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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

先生8

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先生8

和泉には一つ不思議に思っている事がある。何故あの時、要がいきなり告白してくる気になったのか、ということだ。ゲイであることを明かしたはずはないのに、その辺りを完全に飛び越えて、恋人にして欲しいと要は言ってきた。それまで気付かれるほどの接点もなかったはずだし、そこだけが長年の疑問だった。今まで機会を逃して聞きそびれていたが、単なる昔話として聞いてみるのも良いかもしれない。

和泉の作ったパスタで昼ご飯を済ませ、ソファでお茶を飲みながら寛ぐ。二人ともコーヒーや紅茶より緑茶が好きで、ジジ臭いと笑い合いながら啜る。まったりと和やかに過ごすこの時間が和泉は好きだ。

「要、ちょっと昔話をしていい?」

「昔話?」

「おまえ、俺がゲイだって最初から気付いてたよな?」

和泉が問うと、片眉を上げて不思議そうな面を返してくる。

「なんだ。興味ないのかな、って思ってたけど、もしかしたら気にしてた? 聞いたら達也さん頭抱えるかも。」

珍しく愉快そうに笑う要にますます知りたくなる。若干嫌な予感がしつつも話を促した。

「ラブホから男と出てきた。」

「・・・。」

確かに頭を抱えたくなる。しかし心当たりはあるので、否定もできない。

「生徒に見られるのは、さすがにアウトだな・・・」

苦笑いで返せば、可笑しいのを堪えるように笑ってくる。

「でも達也さんに見つかってたら、俺の方が補導されてたかも。例の界隈だからさ。」

「そりゃ、ダメだな。」

二人で過去の失態を笑う。もう十年以上も前の話だ。誰かに指摘されたところで、とっくに時効だろう。

「だってあの時の俺には、まともな捌け口なんてなかったから。」

寂しそうな要の顔を見て、頷き返す。思春期にゲイだと自覚して恋に迷う苦しさを、和泉も嫌というほどわかる。そして自分が異質な存在であると責め、それでも這い上がろうとする辛さも知っている。

「溜まるもんは溜まるしな。」

「うん。」

どうしようもない大人と、ぶつけようのない燻りを抱えた子ども。その運命が交差して、十年以上も共に過ごしてきたなんて、不思議な縁もあるものだ。

「ホテルから一緒に出てきた人って、恋人じゃないでしょ?」

「違うな。社会人になってから特定の相手と付き合ったことはないから・・・。責めないんだ?」

「だって・・・俺もやってたことは同じだし。誰かと抱き合う事と、誰かを好きでいる事は別物だったから。」

果たして彼はいつから自分のことを好きだったのだろう。

「俺はね、入学式に初めておまえを見て、一目惚れ。」

和泉の言葉に、要は目を見開いて驚いた顔をする。

「一目惚れ? だって、何で・・・」

「新入生代表の挨拶、やったろ?」

「え? うそ。あれで?」

微笑んで頷けば、要は呆れたような顔をした。けれど長年の付き合いから、その仕草が照れ隠しなのは知っている。

「おまえが意識したのは、男といるのを見かけたからか?」

「うん・・・。なんか、負けた気分・・・。」

「大人の片想いを甘く見るなよ。年季入ってるだろ?」

耳を赤くしてそっぽを向く要が面白くもあり、愛おしくなる。

「・・・達也さん。俺ね、脅してでも付き合ってやるって思ってた。」

「現に脅しただろ。」

「妄想だけどんどん膨らんじゃって・・・。」

「困った高校生だな。」

拗ねたように睨んでくる瞳も怖くない。そんな顔をしても和泉にとっては可愛いだけだ。

「おまえ、真っ直ぐだったよな。今もあんまり変わらないけど。でもな、当時は付き合うことはないだろう、って思ってた。告白は過去の思い出にして、おまえは卒業していくんだろうな、って。」

「信じてなかったの?」

「信じてないというよりは、好きな人がコロコロ変わる時期だろ? すぐ俺を好きだったことも忘れるだろう、って思ってたんだよ。」

「酷いなぁ。」

言いながらも、どこか言い方は楽しげだ。要と自分の過ごした十年は同じようで違う。最初から大人だった自分と、少年から大人へと駆け上がった要。人生の激動期、その時期をずっと側で見てきた。

飽きることなく、よく自分の側にいたものだな、と感心すらする。手放せたかと聞かれれば否だが、彼が後悔していないのか、全く気にならないと言ったら嘘になる。

「達也さん、何か変な事考えてるでしょ?」

「別に。」

「俺、後悔した事なんて一度もないよ。」

迷いのない目で言われ、心臓がキュッと掴まれたように苦しく、そして熱くなる。

「そうか・・・ありがとう、要。」

要のその言葉を聞けただけで、和泉は胸がいっぱいになった。好きな気持ちを返してもらえるのは、当たり前ではない。この先何があっても、この奇跡を絶対に手放したくはない。

二人で老夫婦のように湯呑みからお茶を啜る。いつまでもこの時間が続くように、和泉は願わずにはいられなかった。













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