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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

些細なこと6

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些細なこと6

鍛えたということは、体力もついたのではと期待して、結果屍のようにベッドで疲労困憊している恋人を見て反省した。

明日、勝田は通常に出社できるだろうか。大変怪しい状況に苦笑いするしかない。

けれど二人で息を途切らせて、勝田の中を蹂躙するのは久しぶりだった。頭のてっぺんから足の爪の先まで満たされているのが自分でもわかる。勝田も満更ではない顔で、震える身体を抱き締めて、啄むようなキスを繰り返す。

「勝田さん、もともと細身なんだから、気にすることないですよ。」

汗でしっとりと濡れた肌に唇を落とす。

「ん・・・」

首に強く吸い付いて唇を離すと赤い痕が付く。思いのほか、勝田が一瞬驚いた顔で皐を見て、恥ずかしそうに首もとに手を当てて目を逸らした。

太ったら嫌がられるとでも思ったのだろうか。勝田を不安にさせていたのなら、それはむしろ皐の責任だ。とても大切だと態度や言葉で尽くしてきたつもりだったけれど、足りていなかったのかもしれない。

斎藤夫人に言われるまで勝田の変化に気付けなかったことも悔しい。

今思えば、確かに一ヶ月ほど前、前兆があった。夕飯を残した日だ。結局翌朝は食べて出勤していたが、浮かない顔だった。

皐が店を閉めて自宅に戻る頃には、勝田は何食わぬ顔でリビングに鎮座していたから気付かなかったが、あの頃からサッパリと湯上りのことが多かった気がする。

しかし洗濯物はというと、トレーニングウェアなどは見当たらなかった。もしかしたらコインランドリーでも使っていたのだろうかと思い巡らせてみたものの、頑固な彼に刺激は禁物だ。深追いして問いただすのはやめることにした。

「皐は・・・平気?」

「え?」

「・・・。」

太ってしまったことに対して好き嫌いを聞かれているのかと一瞬思ったが、勝田が腕の中で心臓の音を確かめるように顔をすり寄せて耳を当ててくる。

恋人が皐の体調のことを聞いているのだとわかって、心臓がギュッと掴まれたように切なく疼く。
勝田は大切な人を病気で亡くしている。安易に大丈夫だなんて言っても、彼の心の闇を深くしてしまうだけだと思った。

「異常は感じないですけど、今度人間ドッグでも行ってきますね。あと三年で四十の大台に乗りますし。」

腕の中でホッとしたような溜息を聞いて、間違えなかった自分に安堵する。しがみつくように抱きついてきている勝田には心臓が跳ねて早く打っていることがバレているだろうけど、勝田はそれ以上この話題を掘り下げてくることはなかった。

いつも殊勝な人なのに、何でも簡単なように乗り越えていくように見えるのに、この人に巣食う心の傷はまだ完全には癒えてないのだと知る。きっと死ぬまで抱え続けるのだろうから、皐も無関係ではいられない。

それでも自分と一緒にいて笑ってくれるなら、作ったご飯を美味しそうに食べ、当たり前のように隣りで安心して眠ってくれるなら、皐としては何の不満もない。

だから、太ったことを気にしてご飯を美味しく食べられなくなってしまうのは困った話だなと思う。そんなことで罪悪感を抱いてほしいわけではないのに。

「凌さん、運動とか食事とか、俺にもサポートできることがあるなら言ってくださいね。」

「・・・うん。ありがとう」

筋肉質になり過ぎるのも考えものだけど、別に目指すところがそこでないのなら勝田の好きにさせたい。それで彼の罪悪感がなくなるのなら、むしろ応援してあげたい。

「ごめんなさい。明日、会社行けそうですか?」

「なんとか、する・・・。」

腰をさすると勝田が気持ち良さそうにうっとりと目を閉じる。規則正しい静かな呼吸が聞こえ始めたら、身体の力がフッと抜けて、そのまま恋人は夢の中へ落ちていった。











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引き続き香月×勝田で2話お届けいたします。

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