差し出された小さな箱は質感のある白の紙に真っ青なリボンが結わえてあった。既存にはなさそうなラッピングなので、おそらく自分でやったのだろう。中身ももしかしたら手作りかもしれない。
「開けてもいい?」
「うん!」
早く開けてと顔に書いてある。自分の反応を今か今かと待ち構えている歩の顔が可愛い。リボンを解いて、包装紙を破かないように慎重に取り払うと、歩が身を乗り出してくる。
「キーケース?」
「うん。だって、賢介、鍵に何も付けてないから。」
ゴソゴソと歩が自分の鞄をあさって、自分のキーケースを取り出す。
「お揃いで作ったんだ。」
「これ、作ったの!?」
「うん。革買ってきて、作ったんだよ。」
「すごい!」
照れながらも嬉しそうに種明かしをはじめた歩に、賢介も口元が緩む。
アタッシュケースに厳重に仕舞い込まれていたスケッチブックを引っ張り出して、見てくれと言わんばかりだ。散々賢介の心を乱してくれた例の手紙も目の前にある。
賢介にとっては歩の幼馴染は恋敵のようなものだ。相談されていた事実に複雑な心境にはなるものの、純粋に喜ばせたくて苦心していたと思えば納得するしかない。
「ホントだ。この刻印も歩がやったの?」
スケッチブックに描き起こされたデザインがそのまま革に再現されている。二人のイニシャルまでしっかり入って、正真正銘、二人だけのキーケース。
気に入ったキーホルダーも見つからなくて、剥き出しのままだった鍵は心許なかった。しかしこれならなくさないし、毎日使うものだから肌身離さず思い出の品を持ち歩けるのは嬉しい。
「ありがとう。すごく嬉しい。」
お腹も膨れて、歩の気持ちも貰って、ここ近年の誕生日の中で一番満たされた日。もっと欲張ってもいいだろうか。高まる気持ちのまま、歩に触れたくなってしまう。
「歩」
真新しいキーケースに、早速鍵を取り付けていた歩の手を止める。
「ッ・・・」
キスをする寸前まで顔を近付けてその先を強請ると、緊張したようにそっと唇を重ねてくる。
金属音とともにキーケースが床に落ちてしまったので、拾い上げてテーブルの上に置いた。
潤んだ瞳が賢介の動きを追いかけてくる。その視線を心地良く感じながら、手を重ねて、今度は賢介からキスを贈る。
歩の言動に振り回された日々なんて吹き飛ぶくらい、歩の気持ちが嬉しくて。
賢介が思うより遥かに、歩は気持ちを寄せてくれていた。だってあの幼馴染を巻き込むくらいなのだから。
心配になって落ち込んでいた自分がバカみたいに思える。どうしてこんな真っ直ぐ思ってくれる歩の気持ちを疑ったりしたのだろうと。
けれど歩にだって非はあると思う。あんな挙動不審になって隠し事をされたら、やましいことでもあるのではないかと疑いたくもなる。
でも最後に残った気持ちは、嬉しいの一言に尽きる。だからもう意地悪なことなど考えず、歩と甘い時間を過ごすことにした。
明日も学校はあるけれど。今日だけにするから許してくれるだろうか。
ベッドにチラリと視線を送ってお伺いを立てる。その視線に気付いた歩が落ち着きなく視線を泳がせていたが、結局抱かれる気になったらしい。賢介の服を掴んで、キスを返してくれる。
「賢介・・・」
初めてかと思うくらい、いつも緊張しながら困った顔をする。
「歩、可愛い。」
「ッ・・・可愛い、っていうのは、ちょっと・・・」
「可愛いよ。真っ赤。」
「ッ・・・」
首元に強く吸い付くと、白い肌に赤く痕がつく。自分のものだと実感できるこの瞬間が、密かな楽しみ。
「こっちも赤くなったね。」
吸い付いた痕を手でなぞって、もう一度しつこく吸い付く。
「ま、待って。そこ見えちゃうかも・・・」
今までだって散々してきたのだから、今さらだ。気付いていなかったのだとしたら、教えなければ良かったと少し後悔する。
歩の抗議を無視してベッドへ押し倒し、彼の恐怖心を煽らないように、ゆっくり服を取り払っていく。
「賢介・・・」
心細そうに呼ぶ声に手を重ねる。
「気持ちいいこと、しよう?」
「ッ・・・う、ん・・・」
恥ずかしそうにしながら、しっかり頷いた歩に気を良くして身体を重ねた。
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朝霧とおる