なのだ。そこを褒められる意味がわからなくて、呆れる。

誰かと比べるのが良くないことはわかっていても、理央をはじめ、他の新人も恥ずかしげもなくこういう事を口にするようなことはなかったと思う。

慣れるまで、覚えるまで、それなりの時間は必要だ。しかし呑気に構えて、他人事のように感心しているのは、理解に苦しむ。必死にしがみついて努力が必要なことをわかっていないということだろうか。

「常盤さん。この資料、理央からいつ貰った?」

「えっと・・・先週です。」

「そうだ。一度全部、目を通したか?」

「新しいことが出てきたら、その都度読んで確認してます。」

「そのやり方で、すでに支障が出てるよね?」

「・・・。」

「まず、渡されたものは、全部覚える必要はないから、その日の内に必ず全容を把握する。それは営業だろうがなんだろうが関係ない。全体が把握できてないと、何にどれくらい時間を割けるのかも見えてこない。」

こうべは垂れなくていいから、返事をしろと思って常盤の反応を待ってみるものの、黙り込んだままだ。

「理央からは何て言われて渡された?」

「・・・今月中には覚えてと言われました。」

「他には?」

「一度、目を通しておくように、って・・・。」

「すぐに覚えなくてもいいから一度目を通すように、ってあいつはハッキリ君に説明してたし、そのための時間を与えてたと思うんだけど、その時何してた?」

実は聞くまでもなく真は知っていた。常盤は理央から指示された別の資料作りに着手して、そちらに倍の時間を費やしていたのだ。当然そちらの資料はきちんとしたものが出来上がっていたが、理央の設定した制限時間を無視して勝手に作業していたのだから、あまり褒められた話ではない。理央も常盤の面倒を見ることだけが仕事ではないので、常盤の行動に気付けていなかったのだろう。

少しでも自分を良く見せたい心情はわかる。けれどそんなことをしていても仕事ができるようにはならない。結局自分で自分の首を絞めているだけだ。

黙ってしまった常盤に内心溜息をつきつつ、威圧的にならないよう、真は理央の席について常盤と目線を合わせた。

「説明資料を読まずに、別の作業をしてただろう? 仕事は一人では進まない。一人が勝手な行動を取ると、足並みが崩れて、本当にやりたかったことが達成できなくなる。」

真の口調で強く叱責されるわけではないと悟ったのか、ようやく常盤が頷く。

「進行に疑問があれば君から理央に提案したって構わないんだよ。でも勝手な判断で何かが疎かになっていたら意味がない。できているはずのことがわかってないとなると、周りの予定が狂ってしまう。わかる?」

「・・・はい、すみません。」

「状況は正確に報告すること。取り繕うとツライのは自分だよ。」

真はすぐに資料を読むように言い渡して、自分のデスクに戻る。

本当はこの一時間も何をしていたのかと問い詰めたかったが、正直泣かれても面倒だと思い直してとどまる。

早く帰ってきてくれと理央の顔を思い浮かべて、天を仰いだ。













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