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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

特別な日3【賢介編】

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特別な日3【賢介編】

息苦しさで目が覚めたのは、記憶にある限り初めてだ。昨夜から巻き付いていた歩が、さらに腕と足の力を強めて、賢介を抱き枕にしていたのだ。

「う・・・」

朝陽がカーテンの隙間からチラチラと揺れて見える。

なんとか首を回して見た壁掛け時計の針は、朝の八時過ぎを指していた。

頭が微かに重い気がする。心持ち、身体も怠い。嫌な予感に眉をひそめつつ、春先でまだ寒いというのに、布団一枚かけずに寝てしまったことに気付く。

回らない頭で歩の束縛から解かれようともがいてみるものの、すぐに疲れが身体を襲った。

「う、ん・・・ん・・・」

賢介が派手に動いたこともあってか、歩の瞼が呻き声とともに動きはじめる。

「歩」

「うん・・・?」

「朝だよ。」

「うん・・・あれ?」

近距離に賢介の姿が飛び込んできたからだろう。眠気まなこがあっという間に大きく見開かれる。

「ご、ごめん・・・」

慌てて身体を離そうとした歩が、急に顔をしかめて賢介の目を覗き込んでくる。

「賢介、凄く熱い・・・」

両手を賢介の頬に当て、すぐに額をくっつけてくる。

「賢介、風邪? 熱、あるんじゃない?」

「大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないよ!」

そんな泣きそうな顔で慌てなくても大丈夫だよ、と言いたかったけれど、喉がかすれて言葉が声にならなかった。

「どうしよう・・・」

「どうもしないよ。寝てれば大丈夫。」

「でも・・・ほら、病院とか・・・」

「大丈夫だから、落ち着いて。」

「・・・うん・・・」

気怠い身体を起こして体温を測ると三十七度。騒ぐほどのことでもない。夜に身体が冷えて、熱が出てしまっただけだろう。

心配そうに覗き込んでくる歩に、もう一度大丈夫だと言って、ノロノロと重い身体で身支度をはじめる。

「駅前に内科があるから行ってくるよ。」

このくらいの熱ならいつもは行かない。寝ていれば治る。しかしこうでも言わないと、歩の心配性に火をつけてしまうだろう。

「一緒に行こうか?」

「一人で行けるよ。だから、ご飯お願い。」

「・・・わかった。何かあったら、すぐ連絡してね。」

「うん。」

昨夜、妙に我慢がきかなかったのも不調のサインだったのかもしれない。頭を振ると視界がフラフラと揺れた。
 * * *
やはりただの風邪だった。よく寝て、よく食べ、身体を温めて、と当たり障りのないことを言われて薬を処方された。

歩が慌ただしく玄関を出て行ったのは、夕飯の買い出しのためだ。後ろ髪引かれるように、そして一刻も早く戻るために出掛けていった背中をベッドの中で見送る。

「痛ッ・・・」

身体の節々がつらい。急に老け込んだ気分になる。大人しく寝ている所為で、身体が凝り固まってしまうのだ。

水分でも補給しようとベッドから起き上がって、床に落ちていたものに目が留まる。

写真だった。でも、ただの写真ではない。

「歩・・・」

そしてその隣りに写るのは歩の幼馴染。歩が好きだった人。もしかしたら、今も好きかもしれない人。

拾いかけて、すぐに手を引っ込めた。

卒業式と書いてある立て看板が、写真の右端に見える。歩の卒業式に幼馴染の彼は来ていないはず。アメリカにいると聞いているし、何より写真の中の歩の髪型が今とは違う。だからこれは一年前の写真だろう。

見なかったフリをして、そのまま冷蔵庫の前に立つ。

歩は自分といることを選んでくれたはず。だから彼はこの部屋に来てくれたのだと信じている。

けれど熱で弱った頭が、不安な気持ちを呼び起こす。

きっと悪意なんてない。大事な思い出だから持ってきたのだろう。器用に隠し通してくれない歩が、少し恨めしい。

久々にひいてしまった風邪よりも、明らかに写真の方に打ちのめされた。このまま歩の顔を見たら、感情的になってしまいそうだ。けれどそんな醜態をさらしたくない。

麦茶を早々に喉へと流し込んで、急いでベッドへ舞い戻る。いつまでも頭にチラつく幼馴染の影が賢介を憂鬱にさせた。












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