真剣な面持ちで幼馴染からの手紙を読む歩を見ていたくなくて、ベッドへ転がって天井ばかり見つめる。
アタッシュケースに仕舞い込んでいたスケッチブックを取り出してメモらしきものを取ったり、また手紙に視線を戻して唸ってみたり。行動から内容を推察するには難しい反応だった。
天井を見上げながら、結局のところ全神経は歩へと注がれている。けれど気にしている自分に気付かれたくないという妙なプライドが邪魔をして、口が裂けても手紙の内容は聞けない。
けれどせっかく二人でいるのに、その時間を蔑ろにされるのは納得がいかない。明日から二人とも大学通いの日々だから、時間の都合がつかない日も増えていく。
「歩」
「うん?」
恋人が呼んでいるっていうのに、歩は幼馴染からの手紙に夢中だ。視線がこちらへ向くことはなく、ふわふわと浮いたような返事を寄越す。
「歩、こっち来て。」
「あ、もう寝る?」
歩は明日から荒波に乗るのだから、今夜はしっかり抱いてマーキングしておきたい。
「したいな。」
「ッ・・・。」
はっきり言わなければ伝わらないから、どうしても言葉は直球になる。
お酒による火照りはすでに引いている。歩の顔が赤く染まったのは唐突な求愛に恥ずかしがっているからだ。
賢介からしてみれば唐突でもなんでもないけれど、歩からしたら脈絡なく思えるのだろう。
お酒を飲んで、隙をさらして、全く油断ならない恋人。
「ね、しよう?」
「・・・うん。」
手紙とスケッチブックをアタッシュケースに仕舞い込んで、恥ずかしそうにやってきた恋人に、放置されて悶々としていた気持ちが薄らいでいく。
だって可愛いから。困ったような顔でたどたどしいキスをくれる恋人を愛しいと思わないわけがない。
「ッ・・・ん・・・」
キスの味がいつもと違う。今日はアルコールをたっぷりとまとっている。
こんな蕩けた顔をどこかでさらしてしまうのではないかと、気が気ではない。
もっと警戒してよ。心の中でそう呟いて、噛み付くようなキスをする。必死に応えようと息を上げて目を潤ませる歩に陥落して、彼を組み敷いた。
「ぁ・・・待って、明日・・・」
「わかってるよ。明日あるもんね。」
でも今日は熱を解放するだけでは許してあげない。身体中にキスをして、自分のものだという証をつける。誰かに見咎められたって構わない。
「ん・・・ふぅ・・・」
性急な気持ちとは裏腹に、優しい手付きで暴いていく。服の間から白い肌が顔を出して、触れてくれと言わんばかりにさらされる。
しっとりとした肌に唇を寄せて、少しきつめに吸い上げる。鼻から抜けた甘い声が上がって、服の上からでも見えるだろう位置に紅い痕を残していく。
「・・・ッ・・・あ、賢介ッ・・・」
くすぐったいのか痛いのか、歩が身体をよじって逃げていこうとする。しかしそれを許さずに再びしっかりと捕まえて痕をつけることに専念していると、歩が抗議の声を上げた。
「ね、賢介・・・いつも、みたいに・・・しない、の?」
「後でするよ。」
「ッ、ヤダ・・・お腹、イヤ・・・ッ・・・」
モゾモゾと落ち着きなく動く歩は、どうやらくすぐったいらしい。目に涙を浮かべて嫌だと言われたら、もっと仕掛けたくなるのが人間だ。
歩の抗議を無視して、腹部に吸い付いていると、視界に歩の昂りが飛び込んでくる。
触れてほしいと主張して上を向くそれに指を絡めると、色気のない驚いた声が上がった。
「うわッ・・・待っ、て・・・」
いつものようにしてほしいと強請ってきたのは自分のくせに、逐一驚いて啜り泣く歩が愛おしい。
「ふぅ・・・あ、ヤダ・・・」
嫌だという反応ではない。気持ち良くてどうしたらいいのかわからないという顔だ。
「気持ちいい?」
「んッ・・・ッ・・・」
恥ずかしながらも必死に頷いてくる姿に煽られて、賢介は自分の前を寛げて、自身の昂りを歩に押し付ける。
マーキングは一時中断。もうここまできたら、一緒に気持ち良くなってしまいたい。
二人の昂りを握って擦ると、腰が砕けてしまいそうな快感が身体を駆け巡る。一人でするのと二人でするのと、やっていることは相違ないはずなのに、気持ち良さが全く違うのはとても不思議だ。
「ぁ・・・でるッ・・・ん、すけ・・・」
泣きそうな震える声に誘われて、賢介の下半身にもドッと熱が集まる。
「んッ、イく・・・けん、す、け・・・あッ、ん・・・んッ・・・」
気が高まるままに白濁の蜜を散らせた歩と時を同じくして、賢介も先端から精を放った。
「はぁ・・・あゆ、む・・・ッ・・・」
二人で快感の波に揺られて、思い思いに甘い痺れを味わう。
一足先にその波から抜け出した賢介は、歩の身体を抱き締めて、彼の身体に刻印を押していく。
「あッ・・・や、だ・・・」
敏感になっていた肌を強く吸われて、身体に痺れが走ったのだろう。しかし身悶えて啜り泣く姿に余計煽られる。
「賢介・・・やっぱり、怒ってる・・・」
歩の訴えに首を横へ振って否と応える。
本当に怒ってはいない。けれど歩の言う通り怒っているフリをして聞き出すのも一つの手かもしれない。
「教えてよ。何、隠してるの?」
「ッ・・・もうちょっとだけ、秘密・・・。」
知られたくないことは、どうやら期限付きらしい。歩はこうと決めたら譲らないたちだけど、今回は本当に強情だと思う。
「もうちょっと、ってどのくらい?」
「来週の水曜日。」
それまた随分具体的な期日だ。
「・・・わかった。来週の水曜日ね。」
攻撃の手を緩めた賢介にホッとしたらしい歩が、全身から力を抜いていく。心配そうな瞳で見上げてきたから、ちょっと大人気ないことをしてしまったかと反省し、所在なさそうに彷徨う歩の手を握って、ゆっくり唇を重ねる。
そしてふと頭をよぎった考えに喜びかけて、歩の顔をこっそり盗み見る。確信はないけれど、微かに灯った光に、もう一度包み込むような口付けをした。
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朝霧とおる