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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

先生5

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先生5

和泉の待つ家までどうやって帰ったのか記憶が曖昧だ。玄関で出迎えてくれた和泉の驚く顔で、自分がずぶ濡れであることに初めて気付いた。

「要、おいで。」

和泉の衣服を濡らしてしまうと思い身体を引きかけたが、容易く抱き締められる。

「一緒に風呂でも入ろう。」

実家へ行くことも、カミングアウトすることも伝えてある。何が起きてしまったのか、和泉にはもうわかっているのだろう。けれど彼は何も聞いたりしなかった。ただ黙って要の手を引き、バスルームまで連れていく。

肌に張り付いた衣服を気持ち悪いと思う間もなく、纏っていたものを和泉の手が取り払っていく。優しい大きな手が肌の上を滑っていくと、彼の温かさが肌を伝ってきて安堵する。自分はちゃんと彼の元へ帰って来たのだと実感した。

「達也さん・・・」

和泉の手が頭を撫で、髪を梳く。そしてゆっくりと慈しむように、彼の唇が要の額へ運ばれた。大切にされていることを肌で感じて、肩の強張りが不思議なくらいスルスルと解けていく。

和泉がシャワーのコックを捻り、バスルームが湯気で満ちていく。熱い湯が勢いよく肌を刺激して、気怠げな身体と意識を呼び覚ました。それと同時に鼻がツンと疼き、込み上げてきたものを堪えるために唇を噛んで俯く。

「要」

包み込むような優しい声が涙腺を刺激する。抱き締められたら、もう涙を堪えることができなくなった。和泉の肩に顔を埋めて自ら抱きつく。

「泣きたかったんだろ? ちゃんと泣いとけ。」

背をさすられて、子どものようにあやされる。けれどその感覚はどこか懐かしくホッとした。込み上げるままに涙を流していく。プライドが高くて、滅多に人前で泣けない自分。こんな面倒な自分を鬱陶しがることもなく黙って全身で受け止めてくれる和泉は、やっぱり自分よりずっと大人だ。

何がいけなかったのか考える。けれどどれだけ考えても、自分には解決できる術がわからなかった。

自分の性的志向を頭ごなしに否定されることを覚悟していなかったわけではない。けれど想像を遥かに超えて、堪えている自分がいる。身構えているつもりで、どこか楽観的に考えていたのだろう。

受け入れてもらえなくても構わないだなんて、本気で思っていた。けれどそれが単なる強がりで、心の奥底では受け入れてもらえると期待していたのだ。しかしそれが叶わなかったことで、酷い裏切りにあったような気分になった。馬鹿で情けない自分。けれどそれでも和泉はこうして寄り添ってくれる。

泣くことはひどく久しぶりだった。和泉にしがみついて、彼の温もりに包まれる。

「ッ・・・わかってほしかった、だけなのに・・・」

「そうだよな。」

きっと和泉には言わなくても、この虚しさは伝わっている。彼は自分と同じ事に悩み、同じ辛さを味わったはずなのだから。言葉は少なくても、和泉の相槌は説得力があった。

明確な答えを望んでいるわけではない。ただこのやるせなさに共感して欲しいだけ。そして要にとって和泉という存在はそれができる唯一無二の人だ。

好きなだけ。ただその相手が自分と同じ性の人だった。自分が好きになるのは異性じゃない。自覚したばかりの頃は、自分が異質な存在で、自分のやる事成す事全てが否定されているような気分になった。

でも交友関係も増え、自分と同じ志向を持つ人に出会うことで、徐々に自分を肯定できるようになった。乗り越えられたんだと思っていたのに。

この虚しさは何だろう。縁を切るだなんて啖呵を切って、結局その状況に打ちのめされている自分。

わかって欲しかった。わかってもらうには時間が必要だ。そんな事は理性ではわかっている。でも、無条件に受け止めてくれる事を心のどこかで期待していた。それが叶わなくて落ち込んでいる。

自分はどうやら、想像していたほど大人にはなれていなかったのかもしれない。

うだうだと悩みつつも和泉の肩に身体を預けて泣いたら、幾分か気持ちがすっきりしてくる。和泉は要にとって究極の精神安定剤だ。

「達也さん、ありがと・・・」

「どういたしまして。」

泣いたのが気恥ずかしくて肩口から顔を離せずにいると、緩々と前を刺激される。どんなに挫けていても、触れられれば反応してしまう現金な身体。

「弱ってるおまえも可愛いね。」

「ッ・・・」

「元気になれること、しようか。」

「もうッ・・・」

口では悪態を吐きつつ、それでも触れられるのは嫌ではない。少しずつ硬く実り始めた前を見遣る。

和泉は要が望まないタイミングで仕掛けてくることはない。その辺りの案配が絶妙だ。今も、優しく包まれ溶かされたい欲求を要から感じ取り、望み通りにしようとしてくれていた。

何でこの人はわかるんだろう。長い年月を共にしてきたから、というわけではない。付き合い始めた時から要の望みを察する能力には長けていた。伊達に養護教諭をやっていない。要が生徒だった時から和泉の評判は良かったから、天職なのだろう。

「んッ・・・達也さん・・・」

優しく宥めるような手つきから、性的な意味を含んだ触れ方に変わる。甘い腰の疼きに早くも息が上がる。

「達也さん、きもち、い・・・これって、現実逃避、かな?」

「要。おまえはね、いったんこの働き過ぎてる頭を休ませなきゃダメだ。休むのは逃げる事とは違うよ。」

「でも・・・」

「おまえはちゃんと闘ってきたんだ。だから今は休みなさい。」

陰茎を包んでいた彼の手が離れる。その代わりに彼の熱が押し当てられた。腰を擦り合わせて、僅かに生じる刺激を拾い合って、緩やかに営みを楽しむ。

どちらからともなく啄むような口付けを交わし、腰を揺らす。しかし徐々にそれももどかしくなってきて抱き着くと、和泉が楽しげに微笑んだ。

「おいで、要。」

和泉の誘う声が好きだ。この声を聞くと、胸のざわつきが凪いでいく。導かれるままバスルームを出て寝室へと向かう。そっと組み敷かれた下で、和泉の重さに甘い溜息をついた。













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