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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

大掃除1

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大掃除1

換気扇の掃除なんて、一人暮らしの頃はやったためしがなかったなと思い起こす。そもそも料理をしなかったから、完全にその感覚は勝田の中で欠落していた。

香月は毎日料理を作る。ここ一年くらいは時折栄養バランスを気にされて、昼用に弁当を差し出されて見送られることもあるくらい。同僚の目につかないところで蓋を開けて、彩り豊かな弁当に舌鼓をうつ。弁当を持たせてもらえる日は、一日モチベーションも高くて自分でも現金だと思うけれど、彼のいない場所でも、終始香月の優しさに包まれているような気がして幸せだ。もうその気持ちを否定しようなんていう、無粋な考えはない。

香月が換気扇を解体するのをジッと眺める。器用に取り外していく彼を尊敬の眼差しで見つめ、勝田は部品を受け取っては次々と洗剤に浸けていった。

「これで全部です。洗っちゃいましょう。」

「うん。」

二人でキッチンに立つことはあまりない。香月が手際良く調理している背中を、満たされた気持ちで眺めていることの方が圧倒的に多い。自分のテリトリーとは呼ぶことのできない場所で並び立つことは新鮮だ。少しだけ早く打ち始める心臓に、無性に照れて落ち着かない。

時々、忙しなく動かす腕がぶつかる距離感。視線は洗い物に注ぎつつも意識は常に香月の方にあるから、彼がこちらに視線を向けてきたことはすぐに気付いた。そして何の前触れもなく、ごく自然に唇が頬に触れて離れていく。そして柔らかく弾力のある香月の唇が、ふわりと微笑んだ。

「手伝ってもらえて嬉しいです。」

「ゴメン。大した戦力じゃないよね。」

「一緒にできるから嬉しいですよ。」

「そっか。」

ストレートに喜びを口にされると、心を掴まれてしまう。惚れ切っているはずなのに、この気持ちにはさらに先があるように感じるのだ。

香月と過ごす時間は、あらゆる経験が全く無と化してしまうほど甘く予測不可能だ。いつ心臓が跳ねるかは未知だし、勝田のペースで進ませてくれない。

付き合い始めた頃は、どちらかというと振り回していたのは自分の方。しかし今となっては手綱を引いているのは香月だと思う。勝田の心に上手く侵食してきて、閉じていた心を軟化し開放させた。

「凌さん、あとは俺が洗いますから、そこの布で拭いてもらえますか?」

「わかった。」

上手く舵を握っている。勝田の自尊心を傷つけることなく気を遣い、その技は香月を器用な男だと証明している。

カッコいいところを見せつけられると、対抗心が湧くか呑まれて昂揚感に浸っていたくなるかのどちらかだ。今日は後者だった。掃除を始める前は午後をゆっくり寛ぎの時間に充てることしか考えていなかったけれど、すっかり今では甘い囁きに満たされて官能的な時間が欲しくなっていた。

「ねぇ、皐。」

「なんですか?」

「午後はどうする?」

別に意味深な聞き方だったはずはないのに、香月の目が悪戯っぽく笑って、勝田を動揺させるには十分な質問を投げかけてきた。

「ソファとベッド、どっちがいいですか?」

「・・・そ、そういう意味じゃ・・・」

期待していた。だから尚更察してきた彼に居た堪れなさをおぼえる。顔に出ていたかな。しかしそんな敏い彼だからこそ、一歩踏み出せない自分にはぴったりなパートナーだと言える。

「二択です。それ以外はダメですよ。」

楽し気に微笑んでくる香月から視線をそらし、黙々と洗い物に手を伸ばして水分を拭っていく。

「これ、早く終わらせましょうね。」

上機嫌な香月を横目に、拗ねたフリをして無言を貫こうとする。しかし彼の弾む晴れやかな顔に勝てなくて、小声でベッドを所望した。









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