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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花28

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幸せを呼ぶ花28

おばさんから、香月がどれだけの事を聞いているのか知らない。蓮の事以外にも何か聞いていることがあるんだろうか。誰かのフィルターを通して自分の事が伝わっているなら、少し気恥ずかしいし落ち着かない。

二人で焼香をして手を合わせてきた帰り道。蓮の実家から香月の家まではさほど距離もない。今日は店を臨時休業しているらしく、真っ直ぐと彼の家へ向かう。あっという間に着いてしまった彼の家の前で、上がり込むかどうか少し迷った。

「上がっていって下さい。聞きたい事がないと言えばウソになるけど、話したくなければ、無理にとは言いませんよ。」

「じゃあ・・・お言葉に甘える。」

そして上がり込んだリビングで並びあって座った。向かい合わせじゃなくて、隣りというポジションを選んでくれた香月に感謝する。心の中で渦巻く気持ちを、未だに整理できず、混乱していたからだ。

「ねぇ、勝田さん。」

香月が豆から挽いてくれた芳しいコーヒーの香りを纏いながら、二人で虚空を眺めて話す。

「彼のこと、好きでしたか?」

優しく穏やかな問い掛けに、素直に頷く。けれど喉に詰まって声までは出なかった。

「俺ね、そのままの勝田さんで良いんです。今の幸せを見失うほど真っ直ぐに、ただ一人の人を想う勝田さんが好きです。」

自分の周りに立ちはだかっていた高い厚い壁を少しずつ崩してきた香月。彼の優しい言葉に、最後の砦が崩れ始めた。

取り戻せはしない幸せを探し続けて疲弊した自分は、確かに今を生きてはいないのかもしれない。

「でも過去を追い掛けてばかりいたら、勝田さんの今はどうなっちゃうんですか?」

香月の言葉が胸を突いて、ほろ苦さが身体全体へと広がっていく。そして今の自分の幸せを想ってくれているのが、目の前にいる彼なのだと気付く。

幸せになれよと蓮は言った。その託された願いと約束をどう果たせばよいのかわからないまま彷徨っていた自分。

「俺と一緒にいることが心地良いって思ってくれるなら、一緒にいましょうよ。」

心地良い。香月といる時間は穏やかで安心して、心に小さな灯火がともる。声を掛けられたばかりの頃に感じていた激しい熱は形を潜め、今はそっと包み込むような安らぎだけを彼はくれる。

「今を後悔してほしくありません。今、幸せじゃなかったら、きっとその事をいつか後悔しますよ。」

自分に今を後悔しない生き方ができるだろうか。香月へと手を伸ばせば、そんな優しい日常が待っているんだろうか。

「後悔に時間を費やせるほど、人生って長くない。蓮さんは、それを俺たちに教えてくれているじゃないですか。」

そうだったな、と香月に言われた言葉が心に落ちてくる。蓮は自らそれを証明したんだ。安らかな笑みを浮かべて眠った彼は、決して何かを悔いてはいなかった。

「俺、あなたに好きだって言わせたかった。だけど今は違うんです。」

好きな人に好きだと言ってもらいたいという当たり前の感情を、香月が否定したので不思議に思って彼の目を見つめた。

「死ぬ時、一緒にいられて良かった、って言わせたい。」

胸が苦しいほど締め付けられたと同時に、嬉しいと思う気持ちが湧いてくる。それほど想われている事実が、ただただ心を温めた。

「難しいこと、考えないで下さい。一人で寂しい思いするくらいなら、俺と一緒にいることを選んで欲しい。俺が隣りにいちゃ、ダメですか?」

震えそうになる声を堪えて、掠れた声で言い返す。

「君のこと、都合の良い相手にしたいわけじゃない。」

「俺がそれでも良いって言ったら?」

「・・・そんなの、ズルい・・・俺、断れないよ。」

「狡くもなりますよ。あなたといたいから。」

「・・・。」

「先の事なんて誰にもわからない。だから今望むままを生きればいいじゃないですか。」

好きだと言われるより、ただ一緒にいたいと言ってくれる言葉が心に響く。甘く心を突いて、少しずつ身体を侵食していく。

この甘い囁きと誘いに、乗ってみても良いだろうか。片足を乗せたところでまだ躊躇している自分。

けれどそんな自分の心を見透かすように、そっと手を重ねてきた香月の手の温もりに、ついに勝田は陥落した。

「香月くん」

「はい」

「・・・一緒にいて」

「もちろんです。」

「一緒にいたい」

「俺もです。」

目の前でそっと微笑んだ香月が、重ねた手をそのままに、そっと唇を攫っていく。触れるだけの口付けが物足りなくて、勝田は自ら香月の身体を引き寄せる。

再び触れた唇は温かくて柔らかかった。引き寄せた身体から伝わってくる鼓動は気持ち速く鳴っている気がする。

「緊張してる?」

香月が照れ臭そうに俯くのが面白くて、もう一度自分から仕掛けて口付けた。

魂を揺さぶるような激しい恋だけが全てではない。こういう穏やかでいられる関係も、また一つの愛のカタチなのだと知る。

どちらからともなく交わし続けるキスが、勝田の心を覆っていた壁を、ようやく全て取り払った。
















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