隣りで小さく蹲って眠る愛しい存在を置いていくのは忍びない。けれど仕事があるので、そうも言っていられなかった。気持ち良さそうに寝ているのに起こしてしまうのは可哀想だけれど、黙って出ていけば帰ってきた時が恐ろしい。優希のことだ。一日中拗ねているだろう。
「優希、優希・・・起きて。」
「ん・・・」
ぼんやりした瞳がこちらをじっと見つめてくる。
「起こして、ごめん。俺さ、もう仕事行かなきゃ。」
「あ・・・そっか・・・」
「まだ寝てていいよ。」
寂しそうな顔を隠しもせず、しがみ付いてくる。けれど困らせるとわかっているのか、すぐに身体を離した。
「頑張って。」
「うん。」
寝落ちしてしまった優希を夜のうちにお風呂へ入れておいて良かったと思う。処理をするためとはいえ触れ合ってしまったら、また欲しくなってしまうだろう。昨日の営みだけではこの六年間を埋めるには足りない。
クローゼットの中から適当にシャツを引っ張り出し見繕う。ぶら下げてあるどのシャツも、実家にいる時には着ていなかったものだ。昨日優希が着ていた服にも見覚えがない。それだけ時の流れを感じた。
「和希」
「ん?」
「後悔してない?」
今更何を言い出すのだろうと一瞬訝しんで、けれど優希も同じように悩んでここまで辿り着いたのだと気付く。
「後悔してないよ。」
優希の目を見て、しっかり伝える。今ここで断言しなければ、一番大切なものを失ってしまう気がするからだ。
少し恥じらうように、けれど満足そうに微笑む優希を見て、ホッと肩を撫で下ろす。良くも悪くも彼の感情に振り回されて幸せを感じる自分は物好きだろう。けれど自分ほど上手く優希を扱える人間はいないだろうという自負がある。そこに優越感があり、この関係から抜け出せない要因にもなっている。
世間から見たら、自分たちの関係は歪んだものだ。欲を覚えてはいけない相手を欲し、身も心も捧げてしまった。一度この毒を吸えば、もうその心地良い沼から抜け出すことはできない。
「外出たい時は、この鍵使って。」
「合鍵?」
「違うよ。ここのは一本しかないから、俺の。」
「なんだ・・・」
あからさまにがっかり肩を落とした優希に、つい可笑しくなって吹き出す。
「優希」
「なに?」
口を尖らせて不機嫌なのを隠そうともしない彼に兼ねてから考えていたことを提案する。
「一緒に暮らそうか。」
大きな瞳を見開いて驚いた顔をした優希に言葉を続ける。
「一緒にいたい。」
「・・・うん。」
「誰にも祝福してはもらえないだろうけど、優希はそれでもいい?」
「うん。」
昨夜も泣いて涙腺が緩みっぱなしなのか、泣き出した優希に、耳元で泣き虫だと揶揄う。そんな揶揄いも気にせず嬉しそうに抱きついてくる小さい塊がただ愛おしかった。
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朝霧とおる
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