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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花26

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幸せを呼ぶ花26

蓮の命日には花を贈らない。なぜなら彼の両親がいつも花束を見繕っているからだ。自分はしつこいくらい彼の月命日に贈ってしまっているから、命日くらい家族の時間にしてやりたい。そんな風に心の整理をしていた。

営業部長になってからは手持ちで駆け回る仕事がほとんどなくなった。だから余程酷いトラブルにでも巻き込まれない限り、蓮の命日に有給で休みを取る事は難しくない。

月に一度、蓮と自分だけだった世界に、いつの間にか香月がそっと寄り添うようになった。土足で踏み込まれている感覚はない。香月の存在はとても自然に自分と蓮との間に入ってきた。

香月と自分の相性は良いと思う。大人になってこんなに誰かに傾倒できる自分を想像したことなどなかった。漠然と、蓮を想いながら一人朽ちていくだけだと思っていたからだ。

香月の家で二泊三日世話になって以降、仕事が少し立て込んでいて、九月に入って一度、花を見繕ってもらった時しか会っていなかった。しかしそれだけの時間でも不思議と香月に会うだけで、疲れや憂いが和らぐのだ。

蓮の実家に顔を出した後、店に顔を出そう。いつも手ぶらで悪いから、今日は何か差し入れでも持って行こうか。そう思うと心が少しずつ浮き足立っていった。

蓮の実家のインターフォンを鳴らすと、おばさんが応答してくれる。しかし出迎えてくれたのは彼女だけでなく、この後会うものだとばかり思っていた香月の姿もあった。

「ようこそ、勝田くん。お久しぶりね。元気にしてた?」

「ご無沙汰しています。おばさんこそ、お元気にされてましたか?」

もちろんよ、と笑顔で出迎えてくれた彼女の隣りで、香月が気まずそうに苦笑いをしている。どうしてここにいるのかと問いたい気持ちもあったが、動揺して上手く言葉も出ない。

「こちらはね、香月先生。お花の教室でお世話になってる先生で、蓮に供える花も、今日は見繕っていただいたのよ。とっても綺麗なの。勝田くんも、後でゆっくり見ていってね。」

「はい・・・」

何も知らない彼女だけが、おっとりと紹介を続ける。

「あ、香月先生。こちらは、蓮の幼馴染みで・・・」

「存じております。ね、勝田さん。」

「あらまぁ、そうなの?」

「勝田さんとは、お友だちでして。」

何と説明する気なのか一瞬ヒヤリとしたが、香月は店の客だとは言わなかった。正直ホッとした。何のために花を毎月買っているのか知られたら、おばさんは何を思うだろうかと気が気ではなかったからだ。

「それは良かったわ。気兼ねしなくて済むものね。勝田くんもどうぞ上がってちょうだい。」

「はい。お邪魔します。」

おばさんに持ってきたお茶菓子を渡す。まさか香月がここにいるとは思っていなかったから、彼にも同じ物を用意してしまった。香月の方に顔を向けると頷いたので、彼の分もおばさんに渡す。

台所へ彼女が姿を消した後、小声で香月に問う。

「俺がここへ来るって知ってたの?」

「知りませんよ。もしかしたら、って全く思ってなかったわけではないですけど。」

首を傾げると穏やかな顔で、淡々と告げてくる。

「斎藤さんの息子さんの話を伺ってたのは、勝田さんとまだちゃんと話したことがなかった頃ですよ。勝田さんが花を贈っていた相手と、斎藤さんの息子さんが同じ人だったのはビックリです。」

「世の中って狭いね。悪い事できないな・・・」

「悪い事してるわけじゃないでしょ。」

「どうだろ・・・」

確かに悪いことではないんだろうけど、居た堪れないというか落ち着かない。誰に対してそういう感情を抱いているのか、考えるまでもなく香月だという結論に至って、軽くはない衝撃を受ける。

気にしている。香月の反応を。いつまでも幼馴染みへの感情を持て余している自分に、香月が幻滅しないか心配になっている。

何度打ち消しても消えないその感情。もうこの心は香月に囚われているのだと認めるしかないではないか。

「勝田さん。ホントに、ただの幼馴染み?」

自分に合わせて小声で問うてきた香月の目は思いのほか優しい眼差しだった。責めてるわけじゃない、そう諭すような目に、苦笑いをして小さく首を振る。

「そりゃ、そうですよね・・・」

深い溜息をした香月の様子を恐る恐る確かめる。しかしスルリと手と手が触れて、おばさんがリビングへと戻ってきたのを合図に、彼の手は何事もなかったように離れていった。









 








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