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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

先生7

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先生7

整った鼻筋に、張りのある肌。信頼しきって隣りで眠る彼が愛おしい。一回り以上歳の離れたこの恋人が自分のものかと思うと、心が満たされる。誇り高くて強く、決して弱音を吐かない要は、自分にだけ甘える。それが嬉しくて堪らない。

要がまだ自分の生徒だった時、その姿を目で追いながらも、すぐに過ぎ去ってしまう存在だと諦めていた。けれど運命という存在を信じたくなるほど、要が真っ直ぐに自分へと向かってきたことで、自分の人生は大きく変わった。

全てが彼のために回り始めたと思いたくなるほど、自分の時間は要のために費やされている。けれどそれが間違えだとは思わないし、心が潤うのだから誰かにとやかく言われる筋合いはない。

「要」

呼んでも彼が目覚める気配はない。起こすために呼んだわけではないから、それでも構わなかった。

多くの生徒を迎えては送り出す日々。そんな中、新入生代表として挨拶をした要の姿を、和泉は今なお鮮明に覚えている。一瞬で心奪われてしまった。年下の、しかも生徒で、どう考えても好きになってはいけない相手だ。世間体で考えれば大問題だろう。

けれど惹かれてしまう心はどうすることもできない。ただ心の内に秘めて、隠し通すことだけが自分にできることだった。

凛と伸ばされた背筋。高くもなく低くもない、落ち着いたよく通る声。すらりとした長い手足。自分の好みのど真ん中で、好きになるなという方が無理だ。

けれど言うつもりはなかった。当たり前だ。どんな面を下げて告白すればいいというのだ。叶うはずのない、三年経てば消えゆく夢の中の住人。それが和泉にとっての大内要という生徒だった。

そんな夢の中の住人が現実のものとして舞い降りてきたのは、要が高校二年の時。体調を崩して初めて要が保健室へやってきた時のことだった。

「先生・・・。俺ね、好きな人がいて・・・」

好意を寄せる相手からの恋愛相談に、内心動揺していたが、努めて冷静に話を聞く振りをした。

「告白しても、絶対迷惑になるな、って思って。」

「迷惑かけても笑って許されるのが、子どもの特権だろ?」

半ば自棄になって言ったのだが、要は神妙な瞳を向けてきた。そして彼が発した言葉を、咄嗟には理解できなかった。

「俺ね、和泉先生が好き・・・。」

夢でも見ているのではないかと思った。現実がこんなドラマティックでたまるかと思ったくらいだ。要を見つめたまま黙っていると、要がさらに言葉を紡いでいく。

「先生の恋人になりたい。」

喉元まで出掛かった、教師としてあるまじき言葉を呑み込んで、努めて冷静を装い返事をする。

「大内」

「・・・。」

「おまえが生徒である以上は、そういうことにはならないよ。」

「じゃあ、生徒じゃなくなったら恋人になれる?」

すぐに切り返してきた要に面食らいながらも、折れずに和泉も言葉を重ねる。

「おまえが・・・それまで俺を好きならな。」

「和泉先生・・・卒業したら、俺のこと恋人にしてよ。」

「・・・。」

「約束してくれないなら、先生に襲われたって言いふらすから。」

「凄い脅しだな。」

「だって俺、先生が欲しい。」

若くて、真っ直ぐで、恐れを知らない。なんて純粋で馬鹿で愛おしいんだろう。移り気の激しい思春期だ。きっとそんな熱い想いをぶつけたことすら、あっという間に忘れてしまう。きっと自分は過去の思い出として埋もれてしまうに違いない。けれど縋るように彼を見つめて言葉を返す。

「わかった・・・。約束だ。」

しかしその後、要が保健室に来ることはなかった。唯一走り込んで来たのも、別の生徒が怪我で動けなくなり、それを知らせに来た時だけだ。

また一つ季節が巡り、数多くの生徒たちと同様、儚い思い出と共に彼を送り出すのだと思っていた。

しかし桜満開の卒業式を迎えたあの日、彼は卒業生代表として壇上へと上がり、確かに和泉の方へ視線を寄越してきた。交わった眼差しは一瞬。けれど彼の中にまだ確かな意志を感じて、和泉は落ち着かない気分で要の姿を目で追い続けた。

校庭で記念撮影を繰り広げていた生徒たち。その輪を抜けて要が自分のもとへやってきたのは日も沈みかけた頃だった。

「和泉先生。約束、覚えてる?」

覚えてるに決まってる。しかしただの思い出とされることが怖くて、浮かない気分で頷いた。

「約束・・・守ってよ。」

要のその言葉がどれだけ嬉しかったか、きっと要は知らない。それだけ自分の想いは本物だった。

グラウンドを走る彼の姿を目で追い、全校朝礼のたびに姿を探し、どれだけその存在を遠くに感じていたことか。

保健室でのあの約束は、自分の願望が見せた幻だったのではないかと思うくらい、要は和泉のもとへは近寄ってこなかった。

後になって、その当時の複雑な心境を要に話したことがある。しかし要は要で苦心していたらしい。会えば気持ちを返して欲しくなるから、意図的に会うのを避けていたという。随分と可愛いことを言ってくれる恋人だ。

彼が大学生の時は、同棲したいと言い張る要と、自立してもいないのに同棲など以ての外だと言い張る和泉とで、揉めに揉めた。けれど文句を垂れながらも、ずっと一緒にあり続けようとした自分たちは、きっと相性が良いのだ。

要は同棲の一件を除けば、心配になるくらい最初から大人だった。好きな人に対する猫被りなのかとも思っていたが、わりと早い段階で誰に対してもそうなのだと気付いた。

行き詰まった時、心の拠り所がなければ、どんなに強固な彼のメンタルも、きっと崩れる時がやってくる。

和泉は長い年月をかけ、要に甘えることを覚えさせた。自分を律せず、解放して、心を人に預ける術を身に付けて欲しいと心から願った。

昨夜、自分の腕の中で泣いた要。泣きたい時に泣かせてやれる存在が自分であることに優越感がある。

要は出会った頃より甘えることが上手くなった。和泉に言わせればまだ我が儘が足りないくらいだが、自分の腕の中で少しずつ固い鎧を取り払ってきてくれたことが嬉しい。他の誰でもない、自分だけに向けられた信頼と恋慕。もうどんな事があっても、他の誰かにくれてやる気はない。

「要、おまえは俺のものだ。」

「ん・・・」

少し身じろいだ要は、再び静かな寝息を立てて眠り始める。本人に返事をしたつもりはないだろうが、ここは都合良く解釈することにした。

「大丈夫。おまえなら、ちゃんと乗り越えられるよ。」

要の髪に指を通し、何度も撫で上げる。するともっとと強請るように身体を擦り寄せてきた。こういう事をされるから、堪らない気分になる。

甘え下手な恋人の滅多に見せない行動に微笑みながら、彼が目を覚ますその瞬間まで、和泉は彼の頭を撫で続けた。














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