どんな顔してあの写真を拾うのか、そればかりが気になっていたが、歩は特段顔色を変えたわけではなかった。落ちているのを見つけて、テーブルの上に拾っただけだ。どこかに仕舞うのかと思ったら、そういう素振りもない。
無造作に置かれた写真に意識は釘付けなのに、結局何も問いただすことはできなかった。
「歩、何してるの?」
ベッドで横になっているだけなのはつまらない。けれど起き上がろうとするたびに心配そうな目で見つめられて、渋々ベッドと仲良くしていた。
「うん、ちょっと・・・。」
こちらに背を向けて、歩はテーブルで何やら書き物をしている。時々幼馴染と写った例の写真に目を落としながら手紙らしきものを書いている。
「誰かに手紙?」
「ッ・・・」
賢介の声に驚いた顔で振り向いてきて、慌ただしく片付けようとする。その行動に不審感を募らせるのはある意味当然だ。
「あ、いや・・・ちょっと・・・。」
先ほどから曖昧な返事を繰り返す歩に、少しの苛立ちと大きな不安が、賢介の心に影を落とした。
歩が挙動不審になるのは、何か隠し事がある証拠。問い詰めるのは簡単だけれど、歩の方から折れて話してくれることを心のどこかでは期待している。
「俺には言えないこと?」
「えっと・・・ごめん・・・。」
しかし結局我慢ができずに踏み込んでしまう自分がいる。しかも何のことかもわからないまま謝られるなんて最悪だ。
「シャワー浴びてこようかな。」
「・・・うん。身体、冷やさないようにね。」
強引な話題転換をして、逃げるようにシャワールームへ向かう。
気まずい気持ちを引きずったまま、背中に歩の視線を感じ続けた。
* * *
微熱と薬の効き目のおかげで、心がモヤモヤしていたわりにはぐっすり寝入った翌朝。
テーブルの上に書き上げられた一通の手紙は、宛名がオオテラサトシ。住所はアメリカだった。
封筒を恨めしく見てしまう自分の狭量加減に肩を落とす。
幼馴染に手紙を出すくらい快く許してあげたい。けれど相手が相手なだけに気になってしまう。
昨夜テーブルの上に置かれていた写真は、いつの間にか仕舞いこまれたようで、今は影も形もない。
「まだ、好きなのかな・・・。」
当の本人は洗面所で陽気に鼻唄を歌っている。
信用していないとか、そういうことではない。
けれど昨夜書きかけの手紙を慌てて片付けたことが気になる。見られたくなかったということだ。
しかしその後の彼の様子を見ると深刻な素振りはない。でも隠し事をされていることには違いない。
「もう・・・。」
このぐちゃぐちゃ考えてしまう性格をどうにかしたい。
投げやりに封筒を一瞥して、着替えはじめる。
「賢介。もう、起きて平気なの?」
「・・・うん、大丈夫。」
こちらの不穏をよそに、歩は機嫌が良さそうだ。
「歩、楽しそうだね。」
「うん!」
恨みがましく言ったつもりだったのに、張り切った応えが返ってきて面喰らう。
「だって、賢介とずっと一緒にいられるから。」
「ッ・・・。」
歩のたった一言に急浮上できる自分。さっきまでの落ち込み具合が嘘のように気が晴れてしまう。自分がとても現金な生き物であるかのような気がして、ちょっと納得がいかない。
「賢介が具合悪いのに、こんなこと言ったら変かもしれないけど・・・。なんか、嬉しくて。ずっと看病できるじゃん?」
彼の言葉に赤面する。同棲をこんな喜んでくれる歩を疑うなんて、熱にやられてどうかしていたかもしれない。
歩はちゃんと自分とのことを真剣に考えてくれている。一緒にいることを喜んでくれているのだ。
もうちょっと彼を信じてあげられないと、バチが当たるかもしれない。
「賢介、ご飯食べられそう?」
「うん。」
キッチンで忙しなく働き始めた歩の背中を見て、胸のつかえが少し小さくなった。
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朝霧とおる