優希と和希に会った時、面白いものを見るように和泉の目が細められたのを隣りで眺めていた。双子と言われても、俄かには信じがたいくらい、あの双子は似ていない。背格好も顔も全く似ても似つかない二卵性だ。
和泉は二十年以上教師をやっているわけだから、人覚えが良くてもその記憶に残るのはなかなか難しいだろう。彼の場合、一単位のクラスではなく、全校生徒が対象となるからだ。
「あの、ちっこい方は見覚えあるぞ。」
「あぁ、優希の方?」
だから優希のことだけでも記憶にあるのは凄いことだ。教師の記憶力は侮れない。
「ちっこい方は入学当初、口がきけなかっただろ? 内気そうだったし、教師たちの間で要注意だったんだよ。双子だったってとこまでは覚えてたけど、弟の方は全然知らなかったな。記憶にない。」
和泉が特に悪気もなさそうに断言する。問題児の方が教師の記憶に残るとはよく言ったものだが、やはりそれは事実なんだろう。
「それに卒業間近はよく保健室に来てたな。」
「あぁ・・・。和希と微妙な時期で、不安定だったからなぁ。」
「泣いてばっかりでな。ただ、落ち込んでるわりには、成績に響いてないのが、あの年頃にしては奇跡だけど。」
優希は無鉄砲なようで、結構現実は見ている。案外ちゃっかりしていて、努力も怠らない。ただの甘えん坊ではない。だから要もこれだけ長く友人としての関係を築いてこれたのだ。
「優希はね、ちゃんと努力ができる子だったよ。何が得意で、何が足りてないのかわかってる。唯一、和希に対してだけは振り切れちゃってるところがあるけど、根は真面目だよ。」
その振り切れているところが問題なのだが、本人たちは納得しているのだから誰かに不利益があるわけではない。あるとすれば、親を傷付けるということだろう。
「おまえの一個下だっけ?」
「そう。」
「料理人の方は面構えも落ち着いてるけど、ちっこい方は三十代に見えないな。あれで医者ってのが驚きだけど。舐められるんじゃないのか?」
「小児科医だから、強面よりいいんじゃない?」
「へぇ。面倒見るっていうよりも、一緒に戯れてるイメージだな。」
所詮、他人事だから話のノリも軽い。優希は年輩の医師たちに、いつまでもひよっ子扱いされることに大層ご立腹だ。要と会うたびに、その事で口を尖らせている。そういう反応をするから余計に突かれるのだろうけれど、要もあえてそこは指摘しない。優希の話を聞くだけだ。
「そういえば、達也さん。なんで今年、四人でパーティーしようなんて言い出したの?」
「おまえが懐に入れてる人間って珍しいだろ? 話を聞いてる限りだと、あいつら、いかにもトラブルメーカーなタイプで、楽しそうじゃん。」
ちょっかいを出す気満々な和泉の顔を見て、要も口元が緩む。和泉は元来イタズラ好きだ。年季の入っている大人を舐めてはいけない。格好の餌食となった事を知らないだろう二人に心の中で合掌する。
たまには騒がしい年末もいいかもしれない。双子の顔を思い浮かべて、要は和泉と笑い合った。
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