忍者ブログ

とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

特別な日11【歩編】

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

特別な日11【歩編】

悟史に手紙を書いた。片岡に喜んでほしくて、誕生日に何かしようと思い立ったものの、なかなか良い案が浮かばなかったからだ。

相談できる相手も限られるし、お金や時間にも限りがある。

自分の不注意でうっかり見られそうになったが、多分片岡に内容までは見られていないと思う。

何か知恵を授けてくれと、ポストに手を合わせてエアメールを送った。

電子メールを送るのは簡単だけど、大事な恋人のサプライズのためにそれでは味気ない気がして。

引っ越しのドタバタでたまたま出てきた一枚の写真。悟史のお母さんが高校の門の前で撮ってくれたものだ。

悟史はほとんど何も持たずに単身アメリカへ行ったと聞いていたから、思い出話に花を咲かせるつもりで、出てきた写真もついでに送った。

時間って不思議だ。本当に悟史への気持ちを思い出に変えてくれたのだから。片岡と日々を重ねていくうちに、悟史のことをどうして好きだったのか思い出せないくらいになっている。

随分、自分は泣いた。片岡を傷付けて、それでもそばに居てくれる彼の手を掴んだのだ。

一緒に暮らそうと言われて、舞い上がるほど嬉しかった。

料理ができるよ、なんて息巻いたけれど、実のところ片岡と同棲する一ヶ月前まで大したことはできなかった。

幸いにも元々手先は器用なほうだったが、料理本を買ってきて、片っ端から特訓したことは内緒にしておこう。

片岡が毎日自分の作ったご飯を食べて、幸せを噛み締めてくれたら、なんて浮ついたことをちょっと思っていたりする。

一緒のベッドで寝ることは、まだ少し慣れない。心臓が轟音立ててしまうこともしばしば。

片岡は至って冷静な顔をしているけれど、時々何かスイッチでも入ったかのように熱い目をして見てくることがある。その時はたいてい手を伸ばしてきて、二人で恋人らしいことをする。

正真正銘、恋人だから文句など何もないけど、心臓が爆発してしまいそうで、本当に困るのだ。

初めて触れ合った時、すぐに慣れるものなのかなと思っていたけれど、身体が、というより、心が追いつかない。

気持ち良くて、もっと触れてほしいと身体は訴えてくる反面、自分がどんな顔をさらしているのかわからなくて恥ずかしくなる。

変な声も出るし、顔も熱くなるし、当分慣れることなどなさそうだ。

それでも胸がいっぱいになる。触れてくる手がとても優しいから、大事にされていると心底満たさせるのだ。

悟史への手紙には、そんな大好きな恋人のために何かできることがないかアドバイスを求めた。誰とは明確に書いてはいないが、自分からの手紙を見て、冷静に勘付いているかもしれない。

しかし物理的な距離もあるし、昔からこの身の恥をさらしまくってきた幼馴染なだけに、見透かされていたとしても開き直れる。

お金や時間をかけられないと明記して、返ってきた答えが料理だった。

片岡のために特訓していたくせに、なぜ自分でそこに気付けなかったのだろうと頭を抱えつつ、やはり冷静沈着な幼馴染に感謝した。

そして普段使うもので手製の物を贈ってみては、と追伸があり、以前から興味のあった革小物に早速着手したのだ。

作るのはキーケース。剥き出しのままの鍵で出入りしている彼を見て、すぐに思い至った。何度もスケッチブックへ描いては、ああでもない、こうでもないと繰り返す。

途中何度も片岡の視線を遮って、大学で機械や工具を拝借して完成させた。上手くいったから二人分作ってお揃いにしたのは名案だったと思う。

片岡は過度な装飾品を好まないから、レザーも落ち着いた濃いめの茶系を使い、二人のイニシャルとシンプルな文様をボタン周辺のみに施した。

週末に料理の材料を買い込んで綿密にレシピを立てた。初挑戦のものはあえて避けて、絶対失敗しないものだけを選んだ。

どうせ作るなら自信のある美味しいものを食べてほしい。張り切って作り過ぎてしまった感があるものの、味は上出来だと満足していた最中、階段を上がってくる音がする。

隣りの人かもしれないけれど、クラッカーを手に取り電気を消す。

一度目は空振りで終わったが、二度目の足音は歩と片岡の部屋の前で止まった。

息を潜めていると鍵が回る音がして、空気の出入りを感じ、ドアが閉まっていくと同時に人の気配めがけてクラッカーの紐を引いた。

驚いて息を呑んだ音がする。大成功だ。

あかりをつけて片岡の顔を見て、おめでとうを言う。

生まれてきてくれて、ありがとう。

好きになってくれて、大切にしてくれて、ありがとう。

片岡の溢れる優しさに、いつだって自分は救われてきたのだから、感謝してもしきれない。

彼の嬉しそうな顔に、こちらもつい頬が緩む。

好きな人が生まれた日は、自分にとっても特別な日。

キス一つにもまだまだ緊張してしまうけど。大好きな気持ちをたくさん込めて、歩は片岡の口付けを受け止めた。













-----------------------------------------
「隣り」番外編第一弾。
お付き合いいただきまして、ありがとうございます。
高校生だった時と「この手を取るなら」のちょうど間のお話しです。
振り回されっぱなしの賢介を楽しんで書きました。
いかがでしたか?(大汗)

明日からは「隣り」番外編第二弾。
全4話と短いですが、また足を運んでいただけたら嬉しいです!


それでは!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N


Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる
PR

コメント

プロフィール

HN:
朝霧とおる
性別:
非公開

P R

フリーエリア