朝食の支度をしていると、スルリと腰に手が回って背中に温もりを感じる。
「和希・・・眠い・・・」
寒い日が続くので、優希が擦り寄ってくる頻度が高い。
「和希、行っちゃうの?」
わかりきっていることを、何故か優希が確認してくる。優希は休みだが、和希は仕事だ。稼ぎ時の年末最後の日曜日、しかも仕事納めにシェフが休むなど言語道断だ。
「今日は夜、遅いから。」
「待ってる。」
「優希は明日仕事納めなんだから、ちゃんと早く寝て。」
「・・・。」
背中にへばりついていて顔は見えないが、むくれているのは容易に想像がつく。何でも一緒を望むところは、ずっと変わっていない。外では物分りが良いのに、和希にだけは我儘放題なのも変わっていない。粘れば和希が折れると思っているのだ。
「しっかり食べて、早く休んで。俺、打ち上げあるから相当遅いよ。」
「・・・。」
思い通りにならないのが不服らしい。背中にぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「あともう少しの辛抱だろ?」
「じゃあ、和希・・・」
前を覗き込んでくる優希の目は、獲物を捕らえる狩人の目だ。そういうところを目の当たりにすると、やっぱり優希も男なんだと思う。
「明日の夜、約束だよ。」
簡潔に言えば、抱いてくれということだ。勝手に約束を押し付けていくと、身体が未練もなさそうに離れていく。背後で気持ち良さそうに伸びをして、着替えるためなのか寝室へと戻っていった。
「ホント、勝手なんだよなぁ。」
小さく溜息をつきながらも、本心は嬉しい。十年以上関係があるのに、倦怠期とは無縁だ。激しく求め合うことは時に疲れる。ぶつかり合って摩擦することもあるからだ。
しかしそれを乗り越えた先には深い理解がある。自分たちはそれを知っているからこそ、きっとこの先も互いの手を離すことはないだろう。
トマトスープに生クリームをほんの少し加える。個々に主張していたものが、混ぜていくと徐々に溶け合っていく。それを幾度か繰り返して、最後に塩胡椒で味を整えた。味見をすると、今日も良い出来だ。
二人の関係もそうやってなくてはならない存在として互いを高め合っていく。三十代に突入して、ようやく身に染みて感じるようになった。
優希のマイペースさや我儘は淡々としがちな二人の日常にとって、ちょっとしたスパイス。和希にとって、それもなくてはならないものなのだ。
寝室から陽気な鼻歌が聞こえてくる。鍋を火から下ろして、和希は口許に笑みを浮かべた。
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朝霧とおる
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