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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

忘年会3

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忘年会3

白衣を着た自分を見ただけで悲鳴を上げる子。かと思えば寡黙に注射針を見つめて終始固まっている子。子どもの数だけ反応も様々だ。

目の前に座る彼は、口を開けて欲しいと言っても堅く口を閉じている。別に痛い事をするわけではない。ただ喉や口内に炎症がないか確かめたいだけなのだが、怖いと思えばそれまで。大人の事情など知ったことではない。

優希は仕方なく看護師に彼の鼻を摘んでもらう。鼻を塞げば息ができず苦しくなり、口を開けるのは時間の問題なのだ。もちろん親御さんの許可はもらい、安全を十分考慮した上でやる。

間もなく、意図した通りにぱかっと口を開き、その隙に喉奥と口内を確かめた。真っ赤な喉を確認して、優希は看護師に頷く。

すでに大泣きな彼の首に手を当てて、触診でリンパ腺の張りを確かめた。彼から手を離すと、ぐるりと反転して母親の胸元に飛び込んでいく。逃げようと必死な姿にうっかり笑いそうになるが、努めて冷静に向き合い、微笑みを忘れず彼に話かける。

「よく頑張ったね。これで終わりだよ。」

「もう・・・しない?」

涙目の彼が恐る恐る振り向く。

「うん。もう終わり。おうちで、ゆっくり休むんだよ。」

「うん・・・」

終わったと聞き、あからさまにホッとした顔をする。今日は高熱だったため、事前にインフルエンザの罹患を確かめるための血液検査をした。つまり注射だ。それですっかり怖気付いた彼は、今日は終始やる事なす事に怯えていたわけだ。

具合が悪いのに泣いてばかりでさぞかし体力を消耗しただろうと思いきや、終わったとわかると母親の腕から降り立って、診察室の中を歩き回ろうとする。すっかり心は解放されて、良い気分なのだろう。

「夜はさらに熱が上がる事が考えられますから、気を付けて下さい。本人の意図しないところで無意識に歩き回ったりすることもあるかもしれません。」

「一緒に寝てますから、起きれば気付きますので、それは大丈夫だと思います。」

「この二日が山場かと思います。熱が下がっても、しばらくウイルスは体内から排出される状態ですから、ご家族の方もマスクをして、しっかり睡眠を取って、対策されて下さい。あと、人混みもできれば避けるようにして下さい。他の人に移さない、という意味もありますが、弱っている時に他の病気をさらに貰わないようにするためでもあります。」

「わかりました。」

もぞもぞと母親の腕の中で動き回る彼が優希を見つめる。まだ話が終わらないの、と不満げな眼差しだ。

「何か聞いておきたいことはありますか?」

「いえ、大丈夫です。」

「そうですか。痙攣が起きたり、他に症状が出てくるようなことがあれば、夜間も受け付けていますので、診察券の裏にある番号に電話を下さい。」

「ありがとうございます。」

「お大事に。」

もう一度小さな彼に微笑むと、嬉しそうに手を振り返してきた。解放されて心底嬉しそうだ。

子どもの頃は、自分も病院が嫌いだった。今の彼以上に泣き叫んでいた気がする。反対に和希はそんな自分をいつも心配そうに眺めては慰めてくれた。

子どもの頃に戻りたいと思うわけではない。今の幸せを手放せるとは思えないからだ。過去は愛おしく、切なく、そして時折温かい。だから過去を懐かしむ気持ちは悪いものではない。

きっとこの小さい彼にもたくさんの出会いがある。弱い自分を奮い立たせてくれるだけの良い縁に恵まれることを願って、もう一度小さな彼に手を振って診察室からその背中を見送った。















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