先にシャワーを勧めて、後から入ろうとしたらすぐに脇をすり抜けていくし、ベッドへ戻ってみたら恋人はすでに夢の中だった。
同棲初日のテンションが、歩と自分とでは明らかに違うようだ。歩が疎いのは知っているが、それでも期待していた自分の読みの甘さにガックリと肩を落とした。
こんなことならシャワーと共に昂ぶってしまった気を洗い流してくればよかった。しかしもう一度シャワーへ向かうのも億劫だ。
並んで入ったベッドで健やかに眠る歩が少し恨めしい。
歩だって自分と同じ健全な男子だと思うのだが、付き合いはじめて誘われた試しがない。
触れれば可愛く乱れるけれど、手を出さなければそれまでだ。自分たちの間に存在するこの差は何だろう。想いの丈の差だったりしたら、落ち込みたくもなる。
「歩」
耳元で呼んでみるけれど、応えはない。悲しいくらいぐっすりと寝入っている。
鼻をくすぐるシャンプーの匂いが下半身に響いてきて、しばらく悶々としていた賢介だったが、覚悟を決めて自身の前を寛げた。
「もう・・・」
擦ればすぐに終わる。今夜は相手を想像する必要すらない。だって目の前に無防備な寝顔を晒している。
「歩のバカ。」
ちょっと大きな声で悪態をついたのは、歩が起きてくれることを少しだけ期待したから。しかし願いも虚しく、身じろぎひとつしない。
半ば自棄になりながら自分の昂りに手を伸ばす。
安らかに眠っている恋人の顔を見ながら慰めるなんて、いけないことをしている気分になる。一方で興奮してしまう自分もいる。
最低だと思いながら、気持ちが良い。この分だと、きっといつもより早く終わりがやってくるだろう。
「歩・・・ッ・・・」
呼んでみるが、やはり応答はない。代わりに手の中で硬くなっていたものが、競り上がってきた熱で爆ぜそうになっていた。
「・・・ぅ・・・ん・・・」
もう幾度も経験したことのある絶頂だった。歩に背を向けて、硬茎を包んだティッシュの中へ欲望を吐き出す。
恋人が隣りにいるからこそ虚しくなる。歩の手に触れてもらえたら、きっとそれだけで天にも昇る気持ちになっただろうけど。
「歩・・・」
すっかり脱力した声で恋人の名を呟く。するとその声に応えるようにゴソゴソと隣りで動きはじめたので、後ろめたさから賢介は身体を強張らせる。
「歩?」
「うん・・・」
彷徨うようにこちらへ手を伸ばしてきた後、賢介を抱き枕にするようにしがみついてくる。
嬉しいやら、悲しいやら。正直こんな状態では寝られない。
寝心地のいい場所を見つけたのか、抱きついたまま息をついて、再び深い眠りに落ちていってしまう。
「はぁ・・・」
吐精した気怠さはあるのに、頭が妙な興奮状態から抜け出せず眠気がこない。
賢介は睡魔がやってくることを祈りながら、豆電球で照らされている天井の染みを数え始めた。
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朝霧とおる